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──高生紳士side──
俺も指示を出すとは言ったものの、四宮くんが的確な指示をだしているし、あの2人も自分で城を直してるし…あれ、俺やること無くね?
と思ったので、少しでも2人の負担を減らせるように、自分でも城の修復をすることにした。
「四宮くん、俺も城の修復手伝おうと思ってるんだけど、どこやったら良いかな?」
「え、あ、指示は出さないのね?」
と言い、とても驚いたような困惑しているような表情をする。
「いや、四宮くんがめっちゃ的確な指示出してるし、よくよく考えたら指示出す人2人もいらなくね?って」
「確かに」
「じゃあ、どうしようかな〜…高い所の壁は自由君の方が良いでしょ?だし、あそこの屋根はジョニーさんがやってるから…」
と、とても考えてくれている様子だ。
「じゃあ、低めの壁か、あっちの屋根かな。どう?」
と、選択肢を提示してくれる。
確かに、そこなら俺でも出来そうだし、まだ手が回っていない。
やっぱり四宮くんは指示に適任だな…と関心しつつも、俺にはどちらの方が合っているかを考える。
まぁでも、一応自由ほどではないが屋根の上に行くぐらいの移動手段はあるし、低い壁と言っても俺の身長的に、屋根の方が何かと不都合は起きないだろうと考えたので、
「ん〜、じゃああっちの屋根をやるよ」
と、伝える。
「おっけ〜、んじゃ、道具はあそこね」
「はいはーい」
そう言い、ペンキや屋根の素材などを用意し、城の前へ立つ。
《日月星辰 sunshine warrior》
【高速移動 speed of light】
その瞬間、自身の身体が発光し、光に包まれる。
そして、城の屋根の上を目指して駆け出す。
すると、まるで光と一体化したかのような速さで城の壁面を駆け上がり、屋根の上まで辿り着く。
屋根の上でピタリと止まり、ふぅ、と息を吐けば周りの光が段々と消えてもとに戻る。
そして、ペンキを取り出し作業を始める。
「よし、上手くできるか…ダイスロール!」
《運命改変 Judgment》
【成功確率 75】
(よし…結構高い、いける!)
【結果 98 ファンブル】
「え、やばッ」
その瞬間、ツルっと足が滑り、屋根から地面へ真っ逆さまになる。
このまま落ちれば大怪我、いや、当たり所が悪ければ最悪死に至るだろう。
そんな思考をしている間にもタイムリミットは刻一刻と迫っている。
どうしたら、と必死に思考を巡らせていたその時、不意に落下が止まる。
身体がふわりと宙に浮いているのだ。
「え……?」
助かったのか?と思いつつ、思考を整理する。
──四宮伊織side──
ふと全員の状況を確認しようとしたら、高生紳士の姿が見えないことに気づく。
すると、屋根から足を滑らせ転落する高生の姿を発見し、急いで参謀に声を掛ける。
参謀の異能力で重力を操作すれば、この状況が何とかなると思ったからだ。
──ヨシヅキ参謀side──
木陰で休んでいると、四宮の焦った声が聞こえてくる。
「参謀!今すぐ重力操作の異能力使って!」
「は?え、急にどしたん?」
「高生君が落ちてるんやて!このままじゃ怪我するから!」
「え?!いやまだ魔力そんなに回復してないんだけど…!」
「ええから早く!!」
「あ〜もう!わかったよ!!」
《時空の理 gravity control》
【浮遊夢重 anti gravity】
異能力を発動し、高生の方へ両手を突き出す
すると、高生の落下は止まり、ふわりと空中で浮く。
「ナイス参謀!焦った〜」
「ッ…ちょ、無理かもッ…持たないってッ…!」
その瞬間、微かに回復していた魔力も底を尽き、異能力が切れてしまう。
すると、高生の身体もまた、地面への落下を再開する。
「ちょ、参謀?!」
と、四宮が声を掛けるがその言葉を聞く余裕も無く、自身の身体が後ろへ倒れ込む。
「はぁ…だから言ったじゃん…無理だって……魔力無いって……」
そう、力無くポツリポツリと聞こえるかも分からない小さな声で呟く。
