テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
シェアハウスの中で生活していく中で出来ていったルールもあって、そのうちの一つが女子組の帰りが遅くなる時には男子メンバーを呼ぶというものだった。
特定の担当を決めたわけではないのだが、生活リズムや価値観など合う合わないはあるのでおのずと来てもらう側迎えに行く側が決まってきた。
例えばるなだったらじゃぱぱ、ゆあんくん、どぬく。のあだったら、じゃぱぱ、たっつんのように。
高校生のるなやインドア派ののあは、帰りが早かったり、遅くなるにしても時々だったりするのだが、大学生のえとはまさしく遊びたい盛りでもあり、人間関係の構築という意味でも遅くなることが多くメンバーの呼び出し率も高いのは致し方なかった。以前、あまりにも遅くなる日が続いたときに遠慮してしまうことがあったのだが、心配したじゃぱぱ、のあ、るなに叱られて以来遠慮せずに迎えを呼ぶようになった。
ちなみに、えとがよく頼むのはなおきり、シヴァ、そして今日も迎えに来てくれたうりである。
なおきりは単純に超夜型人間だからなのと、シヴァは迎えに来てくれたお礼を遠慮なく受け取ってくれるからだった。
うりも、お礼を素直に受け取ってくれる上にきちんとめんどくさかったら断ってくれるのがえとがついつい彼にお願いしてしまう理由の大きな一つである。なおきりとシヴァもバサッと無理なら無理と断ってはくれるけれども。
三人に断られたら苦渋の決断でオカンであるたっつんを呼んで女の子なのだから気をつけなくちゃと愛ある説教を受けながら帰るのだ。
「今日もごめんねー。ありがと、助かる」
「別にいいけど久々じゃね?」
「あははー」
明らかに笑ってごまかすえとにうりはじとっとした視線をよこす。
「いやあ、まあぶっちゃけるとタクったりぃ」
「おう」
「女の子のお友達のお家に泊まったりぃ」
「おう」
「終電逃したから漫喫で時間潰したりしてた」
「最後の絶対アウトだな」
「わかってるよ。もふくんにはバレられん論破されるわ」
「まあ、みんな心配がゆえだからなあ」
わかってるんだけどとこぼすえとに気持ちはわかるけどなとうりは返す。
「えとさんってヒロくん呼んだりとかせんの?」
「ヒロくん?」
「なおきりさん、シヴァさん、俺を呼ぶのはわかるけど、それならヒロくんもそこら辺な枠なような気がするんやけど」
あー、とえとは何か思うところがあるようだ。
「いや、たまにお願いするよ」
「えっ、そうなん。知らんかった」
「たまにね。たまに。あの人諸刃の剣?ってやつだからだいぶ切り札なんよ」
「わかるような、わからないような?」
「なんかあ。食事会とか経験として参加した合コンとかで」
「合コン!?」
「いやいや、まあまあ。別にドウコウトカデハナイデスヨ」
「思いっきしカタコトやし」
「行ってみたいじゃん!一回くらいはー!行ったことあんでしょ!うりだって!」
「まあまあまあまあ」
今度はえとがうりにじとっとした視線を送った。それはいいとしてとうりは仕切り直し、ヒロの話へと軌道修正した。
「ヒロくんの話ね」
「そうそう」
「そこそこ程度のやつにイケメンマウント取られてイラッとしたときに、ガチモンのイケメンをぶつけてやろうと思って」
うりは思い切り吹き出して、腹を抱えて笑い始める。
「なーにそれ!めちゃくちゃ面白ぇ話持ってんじゃんか」
詳しく聞きたいからとドラッグストアに寄って、公園で話してから帰ることになった。うりは速攻でグループLINEにそれっぽい連絡を入れていた。
うりはレモンサワーとつまみ、えとはミルクティーを選び、会計はうりが出してくれた。よっぽど話題が面白かったのだろう。
「そもそもイケメンマウントってなに?」
「あれだけ楽しそうだったのに今更?」
話の流れが面白過ぎてとうりは笑い、えとも笑う。
「わたし、ちょい小柄やん」
「そうね」
以前うりに140cmというあだ名を撮影でつけられ、リアル身長も小さいといじられた過去があるくらいには小柄だったりする。
普段はうりたち男子からしたらどうやって歩いているのかと疑問に思うほど高いヒールで身長を盛っているので気にならないが、座敷の店だとそこがわかりやすいのでいじられたりするのだろう。
