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第十三章 三帝神降臨 ~世界最強の三人と、予期せぬ訪問者~
一、掲示板のポスター 伝説の存在
新任教師が着任してから、三週間が経過していた。
高木暸にとって、この三週間は再び平穏な日々が戻ってきたかのように思えた。神崎狂一郎の狂気じみた研究熱は、今のところ特定の生徒に向けられる様子もなく、剛田豪の鬼のような体育授業も、Fランクの暸には「適当に走っておけ」という程度の扱いで、意外と楽に過ごせていた。何より、放課後の猫世話部でシロと猫たちに囲まれる時間が、何よりも彼の心を癒やしてくれていた。
ある日の昼休み。
暸はいつものように、校舎の裏手の桜の木の下でミルクパンを食べようと、廊下を歩いていた。すると、ふと視線の隅に、今まで見たことのない派手なポスターが掲示板に貼られているのが目に入った。
「ん? なんだろ、このポスター。」
興味を惹かれて近づいてみると、そこには金色の煌びやかな文字で、こう書かれていた。
【人類最強 三帝神 特別紹介】
「三帝神…? なんだそりゃ、名前だけで中二病全開だな。」
暸は呆れたように笑いながらも、ポスターの内容を読み進めていった。すると、そこに書かれていたのは、彼が今まで聞いたこともないような、とんでもない三人の人間の紹介だった。
――人類史上最強と謳われる三人の存在。彼らは一国の大統領ですら頭を下げ、世界の裏側で全てを支配していると言われている。天叢雲学園の頂点であるZランクの生徒会長や四天王ですら、彼らの前では赤ん坊同然の力しかない――それが『三帝神』である。
「へえ…。学園の頂点すら超えるのか。すげえなあ。」
暸は更に読み進める。ポスターには、三人それぞれの能力と、その圧倒的なエピソードが、事細かに記されていた。
二、三帝神の能力 詳細なる解説
【初代皇帝 神代 零(かみしろ れい)】
三帝神の筆頭にして、人類最強と名高い男。年齢不詳、出自不明。いつから世界に存在しているのかも誰も知らない、まさに伝説そのものの存在。
能力:『無(ゼロ)』
ありとあらゆる存在を、完全なる『無』に帰す能力。
攻撃であれ、防御であれ、能力であれ、生物であれ、物質であれ、はたまた空間や時間、因果といった概念でさえも、彼の前では一瞬にして存在自体が消し去られる。どんなに強力な必殺技も、彼の前では初めから存在しなかったかのように消え、どんなに頑丈な盾も、一瞬で跡形もなくなる。
過去には、大国が誇る核ミサイルを十発同時に彼に向けて発射したことがあったが、彼はただ片手を挙げただけで、ミサイルも爆発も放射能も、全てを完全な無に帰したという逸話が残っている。更には、彼が本気を出せば、地球ごと無に帰すことも可能だと言われている。
普段は世界のどこかで、ただひっそりと暮らしていると言われており、その姿を見た者は殆どいない。
【女帝 夜桜 美月(よざくら みづき)】
三帝神の第二位。人類史上最も美しい女性と謳われ、見た者は皆その美しさに魂を奪われると言われる。世界中の王族や大富豪が彼女を娶ろうとしたが、誰も成功した者はいない。
能力:『創造(クリエイション)』
無から、ありとあらゆるものを創り出す能力。
物質、生物、エネルギー、能力、さらには空間や時間、世界そのものまで、彼女が望めば何でも創り出すことができる。飢えた人々のために一夜にして巨大な畑と食料を創り出したこともあれば、災害で崩壊した都市を一晩で元通りに再建したこともあるという。
更に上級な使い方として、『生命の創造』も可能。彼女が創り出した生物は、通常の生物よりもはるかに強力で、時には神話の怪物さえも凌駕する力を持つ。伝説によれば、彼女がかつて創り出したという『白き龍』は、今でも世界のどこかの山奥に生息していると言われている。