すると、四宮には聞こえていたようで
「そうやな…ちゃんと話聞かへんくてすまんかった」
と、先程までの焦った様子からは一変して冷静に謝ってくる。
まぁ、さっきは焦っていてまともに考えられていなかったのだろう。
「と、とりあえず、高生君の様子見なあかんから!あ、あとりゅーじさん呼ばへんと…」
と、急いで走っていく。
確かに、あのまま落下してしまったが高生紳士は大丈夫なのだろうか。
そう思いながらも、魔力不足と異能力の酷使での疲労に体は耐えられず、緩やかに意識を暗転させた。
──高生紳士side──
ふわりと体が浮いたと思った直後、また地面への落下を始めた。
「は?!え、なんでなんで?!?!」
混乱していると、視界のすぐそこにまで地面が迫ってくる。
そして、そのまま地面に衝突した。
幸い、1度落下が止まったことで本来の高さから落ちるよりは軽い衝撃で済んだようだ。が、それでも酷い怪我なのは自分でも分かる
全身が痛む。
なんとか頭だけは守ることができたが、身体はまともに動かせそうに無い。
意識が朦朧とする中で、どこからか声が聞こえてきたが、まともに聞き取れず、そのまま意識を失ってしまう。
──小日向りゅーじside──
木陰で参謀の療養をした後は、少し離れた所でりゅーこと2人で休憩をしていた。
すると、不意に四宮の声が聞こえてくる。
「りゅーじさん!あ、りゅーこちゃんでもええねんけど…ちょっと来てくれます?!」
随分慌てた様子です息を切らしながら走ってくる。
「えと、とりあえず落ち着いて…どうしたの?」
「はぁっ…その、えとッ…高生君が!高生君が屋根から落ちて!そんで、参謀に異能力でなんとかしてもらおうとしたら、魔力が切れてもうて、んで高生君もそのまま落ちてしもて…!」
「え?!…わかった、大丈夫。直ぐに行くから、案内して」
と四宮に言い、くるっと振り返りりゅーこに向かって
「参謀のこと、頼んでもいい?」
「うん、わかった。ちゃんと魔力の量のことも考えてね?」
「大丈夫だよ、じゃあ頼んだ」
と告げ、四宮の方へ走って行く。
案内されて着いたのは、城の真下の地面。
そこには、全身を強く打ち酷い状態になっている高生の姿があった。
「うわ…これは酷いね、急ごう」
そう言い、急いで高生の方へ近づいて行く。
《万物の癒し absolutely heals》
異能力を使い、自身の魔力を約半分程消費して治療を行う。
すると、だんだんと傷や痣が消えて元通りになった。
「おぉ…りゅーじさん凄いな」
「まぁ、結構消費激しいんだけどね」
ゆっくりと高生を担ぎ、参謀の心配をしながら 木陰の方へ歩みを進める。
──小日向りゅーこside──
木陰の元まで辿り着くと、意識を失って倒れている参謀の姿があった。
診てみれば、外傷は特にないが魔力がほぼ全て使われているのと、異能力の酷使で身体に疲労が溜まりすぎているのが原因だと分かった。
なので、魔力の受け渡しや簡単な治療を行う。
《万物の癒し absolutely heals》
魔力にも人それぞれの個性や性質があるが、自身のこの魔力は回復や癒しに特化しており、様々な人に馴染みやすくなっているため受け渡しが可能だ。
例えば、水に特化した魔力を持っている人が炎に特化した魔力を持っている人に魔力の受け渡しをしても魔力は回復しないどころか毒になる可能性だってあるが、自身の魔力は誰でも自分の物にしやすく、なんなら回復までする。
なので、自身の魔力の約半分程を参謀に渡し、魔力不足と疲労を同時に軽減する。
しばらくすれば起きるだろうと思い、私も隣に腰掛けると、こちらに向かってくるりゅーじと四宮の姿が見えた。
「おかえり〜、大丈夫だった?」
「まぁ…なんとか?参謀はどう?」
「魔力不足と異能力の使いすぎかな〜、魔力渡しといたから多分すぐ起きるよ」
「そっか…ありがとう、助かったよ」
「大丈夫!りゅーじもお疲れ様」
そう言うと、りゅーじは笑みを浮かべながらゆっくりと高生を地面へと降ろす。