「わかりやすいので言えば、思ったより小さくてかわいいね。頭なでなでーみたいな流れな」
「あぁ」
「いや、勝手に触ってんじゃねーぞって」
「それはなあ」
「彼氏♡とか、好きぴ♡なら嬉しいかもだけど、そうでもないやつに触られて嬉しい人なんていねーからって話じゃん。痴漢だよ痴漢」
未だに燻っているのか思ったよりもヒートアップするえとをそうだよねーと宥めながら話を促す。
「ごめんごめん。あとは、今はからぴちの活動もあるからこそ恋愛に積極的でいようって感じじゃなくて」
「おーん」
「だから、今は彼氏とか付き合うのに興味ないかなみたいな世間話をするわけじゃん。話をふられたらさ」
「そうよな」
「するとそこで出てくるのが、オレが彼氏の良さを教えてあげようか系と恋愛しないのは勿体無いからオレどう?系」
えとの独特の言い回しにうりは崩れるように笑う。
「メンバーとは付き合わんよ?付き合わんけど、面白くて、才能もあって、努力もできて、ゲームの趣味もあうし、仕事になるレベルにはイケメン達に囲まれてんのにあえてお前にいかねーよって思うわけよ」
うりは自分は除外しても確かにと思うとさらに笑いに誘われて苦しいくらいだ。
「でしょお!だから、そういうときに、うちの圧倒的イケメン様ヒロくんに迎えに来てもらって、その日できたゲームバランスを全部ぶっ壊してもらうことにしてるってわけよ」
「やべぇな。イケるぞこれってなっても、あんなんきたらもうフルリセットよたいてい」
「そう、たいていフルリセットになるんよ」
ヒーヒー笑ううりにえともゲラゲラ笑っている。
しかし、えとはでもねと切り出すと表情をすんっと消す。うりもつられてすんっとなる。
「勘違い野郎のゲームはフルリセットなんだけど、女子達からしたらそこからゲームスタートになるんよね」
うりは深くあぁと納得した。男子を退治はできても、急に現れたハイレベルなイケメンに女子たちのボルテージが上がるのも理解できる。えともある程度そこを狙った行動なのだから。
しかし、その後始末はなかなかにやっかいだろう。
「次の日、あのイケメンは誰!?彼氏!?紹介して!が始まるんだよねー」
「だろうな」
「まあ、だから彼女いるってことにしちゃうけど。わたしとヒロくん交友関係、行動範囲被ってないから。ヒロくんからもそういって誤魔化しとけって言われてるから」
まあ、そういう着地になるよなとそろそろうりの方も予想外がなくなってきた。
「いやあ、でもヒロくんが無双してるとこめちゃくちゃおもろいやろうなあ」
「めちゃくちゃ面白いよ。バッサーって、その上ズキュンズキュンって」
「今度その展開のときオレも呼んでよ」
「えー、それはさすがにオーバーキルすぎん?うちのイケメン代表を二人もなんてかわいそう!」
「お、オレも割と評価高かった」
「自覚あるくせによくいうよー!」
「えとさんもアルコール入っとる?」
「シラフだよー」
まあでもとえとが切り出す。
「オーバーキルも一回は見てみたいかもね」
「おう、任せとけそこらへん焼け野原よ」
「自分でいうかー?ふつう」
うりは飲み切ったレモンサワーの缶を軽く握りつぶした。そろそろいい時間だろうとふたりはゆるゆると歩きはじめる。
「じゃあ、もう一人の正統派イケメンも呼ぼうかな」
「え、誰?」
「誰ってなくない?」
「いや、確かにみんなイケメンだけど、黙ってればなやつの方が多いじゃんか」
「うりも含めてな」
「そうそうオレも含めて、っておーい!」
えとはゲラゲラ笑っている。
「なおきりさんだよなおきりさん」
「あぁー。あの人トンチキさが目立つから忘れてたけど確かに顔整っとるよな。黙ってるとほんときれいな顔立ちしてんなあってたまに思うもんオレ」
「でしょ、だからあ。正統派のヒロくんとなおきりさんに、いかつめ系統のうりという最強布陣よ。向かう所敵なしだね」
「オレらつえぇええええ」
「つぇえええええ」
うりとえとはそのハイテンションのまま家に帰ると、連絡を受けて待っていたたっつんともふに遅いと愛あるお説教をうけたのだった。
だって、面白かったんだもの!
コメント
1件
なんだろう、ほんとに尊いとしか言えません…小説が書くの上手いとこんなに感動するんだなって(?)思いしましたありがとうこざいます