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痛い、痛い。
嫌だ、逃げたい。
ねぇ、誰か。
助けて。
そう何度思ったか。
でも、その願いは叶わなかった。
段々私たちは洗脳されていく。
「……神様、私たちの願いをお叶えください」
みんなそう言って、壊れていく。
「か、神様……わ、私たちの、ね…願いをお叶え……」
段々、私も洗脳されていく。
みんなと同じことをずっと繰り返していく。
仲が良かった人達、知らない人達、みんな繰り返して喋る。
口が勝手に動く。
やだ、やだ、やだ。
助けて、助けて、助けて。
「神様、私たちの……ね、願いをお叶えくだ…」
食事も喉を通らない。
やだ、眠れない。
忘れられない。
あの気味の悪い日々を。
無理やり、口に食を押し込む。
「……」
味が分からない。
時間帯も、分からない。
ここに来てどれくらい経っただろう。
私、死ぬのかも……
「こんにちは」
ある日、口に食を押し込んでいたら、誰かに声をかけられた。
髪の長い女性。
一言で言えば、元気っ子。
可愛くて、愛らしくて、幸せそうな子。
「こ、こんにち……は」
上手く喋れない。
あの言葉以外上手く喋れない。
「一人だけ食べてる人が居たからどーしたのかなって」
「こうでも……しないと、し…死んじゃうから。」
声が震える。
やだ、生きたいの。
死にたくないの。
だから、食べなきゃ。
そういう思いが一斉に頭に流れる。
「そっか……あたし、莉奈。貴方は?」
「わ、私は。し、志乃……」
「あたしは今日ここに来たばかりだから色々教えてくれない?」
なんで私が?
一瞬そう思ったけど、渋々頷いた。
「志乃ちゃんかぁ〜!あたしの大切な友達!」
頷いた時、莉奈は満面の笑みで笑っていた。
なんで嬉しいの?
なんで笑えるの?
なんでここに来た時点で終わりだって事が分からないの?
普通じゃないでしょ?
なのに、なんで?
「あら、探索できたかしら?」
高く綺麗な声。
その声に私は咄嗟に振り向く。
「…っ」
やっぱりだ。
髪を後ろで束ねてある、綺麗な女。
一般だったら、美人と言うのだろう。
でも、私たちからすれば違う。
こいつは悪魔だ。
「あらあら、志乃……どうしたの?そんなに怖い顔をしちゃってさぁ。」
優しく肩に手を置いてくる。
やめて。
私の名前を気安く呼ばないで。
その汚らわしい手で私に触らないで。
やめて、憎悪と怒りが増しそうだから。
笑顔に暗い表情。
異常な宗教。
全て嫌。
やだ、そんな表情で私を見ないで。
こんな所に私を連れてこないで。
「な……何もないから」
そう言い、席を離れる。
「あら」
貴方の言いたいことは分かる。
まだ喋れるのねってことでしょう?
みんな、喋れないしご飯も食べられない。
中には死ぬ人が続出している。
そんな中で私だけが残っているんだから。
『うっわ、志乃の周りの奴らまた死んでるよw』
『ほんとだ〜、さっすが死神w』
『ちょっと〜、本人の目の前でそれ言う〜w?』
『あ、ほんとだ。ごめんね、影薄くて分かんなかったのw』
『それはまじやばいって〜w』
やだ、やめて。
言わないで。
そんな軽蔑した目で見ないで。
私が何をしたって言うの?