すると、その拍子で高生がゆっくりと目を覚ます。
「んッ……あれ…?いた、くない…」
「あ、起きた」
と言い、四宮が高生の顔を上から覗く。
はぁ、と溜息をつき、りゅーじが高生に向かって口を開く。
「まったく…無茶すんなよ、怪我酷かったんだから」
「あ、りゅーじが治してくれたの?ありがとう!あはは、ごめんね〜…足滑らせちゃって〜…」
苦笑いを浮かべながらりゅーじに感謝と謝罪を述べる。
「とりあえず、高生君は休んどき?僕が指示出してくるから」
「あっ、ごめん…お願いします…」
それを聞けば、四宮は
「大丈夫やで」
とニコッと笑い、城の方へ走って行った。
「はぁ〜…俺なんもしてねぇ…」
「大丈夫だって。そもそもここにみんなを集めたのは高生なんだし、少しぐらい休憩した方がいいよ」
狼狽えている高生を見て、りゅーじが微笑みかける。
「そう…?まぁ、りゅーじがそう言うなら…」
高生は納得した様子で、再び地面へと寝転び天を仰いだ。
──四宮伊織side──
その後も2人に指示を出し、城は順調に完成に近づいていった。
すると、スタッと目の前にジョニーさんが降りてくる。
「屋根はもう終わったで、あとは自由君の壁だけやけど」
「お、流石やなジョニーさん。助かるわ」
そう言いながら、自由の姿を探す。
すると、こちら側に雨の道が延びているのが見えた。
「お〜い!」
すると、辺りに響く大きな明るい声が聞こえてくる。
やがてその道がゆるやかに地面へと近づいていき、シュタッと自由が地に足をつける。
「壁、全部終わったぜ!」
「お!じゃあこれで改めて城の完成やな」
そう言い、改めて完成した城を見る。
大きな白いレンガ造りの城。
真っ白い壁に、黒い雲の隙間から照りつける太陽光が反射し、光り輝いている。
そこには、先程までとは見違えたようなとても綺麗な外観の立派な城が建っていた。
──高生紳士side──
目を覚ますと、完成された城が目の前に建っている。
自分の国を創り、自分の城を建てる。俺が夢にまで見た光景だった。
今は何人もの仲間が集まっている。
きっとこのメンバーなら、これからもやっていけると、そうなぜか確信があった。
なぜなら、みんな優しくて暖かいからだ。
「みんな、協力してくれてありがとう!これからも、よろしく」
そう口に出せば、各々が肯定の言葉を返してくれる。
その表情は全員、優しくて暖かかった。
その後、全員で協力し、本格的に国を起こし始めた。
国の名前を決めるとき、このメンバーを集めたリーダー的な存在だからと、俺に押し付けられた。
なので、「あたたかくなる」略して
「あたなる国」にすることにした。
理由は、このメンバーがとても暖かいと感じて、この国もそういう優しさや暖かさで溢れたらいいと思ったからだ。
「なんかダサくね?」という声もあがったが、理由に全員が納得したのと、とりあえずの仮決定ということでなんとか通った。
その流れで、総統、つまりリーダーは俺ということになった。
俺は本当に良いのかと確認したが、俺以外の全員が満場一致だったので甘んじて受け入れた。
他のみんなもサポートするから、ということだったが、実際にサポートしてくれるのは一部のやつらだけだろう。
その後も、各々の役割や今後の活動方針なんかも話し合って行ったが、結論として今の課題は”圧倒的な人手不足”ということになった。
確かに、役割を決める時でさえ、この役割が足りないだったり、これを1人で補うのはさすがに…といったことが多発したのだ。
そもそも、この人数じゃ国とも呼べないだろう。
なので、また追加で募集をかけたり、スカウトをしたりしてみよう、ということになった。
それから、前回と同じ様にポスターを作り、街の至る所に配ったり貼ったりして行った。
少しだけ違う点とすれば、今回募集しているのは”戦力になる人”だ。
今のメンバーじゃ戦争なんてしたら一瞬で負けてしまうから、今はとにかく強い人が足りないのだ。
また応募が来るといいな、とワクワクしつつ、また面接や試験の内容を話し合う。
