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らんは薄明かりに包まれた部屋で目を覚ました。
腕も胸も、ぬいぐるみごとがっちりと抱きしめられたまま身動きが取れず、少し苦笑する。
「……これじゃ、朝の勉強はできねぇな」
そう小さく呟き、諦めるようにこさめの頭を撫でる。さらさらの髪を指先で梳きながら、愛おしさが込み上げ、衝動のままに額へそっと口付けを落とした。
その瞬間、こさめが「んん……」と寝言のように声を漏らし、重たいまぶたをゆっくりと開ける。
「……お、起こしたか?」
らんが申し訳なさそうに眉を下げると、こさめはふにゃっと笑みを浮かべ、掠れた声で囁いた。
「……らんにぃ……一緒に二度寝しよ……」
そう言って、寝ぼけたままらんに顔を近づけ、突然唇を重ねてきた。
「……っ!」
らんは驚きに目を見開き、身体を硬直させる。しかしこさめは気にする様子もなく、夢心地のまま浅いキスを数回重ねては、満足げに「……おやすみ……」と呟く。
らんは完全に固まったまま、頬まで熱くなり、心臓の鼓動が速くなるのを抑えられなかった。
横で無邪気に夢の世界へ戻っていくこさめを見つめながら、らんはそっと顔を逸らし、布団を握りしめる。
「……やばい……俺、もうほんとにダメかもしんねぇ……」
小さく吐き出した声は、眠り込んだこさめには届かず、静かな早朝に溶けていった。
らんはこさめを抱きしめながら二度寝に落ちていった。
夢の中で感じるのは、こさめの温もり、柔らかい唇の感触、滑らかで吸いつくような肌の質感。
小さく震える声と、耳を蕩かす甘い吐息。
らんの全身を痺れさせるように、夢のこさめは声を上げ、頬を紅潮させ、らんを受け入れていた。
その幸福感は、あまりに生々しく、甘美だった。
――だから、らんは夢と現実の境界を見失った。
現実のこさめは、先に目を覚ましていた。
らんに抱きしめられ、鮫のぬいぐるみごと押しつぶされるようにされながら、寝息を聞いていたのだ。
やがて小さく身を動かし、らんの肩を揺らす。
「……らん兄ちゃん、おはよう!」
元気にそう声をかけるも、らんはうっすらと目を開けただけで、まだ夢の淵にいた。
焦点の合わない瞳でこさめを見つめ、次の瞬間――。
「……ん」
何の躊躇もなく、こさめの唇に触れた。
「っ……!?」
こさめは驚いて目を大きく見開く。
だがらんの唇は一瞬で深く押し重なり、唇の隙間をこじ開けるように舌が入り込む。
ぬるりとした舌が絡んでくる感触に、こさめは「ん、んん……っ」とくぐもった声を漏らした。
思わず胸が熱くなり、目尻が潤む。
「……らん…に…っ…?」
夢心地のらんは答えず、ただ舌を絡め続けた。
深いキスに酔ったように、何度も唇を重ね、呼吸を奪っていく。
こさめは肩を震わせ、酸素がなくなっていく苦しさに堪えかねて、拳をぎゅっと握りしめ――。
「んんっ……!」
ついに、らんの胸を強く叩いた。
「……っ!?」
反射的に唇を離した瞬間、らんはようやく目を覚ました。
ぼんやりしていた瞳がはっきりと焦点を結び、目の前にいるこさめの赤く染まった顔と、濡れた唇を見てしまう。
「……あ……」
時間が止まったように固まり、頭の中で一瞬で現実が繋がる。
自分がしていたこと。
夢の続きだと思い込んで、無意識に――。
「ご、ごめん!!」
血の気が引き、一気に飛び退くようにこさめから距離を取った。
心臓は暴れるように打ち、呼吸が荒くなる。
さっきまで心地よかった熱はすべて罪悪感に変わり、胸の奥を締め付ける。
「俺……っ、今……っ」
声が震え、言葉にならない。