彼女の美しさは、この『創造』の能力によって常に最も美しい自分自身を創り続けているからだ、という説もある。
【覇王 黒龍 覇(こくりゅう は)】
三帝神の第三位。最も武闘派で、戦いを愛する男。身長三メートルを超える巨漢で、その体には無数の戦いの傷が刻まれている。世界中の格闘家や能力者が彼に挑戦したが、誰一人として勝利した者はいない。
能力:『全能(オムニポテンス)』
自分が望むことは、文字通り何でもできる、全能の能力。
空を飛びたいと思えば空を飛べ、火を出したいと思えば火が出る。相手を倒したいと思えば、どんな相手でも一瞬で倒せる。未来を知りたいと思えば未来が見え、過去を変えたいと思えば過去さえも変えられる。まさに、神の領域の力。
ただし、この能力はあまりにも強力すぎるため、使いすぎると世界の均衡そのものを崩してしまうという代償がある。そのため、普段は自ら力を大幅に制限し、人並みの生活を送っていると言われている。それでも、制限した状態ですら、四天王クラスの力は余裕で持っているというから、その本当の力がどれほどのものか、想像もつかない。
過去には、彼が本気を出したために、一つの大陸が半分消滅したという逸話まで残っている。
――以上、人類最強『三帝神』。彼らは今も、世界のどこかで、その圧倒的な力を秘めて生きている――。
暸はポスターを読み終わり、思わず感嘆のため息をついた。
「…すげえな。本当に、こんな人たちがいるのかよ。無に帰すだの、何でも創り出すだの、何でもできるだの…。まあ、俺だって概念干渉で大抵のことはできるけどさ、地球ごと無に帰すとか、大陸を半分消すとか、そこまではさすがにやったことないわ。」
彼は少しだけ、残念そうに笑う。
「まあ、こんな人たちとは、一生会うこともないだろうな。世界が広いもんな。俺はただ、この学園で猫と一緒に平穏に過ごせればそれでいいんだから。――まあ、すごい人たちがいるもんだなあ。」
暸はそうつぶやきながら、ポスターから離れ、再び桜の木の下で昼寝をしようと、廊下を歩き始めた。
だが、その時だった。
廊下の角を曲がったところで、二人の女子生徒がひそひそと話している声が、ふと耳に入った。
「ねえねえ、聞いた? 今回の特別講師、すごい人が来るんだって!」「え、本当? 誰? まさか、あのポスターに書いてあった三帝神の人とか!?」「うんうん、聞いたところによると、三帝神のうちの一人が、この天叢雲学園に特別講師として来るんだって!!」
「…え?」
暸は思わず足を止め、女子生徒たちの方を振り返る。
三帝神の一人が、この学園に来る? さっきまで「一生会えないだろう」なんて笑っていた矢先に、まさかこんな話を聞くとは。
「いや、でも噂だろ? あんな伝説の人たちが、こんな田舎の学園にわざわざ来るわけないだろ。きっと、ただの噂話に尾ひれがついただけだよ。」
暸はそう自分に言い聞かせ、再び歩き出そうとしたその瞬間だった。
校内のスピーカーが、ガリッというマイクテストの音を立てた。
そして、天城蒼校長の、いつもの穏やかだが、どこかいつも以上に張り切った声が、学園全体に響き渡った。
三、全校放送 伝説の訪問者
「――全校生徒、教職員の皆さん。おはようございます。突然の放送で失礼いたしますが、本日は、本校の歴史に残る大変栄誉あるお知らせがあります。」
校長の声は、いつになく高揚しているのが分かった。
「なんと、本日、人類最強と謳われる『三帝神』のうちのお一人が、特別講師として本校を訪問してくださることになりました!!」
一瞬、校内全体が、完全なる沈黙に包まれた。
次の瞬間、どこからともなく絶叫とどよめきが轟音のように沸き起こった!