──???side──
月灯りだけが建物を照らす薄暗い夜の街。
そこの路地裏には2人の男の影。
一方はもう一方から逃げながらナイフや瓦礫を飛ばすが、もう一方は一発も当たることなく一方を追いかけ続ける。
一方が逃げた先は、路地の行き止まりであった。
もう一方が、妖しい笑みを浮かべながら口を開く。
「あ〜あ、行き止まりだね?」
「ッ……お前ッ…なんなんだよッ!なんで俺を追ってくるんだ!?」
一方はとても錯乱した様子でナイフを振り回しながらそう問いかける。
「なんで?…そんなの、自分が一番よく分かってるはずだろ」
もう一方は、先程の投げられた瓦礫を手に取り自分の手首を少し切る。
手首からポタポタと鮮血が流れだした。
《紅き暗殺者 blood assassin》
すると、手首の傷から血液が浮き出、刃物の形に変化していく。
《青酸壊死 corrosive poison》
【蠍の毒牙 scorpion fang】
その刃物の先が少し赤紫色に変色したと思えば、その男は目の前の男に向かい走り出した。
「そのナイフ…お前ッ…まさか…ッ!」
「あ、俺の事知ってんだ。…残念、気づくのが遅かったな」
そう言い、目の前の男の腹部にナイフを突き立てる。
だが、その衝撃だけでは男は意識を失わず、痛みに悶えている。
「ぐッッ…あ”ぁッい”あ”ッ…!?」
「わざと急所外しといたから。精々苦しんで死ねよ、クズが」
そう言い捨て、路地裏の外へと歩みを進める。
(怪我を治療したとしても毒が回ったら死ぬから、絶対助からないしね)
すると、グシャリという音を立て、何か紙のような物を踏んだ感触がした。
それをゆっくりと拾う。それは、とある国の戦力を募集するためのポスターのようだった。
「あたなる国…ね」
聞いた事の無い国だったが、ある1つの噂を思い出した。
最近森の方に新しく出来た国が人員を募集している、という噂だった。
(まぁ、俺にはあんまり関係無いけど…仕事が増えそうだな)
新しい国や権力者が生まれると、恨む人や邪魔だと思う人が増え、結果的に仕事が増える。
まぁ、それもそれでいいだろう。
なんてったって、それが俺達
“暗殺者”なのだから。
「さ〜て、次の仕事は何かな」
──高生紳士side──
2回目の募集の結果が出たため、大量の紙束をみんなの前へ持って行く。
今みんなは、各自家から引越しの準備をし、暇なやつが手伝いながらもこの城に住み始めているところだ。
今は空き部屋を自由に使っていいことになっているから部屋割りは適当だが、少し広めの部屋を会議室に決め、みんなで集まる時はここに集まるようにしている。
そして、全員が集まっている会議室の机の上に先程の紙束をドサッと置き。
「え〜っと…これが一応応募者のプロフィールなんだけど……」
と言う。
すると、全員が目を見開き、揃いも揃って
「こんなに?!」
と口を開く。
まぁ、それはそうだろう。
なぜなら1回目の何十倍も応募が来ているからだ。
1回目はせいぜい10人程度だったのに対し、今回はざっと3桁の応募者が来ているのだ。
理由はいくつか考えられるが、まぁ大きいのは噂が広まりすぎたのと条件が簡単過ぎたことだろう。
「いや…にしてもこれは多すぎない…?」
と、参謀が不安そうに口を開く。
「まぁでも、国っていうものは俺達みたいな幹部が何人か居て、一般兵が何百人もいる…みたいなのが普通だから、今回の募集で一般兵を沢山入れればいいんじゃないかな」
と、りゅーじは詳しいのか良いアイデアをくれたので
「いいね、そうしよう!」
と、賛同する。
すると、他のみんなも納得したようで、戦力になりそうな人をたくさん兵士として雇うことにした。
だが、参謀だけは少し不安が残るようで
「でもさ、流石にそんな人数を俺らだけで纏められるのかな……」
確かに、言ってることはもっともだな…と思い、ある提案を出す。
「じゃあ、その中でもめっちゃ強い人とかを新しく幹部に入れたらいいんじゃない?」
「確かに、それがええかもね」
と、みんなも賛同してくれた様子だ。