こさめはまだ驚きの中にいた。
だが、真っ赤に染まった頬と潤んだ目で、無邪気にらんを見上げている。
唇に残る温もりを指先でそっと触れながら――。
らんは布団から飛び退くように身を離すと、膝を正座に折り曲げ、床に頭を垂れた。
「……ごめん、ほんとごめん……っ!」
額に汗が滲み、声は震えていた。
こさめにとってはただの朝の目覚めなのに、自分は夢と現実を取り違えて、勝手に踏み込んでしまった――。
罪悪感に胸が潰れそうになる。
こさめは布団の上で小さく瞬きをし、正座して震えるらんを見つめた。
驚きはまだ残っている。けれど、不思議と嫌な気持ちはなかった。
むしろ、あの時胸の奥に広がった温かさと、唇に残る余韻が、頭から離れなかった。
「……らん兄ちゃん」
そっと布団から抜け出し、正座しているらんの前に膝をついた。
らんが恐る恐る顔を上げると、こさめの真剣な眼差しがまっすぐ自分を射抜いていた。
「さっきの……その……」
こさめは少し頬を染め、指先でもじもじと布団を握る。
「……びっくりしたけど……気持ちよかった。だから……」
らんの心臓が一瞬止まる。
こさめは真っ赤になりながら、でも逃げずにらんの目を見て言った。
「もう1回……してほしい」
「――っ」
思わず息を呑むらん。
耳まで真っ赤にして狼狽えるが、こさめの瞳には迷いがなかった。
「……こさめが……いいなら…」
震える声でそう答えると、こさめは小さく頷き、らんの肩にそっと手を置いた。
そして二人はゆっくりと顔を近づけ――。
柔らかな唇が再び重なった。
先ほどのような不意打ちではなく、互いに確かめ合うような、優しい口づけ。
触れるだけで胸が熱くなる。
らんはこさめの小さな吐息を感じながら、そっと唇を離した。
お互いの顔は赤く染まり、視線を逸らせずに見つめ合う。
「……俺、ほんとに……もう、夢と間違えない」
「ふふ……大丈夫。夢じゃなくて、現実だから」
こさめの無邪気な笑みと照れた声に、らんの胸はさらに強く打ち鳴った。
らんはこさめの頬に手を添えながら、優しくも甘いキスを何度も重ねていく。
唇が触れるたびに、こさめは小さく喉を震わせ、熱に浮かされたように息を吐く。
「…らんにぃ、舌…入れて?」
つややかな瞳であざとく見つめられ、らんの胸が一瞬で高鳴る。迷いながらも、こさめが望んでいるのならと決意し、唇を深く重ねて舌を差し込んだ。
柔らかな舌同士が触れ合った瞬間、こさめは「んっ…」とくぐもった声を漏らし、身を震わせる。その反応にらんの理性は危うく揺らぐが、彼は必死に自制しながら、舌を絡める動きを緩やかに繰り返す。
次第に、こさめは心地良さに引き込まれるように目を細め、甘い声を洩らしながら、らんの胸に身を預けていった。
小さな手がらんの服を掴む力も弱まり、ただその温もりに委ねるように。
やがて、らんはそっと唇を離す。
そこにいたのは、頬を赤く染め、潤んだ瞳でらんを見上げるこさめだった。蕩けた表情に胸が締め付けられるような愛しさを感じながらも、らんは自分を抑えるように深く息を吐く。
「…やばい。かわいすぎて、俺……」
らんは悶えるように小さく呟き、こさめの頭を撫でる。
らんは大きく息を吐き、こさめを抱きしめたまま、ぐっと自分を抑え込むように目を閉じる。
「……やばいな。これ以上は、俺ほんとに自制きかなくなる」
低く苦笑する声に、こさめは小首を傾げて彼を見上げる。
名残惜しそうに唇を離されたことに少し寂しさを覚えつつも、こさめはふっと柔らかく微笑んだ。
「じゃあ……また、キスしてね」
その言葉にらんの心臓は跳ね上がり、思わずこさめの頭をぎゅっと抱き寄せる。
「……もちろん。約束な」