「えええええ!? 三帝神!? 本当に来るの!?」「マジで!? あの伝説の人たちが!?」「誰が来るの!? 初代皇帝? 女帝? それとも覇王!?」
廊下にいた女子生徒たちは「やったー! 噂本当だったー!!」と大喜びで飛び跳ねている。暸は、完全に言葉を失って立ち尽くしていた。
「…いや、嘘だろ。さっき『一生会えない』って笑ってたのに、まさか本当に来るのかよ…。しかも、俺がポスターを見て、廊下を歩いて、噂を聞いた瞬間に放送が流れるとか、これ、完全に俺の運命がからかわれてるだろ…。」
暸は大きなため息をつき、頭を抱える。
「…まあ、でも、俺には関係ない話だ。三帝神が来ようが、何が来ようが、俺はただFランクの落ちこぼれとして、目立たずに生きてればいいんだ。向こうだって、さすがにFランクの落ちこぼれに興味を持ったりはしないだろう。――大丈夫、大丈夫。今回も、何とか平穏にやり過ごせるさ。」
彼はそう自分に言い聞かせながらも、心のどこかで嫌な予感がよぎるのを抑えきれなかった。今までの彼の人生で、「平穏だ」と思った瞬間に必ずめんどくさい事件が起きてきたのだ。今回も、きっとそうなるに違いない――。
校長の放送は続く。
「――訪問してくださるのは、三帝神の中でも特に武闘派として名高い、『覇王 黒龍覇』様です!! 黒龍様は、本日一日限りの特別講師として、皆さんに直接指導を行ってくださるとのことです。生徒の皆さんは、今すぐに体育館に集合してください。教職員の皆様も、同様にお集まりください。――繰り返します。三帝神の一人、黒龍覇様が来校されます! 全員、至急体育館に集合です!!」
放送が切られると、校内は更なる大騒ぎになった。生徒たちはわーわーと言いながら、続々と体育館に向かって走り出す。
暸は、人混みに紛れながら、のろのろと体育館に向かって歩き出した。
「…覇王の黒龍覇か。全能の能力を持つ、一番武闘派の人が来るのか。こりゃあ、また大変なことになりそうだわ…。とにかく、一番後ろの端の方に隠れて、誰にも見つからないようにして、一日が終わるのを待つだけだ。――そうだ、シロはどうしよう? さすがに体育館に猫を連れていくわけにもいかないし、猫世話部に預けていくか。」
彼はそうつぶやきながら、一度猫世話部の部室に寄ってシロを預け、それから改めて体育館に向かった。
四、各陣営の反応 伝説の前に
体育館には、既に全校生徒と教職員が集まり、どよめきが渦巻いていた。どの生徒も、顔を赤らめて興奮し、「早く黒龍様に会いたい!」という声で溢れかえっている。
生徒会長の神無月凛を中心に、四天王の四人が最前列に陣取っていた。彼らの表情は、いつもの冷静さを失い、少なからず緊張と興奮の色が浮かんでいる。
「…三帝神の一人が、本当に来るとは。私たちZランクですら、彼らの前では赤ん坊同然だと聞いています。実際に目の当たりにすれば、我々の力の無さを思い知らされることになるでしょう。」凛が静かにつぶやく。
黒鉄剛は、拳をガシガシと鳴らしながら興奮しきっている。
「ハハハ! ついに来たか! 世界最強の男! 俺はいつか、あの黒龍様に直接戦いを挑んで、自分の力を試してみたかったんだ! 今日は絶対に、何かしらの形で力を見せてもらうぞ!」
「…馬鹿ね。あの人に戦いを挑むなんて、一瞬で粉々にされるわよ。」氷室雪菜が冷ややかに突っ込むが、彼女の瞳にも、微かな興奮の色が宿っているのは隠せなかった。
御手洗叡智はタブレットを叩きながら、黒龍覇の情報をかき集めている。
「…データ上、黒龍覇の能力『全能』は、制限下でも四天王クラス、本気を出せば大陸を消滅させるレベルだとされています。今日は、彼がどれだけの力を見せてくれるのか、一挙手一投足を見逃すわけにはいきませんね。」
天宮詩織は、妖精姫の精霊・リリアと手をつなぎながら、きらきらした瞳で体育館の入り口を見つめていた。
「わー、黒龍様って、すごく強い人なんでしょ? きっと、すごくかっこいいんだろうな~! 私もいつか、あの人みたいに強くなりたいな~!」
教師陣の中では、白銀雫が、いつもの冷徹な仮面の下に、隠しきれない興奮を宿らせていた。彼女の心の中では、あの「最強の人」の影と、三帝神の存在が重なり合っていた。
(三帝神…。世界最強の人たち。もし、あの人が本当にこの学園にいるのなら、きっと黒龍様の前では何らかの反応を見せるはず…。私は、絶対に見逃さないわ。)