先程まで不安そうだった参謀も、
「まぁ、それなら…」
と、首を縦に振ってくれた。
なので、今回の募集の中で、ある程度戦える人は兵士に、その中でも特段強い人は幹部にすることになった。
そして、今から何が始まるかというと…
3桁もある書類を、不採用と兵士候補と幹部候補に分ける仕事だ。
これは途方も無い時間が掛かりそうなため、サボろうとしたやつも含め全員で今から行うことにした。
数日後
何日か掛かったが、振り分けを行うことができた。
流石にこの人数一人一人に面接をするわけにはいかないので、これを仮決定とし、数日間一緒に過ごしたり訓練をして問題が無かったら採用にすることになった。
今は会議室で資料を整理している所だ。
「え〜と…幹部候補はこの2人やな?」
四宮が2枚の紙を手に取る。
「ん、そうそう」
「思ったより厳しくしたよな〜」
参謀がどこからともなく話しかけてくる。
「あ、いたんや」
「ん…今起きた」
目を擦りながらそう返ってくる。
「遅くね?」
「別に良くね?好きなだけ寝て」
「そのうち昼夜逆転しそうやな」
「うるさ…お前ら2人ともお母さんかっつーの……」
「でも、あんだけいたのに2人しか幹部候補になんないんだ」
と、急に本題に戻される。
「まぁ…そんなポンポンと増やすわけにはいかないし、本当に強い人である程度話が出来るやつじゃなきゃ困るでしょ」
「せやね、あと参謀も、いきなり幹部が10人も増えたら困らん?」
「めっちゃ困る」
「そういうことやね」
すると会議室の扉がガチャ、と開き
「あ、お疲れ〜。明日来る人達の確認?」
と、りゅーじが声をかけてくる。
「せやで」
「あ、そういや明日か…」
「え参謀お前忘れてたん?」
「あ、ま、まぁ…?」
「マジか…」
「それは流石に無いやろ」
「え、そんな言う??ごめんて」
「まぁそれより、どう?その2人」
「あー確か幹部候補を選んだのはりゅーじさんなんやったっけ」
「そうそう!本当に助かったよ〜ありがとう!」
「いやいや、別に大丈夫だけど、異能力重視で選んだけど大丈夫そうかな?」
そう言われ、2枚の紙の異能力の欄を読み上げる。
「えっと…片方は音を操作する異能力と睡眠を操作する異能力で、もう片方は、相手が強ければ強いほど身体能力が上がる異能力… 」
「え、強くね?」
「マジか…めっちゃ強いやん」
「本当だ…どんな人が来るんだろう」
と言い、りゅーじの顔をチラッと見ると
「ん〜…前者はなんかこう…可愛い感じ?で、マイペースっぽいかな。で、後者は…
めっちゃ元気。」
「まぁ、元気なのは良いことじゃない?w」
「元気すぎても困るけど……実際に会ってみてかな〜」
翌日
城の前には何百人もの人だかりができており、とても騒がしい。
他のみんなも、これからの準備で慌ただしくなっている。
会議室の窓から外を眺める。
「うわ、これは凄いな……予想以上の人だかり…」
「数は分かってても実際に見るとやっぱ迫力ちゃうな〜」
「強そうなやつめっちゃいんじゃん!!」
「この数の人まとめるのか……自信無くなってきたかも」
「いや本当に…てあれ、りゅーこちゃんいないの?」
「あー別に、ずっと出てるわけじゃ無いからね。人の波に揉まれてはぐれても困るし、後で女性の人達を案内するときに呼んでお願いしようかな〜って」
「なるほどな〜 」
すると会議室の扉がガチャ、と音を立て
「あ、みんなここにおったんか。もうそろそろ時間やで」
と、ジョニーさんが入ってくる。
「あ、もうそんな時間?!マジか……」
と言い、時計を確認する。
現在は朝の9時、ちょうど募集内容で記載していた時間だった。
「じゃあ、行こうか」
振り返り、 4人に向けてそう言う。
そうして6人で城の入口まで向かっていった。
改めて城の入口から全体を見渡す。
それは上から見るよりも圧倒的に迫力のある人の波だった。
りゅーじが城の前に置かれた台に上がり、拡声器を使い話を始める。
「えー、この度はお集まり頂きありがとうございます」