悪かったのはこの宗教。
この私じゃない。
やだ、やだ。
あれから2年。
莉奈は相変わらず、話してくれてとても楽しかった。
「莉奈……」
薄く目を開ける女。
あの時と大違いだ。
もう、喋れるようにもなってきた。
だから、莉奈と喋りたい。
「……あの時と立場逆転だね…」
彼女は横たわったまま、苦笑する。
「そ、う……だ、ね」
一文字一文字、大切に喋る姿が尊い。
もう喋れないのだろうか。
その命が尊い。
「莉奈……私って莉奈の支えに、なれたのかな。」
もちろん、と頷く姿はあの時と同じままだった。
私の年下なのに私より老いぼれているように見える。
まだ若いのに。
こんなに老けて見えるなんて。
「莉奈……あの時、声をかけてくれてありがとう」
彼女は頷いた。
いつの間にか目に涙が溜まっていた。
「莉奈が声をかけてくれたからすっごく楽しかったよ……」
すぐに洗脳されて、あまり喋れなくなっていったけど。
でも、これだけは言える。
「私、今まででとても幸せだった。」
この事実は、貴方がくれたもの。
私が絶望していた時に、希望をくれたのは貴方だから。
あなたは野口とは違うとても素晴らしい人間だから。
だから、できるだけ生きて欲しい。
死なないで欲しい。
私はここから出るけど、時々会いに来るから。
だからその時は笑って出迎えてよ。
また案内してあげるからさ。
「莉奈……今までありがとう」
そう言うと莉奈は「こちらこそ」と言い、笑っていた。
私は彼女にあるものを手渡して、宗教を出た。
貰ったものを広げると紙だった。
小さいけど丁寧に作られた紙。
と、最初はどデカい字で書いてあった。
いつもありがとう。
読んでいる時、私はそばにいないと思う。
だから、ここに全てを記します。
あの時、声をかけてくれてありがとう。
とっても楽しかったし、いい思い出になった。
宗教から出たら、色んな人に莉奈のこと言いふらそうと思う。
そんな悪い意味で受け取らないでねっ!?
こんな素晴らしい人間が居たんだよってみんなに言おうと思うってことだからね!?
ねぇ、宗教にまた遊びに来るからさ。
だから、その時は元気で待っててね。
私って莉奈の支えになれたのかな?
なれたならいいけど……
それより、莉奈はどうだった?
私は莉奈と一緒にいた時間、とっても楽しかったよ。
行がないから、さっさと言うね!?
私は莉奈と出逢えて良かったし、莉奈もそうだったらいいな。
莉奈程いい人はいないから、また逢いたい。
今世では二度と逢えなかったとしても。
あれから半年に会いに行った時は
その時には、莉奈は生きていたし様態は変わらなかった。
でも、それから半年経つと莉奈は星になった。
暗闇で光る星に。
そして今、葬儀に出ている。
遺影に映る莉奈は笑顔で幸せそうだった。
なのに、棺桶に横たわる彼女は老人のように嗄れていた。
「……莉奈。」
あの時、また半年後に会おうねって約束していたのに。
なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。
莉奈が死んじゃうの?
死ぬのに相応しくない人なのに。
「……やっぱり、世の中って不公平だ……」
なんで野口みたいなやつが生きてて、莉奈が死んじゃうの?
「志乃ちゃん、よね? 」
50代半ばくらいの人が私に話しかけていた。
「……はい、そうですけど」
「あ、良かった……これ、莉奈が志乃ちゃんにってッ……」
手渡されたのは1冊のノート。
「……私に?」
こんなのは違う人の方が……と言いかけたが、
「受け取ってあげて……」
鼻を啜りながら手渡され、拒否りづらくなる。
ほんとにお手紙受け取ったらびっくりしたよ〜!
デカすぎだろってなっちゃったよ〜!
まぁ、私はノートだから行が多いし無駄話でもいっか。
半年後に逢いに来てくれたのはビックリだったよ!
嘘だと思ってたもん!
でも、会いに来てくれてありがとう!
とっても嬉しかった!
そこからぼやけて何も見えない。
そこで泣いていたことに気づく。
ごめん、読めそうにないよ。
本当に悲しいんだから。
なんで、莉奈が死んじゃうの?
死なないで欲しかったのに。
ねぇ、なんで?
「……ぐすっ」
鼻をすする。
なんで死んじゃうのよ。
ごめん、本当に見えそうにない。
でも、これだけは読めたよ。
何があったとしても、絶対。
志乃ちゃんだけは覚えてるから。
だから、志乃ちゃんもあたしのこと忘れないで。
もちろん、忘れないよ。
誰が忘れるのよ。
「莉奈……」
その時途方にくれていた私たちを朝日が照らし始めた。