そして、新任教師の二人。
神崎狂一郎は、白衣のポケットからメモ帳を取り出し、キラキラと輝く瞳で入り口を見つめながら、興奮した面持ちでつぶやいていた。
「…ふふっ。ふはははは! 全能の能力! 文字通り何でもできる能力! こんな研究対象が、私の目の前に現れるなんて! どうか、どうか彼の能力の一端を研究させてくれ! いや、できれば彼の細胞でも一つ分けてもらって、私の融合実験に使わせてもらいたい!! ああ、なんて素晴らしい日なんだ!!」
彼の狂気じみた興奮に、周りの教師たちは思わず距離を取っていた。
剛田豪は、黒龍覇が元・特殊部隊の大先輩であると聞き、筋肉を震わせて感激していた。
「おうおう! 黒龍大先輩が来るのか!! 俺がまだ特殊部隊にいた頃、何度もその名を聞いたぜ! 生きる伝説だ! 今日は絶対に、直々にご指導を仰ぐぞ!!」
こうして、ありとあらゆる立場の人間が、それぞれの思いを胸に、伝説の男の登場を待ちわびていた。
その中で、ただ一人、暸だけは体育館の一番後ろの、柱の陰になって誰にも見つからない場所に体育座りをして、ただ一日が終わるのを待っていた。
「…はーあ。早く終われー。俺はただ、早く猫の元に帰りてえんだよ…。」
五、覇王降臨 その時、扉が開く
やがて、体育館の空気が、一気に引き締まった。
どこからともなく、重厚な気配が近づいてくるのが、誰の目にも明らかだった。まるで、山が動いてくるような、大地が揺れるような、そんな圧倒的な存在感だ。
体育館の大きな扉が、ゆっくりと内側に開いた。
そこに現れたのは、身長三メートルを優に超える、筋肉の塊のような巨漢だった。
黒い戦闘服に身を包み、全身に無数の傷跡が刻まれ、鋭い眼光が体育館全体を見渡す。一歩一歩、床が軋むような重みを感じさせながら、彼はゆっくりと壇上に歩み寄った。
――覇王 黒龍覇。
三帝神の一人、人類最強の武闘家が、ついに天叢雲学園に降り立ったのだ。
体育館全体が、一瞬にして完全なる沈黙に包まれた。誰もが、その圧倒的なオーラに息を呑み、言葉を失っていた。
黒龍覇は壇上に立つと、天城蒼校長と固い握手を交わし、それから全校生徒をゆっくりと見渡した。その視線は、まるで一人一人の能力を見透かすかのように、鋭く、重く、そしてどこか温かいものだった。
やがて、彼は大きな声で、重厚な声を響かせた。
「――おう。俺は黒龍覇だ。三帝神なんて肩書きは、どうでもいい。今日は、お前たちの話を聞いて、少しだけ力を見せてやるという約束で来た。――さて、どこから始めようか。」
その声は、大きくて重く、体育館の壁を揺るがすほどだった。
そして、その瞬間。
黒龍覇の視線が、体育館の一番後ろの、柱の陰に隠れて体育座りをしている、たった一人の少年の上に、ピタリと止まった。
暸は、その視線を感じて、思わず身動きができなくなった。
「…え? なんで、俺の方を見てるんだ…? まさか、バレたのか? いや、俺はただのFランクの落ちこぼれのはずだぞ? 何で、世界最強の男が、俺に気づくんだよ…。」
黒龍覇は、暸の方を見つめたまま、にっこりと、どこか意味深な笑みを浮かべた。
「…ふむ。なるほど、この学園には、面白いものが隠れているな。――俺が、わざわざここまで来た甲斐があったよ。」
その言葉に、体育館全体がどよめいた。誰もが、黒龍覇が誰に向かって話しているのか、理解できずにいた。
ただ一人、暸だけは、その言葉が自分に向けられたものだということを、はっきりと感じ取っていた。
「…しまった。やっぱり、バレてるわ。この人、俺の本当の力に気づいてる…。」
暸は、心の底からため息をついた。
「…はーあ。やっぱり、平穏なんて、どこにもないのかもしれないな。」
こうして、世界最強の覇王と、最強の落ちこぼれの、最初の対面が果たされた。
これから始まる黒龍覇の特別講義は、果たして暸の平穏を更にかき乱すことになるのか、それとも――。
(次回に続く)
コメント
1件
めっちゃ熱い展開!!😭🔥 暸くんが「平穏に過ごしたい」って願えば願うほど、どんどん騒動に巻き込まれてくパターン、もうニヤニヤが止まらん…! 黒龍覇の登場シーン、体育館の空気がピリッと変わってめっちゃカッコよかったし、一番後ろに隠れてる暸くんに真っ先に気づくって、もうバレバレじゃん!!笑 2人の対面、次回が待ちきれない…✨💕