「この後、それぞれ得意分野事に場所を移動してもらい、簡単な試験を行います」
「結果によってはその時点で帰って頂く場合もありますが、一定ラインを超えた場合はこれから数日間一緒にこの城で過ごし、その後に合否を決めさせて頂きます」
「それではまず、近距離部隊の方は〜…… 」
と、希望の部隊事に場所を移動してもらう
部隊はざっくり、近距離、中距離、遠距離、医療、司令に分けた。
最低限これがあれば十分だろうというものを選んだので今後増える可能性は高いが、その時はその時だろう。
ただ少し問題なのが遠距離部隊だ。
今の幹部の中でスナイパーなどの遠距離に詳しい者があまりいないのだ。
強いて言えばジョニーさんがスナイパーを扱えるらしいので今はジョニーさんに任せることにしたが、将来的には遠距離を得意とする人を募集する必要があるかもしれない。
人数的に、それぞれの部隊に1人ずつ幹部を配置して仕切ってもらうことになった。
俺は特に1つの部隊に集中するのではなく、それぞれの部隊の見回りをしながら幹部候補の実力を見たりだとか、問題が起きていないかなどを確認して欲しいらしい。
そうこう考えている内にも、それぞれの部隊で訓練やテストが始められていく。
──水凪自由side──
「近距離部隊はこっちですよー!集まってくださーい!!」
外のスペースの簡易的な訓練場へ、近距離部隊希望の人達を誘導していく。
集まったのはざっと40〜50人程度だろうか
やはりここの部隊が一番人気らしい。
1人でこの人数をまとめきれるのかは不安だが、ほぼ全員強そうな体つきをしていてとてもワクワクする。
その中には、例のりゅーじがまとめてくれた資料にあった幹部候補の「星乃歌カズ」という人物がいた。
とても派手なオレンジ髪をしていたのでひと目でわかったが、見るからに屈強そうな体つきだと遠目でもわかった。
少し経って、大体全員が集まったかくらいの頃合いで、りゅーじに渡された紙に書かれた文章を見ながら、拡声器を使って目の前の人だかりへ指示を出す。
「えと…早速ですが、皆さんにはこれから軽い模擬戦を行ってもらいます。
ルールは、異能力使用OK、武器はこちらで用意してある訓練用のナイフを使ってください。
相手を戦闘不能にする、または相手が降参宣言をした場合、勝利とします。
多少の怪我なら構いませんが、後遺症や命に関わるほどの怪我を負わせるのは禁止とさせていただきます。
あくまで戦闘能力を見るための模擬戦ですので、揉め事などには発展しないようお願いします。
ルールを破った場合、即失格とし、兵士としても不採用とさせていただきますので、ご注意ください。
以上のことを守った上で、全力で戦ってください。」
と、紙の内容を全て読み終わったところで、各自適当なペアを作ってもらい模擬戦を開始する。
やはり兵士に応募するだけのことはあるようで、全員かなり強いようだ。
異能力という点でもそうだが、近接戦闘は身のこなしや反射神経が重要になってくるため、かなりスピーディーな戦いが各所で繰り広げられている。
運が悪い者は一瞬で試合が終了している所もあった。
1試合が終わったら、その試合で勝った人は勝った人同士、負けた人は負けた人同士と次の模擬戦をする。
この動作を繰り返すことによって、よりわかりやすく強さを見ることができる。
そしてその後も何試合か続けて行った結果、一番勝っているのは星乃歌カズという結果になった。
彼の強さは圧倒的で、特に強みは速さだろう。 相手の攻撃を難なく避け、懐に入り確実な一撃を入れる。
口で言うのは簡単だが、実際にこれを実行するのは至難の業だ。
これは幹部候補に挙がるのも納得だった。
今の幹部でも彼に勝てる人がいるのかどうかも怪しいぐらいだ。
他の人達はナイフを使う中、彼は自身の拳だけで勝ち進んでいる。
これがどれだけ凄いことか、戦いの経験がある者なら誰でも分かるだろう。
もちろん得意な物の違いもあるが、武器があるか無いかで勝率はとても変化するのだ。
そんな化け物級の彼を見て、俺はとても興味が湧いてしまったのだ。
次の第6試合に移ろうとした時、本当は予定には無いはずのアナウンスをする。
「え〜と…現在の模擬戦の結果、星乃歌カズさんが5勝0敗という飛び抜けた戦闘力を持っているため、特例として、次の最終試合では、俺と対戦をしてもらおうと思います」
ただの思いつきと好奇心で勝手にこういうことをしてみたが、案の定会場はざわつきだしている。
ほぼ俺の戦ってみたいという私欲だが、これが彼の戦闘力を測るための一番手っ取り早い方法だと考えたのも事実だ。
訓練場の端のスペースに着くと、既にそこには1人の人影があった。
星乃歌カズだ。
「あ、幹部さんじゃん!!こんちわ!!」
と、元気にこちらに明るく手を振ってくる。
「お!速いね〜!えと、名前は星乃歌カズで合ってる?」
「はい!星乃歌カズです!気軽に呼んでください!」
「じゃあカズくんだ!俺の名前は水凪自由だ、よろしくな!」
「お願いします!!自由くんね〜!」
「じゃあ早速だけど……今さ、カズくんがめっちゃ強いから幹部の候補なわけね?」
「だからこれはある意味試験みたいなもんだから、最初に言ったルール守って全力で俺と戦ってくれや!!」
「えマジ?!俺が幹部候補なの?!マジか〜!めっちゃ嬉しい!!」
「だし、自由くんもめっちゃ強そうだし、戦えることがそもそもめっっっちゃ楽しみ!!」
「お〜俺もめっちゃ楽しみだから、よろしくな!」
「おう!戦うからには、正々堂々本気で勝負しよう!!」
そうして試合前の挨拶を交わし、お互い少し距離をとる。
そして、訓練場にある試験用のタイマーのカウントダウンを始めるボタンを押す。
3
2
1
という音とともに模擬戦が開始される。
《修練研鑽 himself intensificat》
《水禍澎湃 whirling tides》
【運行雨施 quick rain】
始まったと同時にお互い異能力を使い、自分の戦闘の土台を作る。
自由が異能力を使うと、辺りがサッと暗くなり、しだいに雨がザーザーと降り出す。
(カズくんはスピードが強みだから、俺も負けてられないな!)
自分の強みでもあるスピードが得意な相手ときたら、お互い得意なもの同士で戦うしかないだろう
《軟風千波 breeze surfer》
今回は道を作らずに雨の流れを読んでその流れに乗る。
なぜかと言えば、道を作れば完全に移動経路が相手からしてわかってしまうからだ。
せっかくの強みであるスピードがあっても動きが読まれては意味が無いし、空という普通の人よりも広い範囲を行動できるのだから、自由に走り回って相手を翻弄することこそが1番の強みだと考えるからだ。
ただ、前回道を作った理由は、複雑な雨の軌道を読むよりは圧倒的に速く移動ができるからなので、ただ移動をするだけなら道を作った方が良いと思っている。
試合が始まってから約2秒、一瞬で場を整え、お互いが動き出す。
俺は異能力を使い、物凄いスピードで雨と一緒に空へと駆け上がっていく。
そしてそのまま、自分が雨の軌道を読み一気に距離を詰めて奇襲をする……
はずだった。
「隙ありッ!!」
気がつけば目の前に星乃歌カズがいて、思いっきり一発腹に拳を入れられた。
そのまま空中にあった俺の体は言うことを聞かず、地面へと叩きつけられる。
「ぐはッッ…!」
全身に衝撃と痛みが走る。
一瞬の出来事過ぎて何が起きたのか理解すら出来なかった。
考えられる可能性とすれば、一瞬で俺の真下へと物凄いスピードで走り、一気にジャンプで俺のいた高さまで上がることだった。
いや、流石に有り得ない。明らかに人間技では無いのだ。
俺がいた高さは地面から何十メートルも離れた所だった。
いくら身体能力が高いと言ってもジャンプで軽々来れていい高さでは無いのだ。
この拳を受けて改めて実感した。
相手は人間という範疇を超えている、
“明らかな格上の存在”だということを。
「はッ…w面白ぇじゃん……やっぱ戦闘ってこうじゃなきゃなぁ!!」
ザッと立ち上がり、痛む体のことなんて考えもせずにまた戦闘態勢を取る。
久々の楽しい戦いになりそうだ。