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試合終了のホイッスル。練習試合は3対1でツバメ高校が勝利。

「隼人、迷うなよな」

「ありゃ、バレた? だってどこに出しても、ほぼ確で点取れたからさ」

目の前の10番のくるぶし目掛けて、インサイド。のしかかるRW 一ノ瀬隼人。

「真白は、ポジショニングが甘い」

「……っす」

マーカーを拾い上げていた、9番目掛けてインサイド。睨むLW 宮田真白。

「フリーキックを自分で入れようとするのも、きしょいっすよ」

9番の罵詈雑言は、見事に俺の心にゴール。

「だって、入るって思ったんだもん!」

わざとらしいぶりっ子をして見せた11番。

CF 俺こと天沢環。

新体制のツバメ高校サッカー部の主軸選手だ。

ー 全国が終わったのが、一か月前。

強豪でありながらも、昨年はあと一歩のところで、代表から落ちていた。

俺と隼人は、夏のインターハイと続き、スタメンで全国へ。準決勝まで進んだものの、三年の先輩が、ラストチャンスを逃し二対一で敗退。

ちょっとした心残りを抱えたまま、新体制になった。俺の左翼を埋めるように、一年のルーキー、真白はスタメンへ昇格する。

新体制になってから、負けた試合はひとつとしてない。

俺は、楽しみだ。

このメンツで、全国優勝を掴むのが。

ツバメ高校サッカー部の進化である。



「真白君、ちょっといい?」

帰り道、俺の左翼は声をかけられていた。それも可愛い女子。

「いや、良くないけ「全然平気、むしろ連れって」」

無愛想な左翼をかわいい少女に差し出す。

俺は、今恋のキューピット的な何かなのではないだろうか。

女子に連れられ、真白は少し離れた所へ向かった。

「よし、帰ろ」

右翼は、反則的なストライドで歩き出す。

「隼人?かわいい後輩はいいん?」

とぼけた顔で、首を傾げる。

いくつになっても、地に足のつかない右翼を呼び止め、左翼を待つ。

思いのほか、早い帰還を果たした後輩は、何食わぬ顔でこちらへ向かってきた。

「うわ、待ってた。えっと、暇なんすか?」

「とか言って、帰ったら寂しいくせに」

ちょっと調子をこいてみれば、我らが左翼は、俺のくるぶしをジャストミート。ツバメのエンジェルパスはどこへやら。殺意のこもったデビルキック。現役サッカー部の蹴りは、笑えない。

「てか、何の話してたん?」

隼人は分かりきったような平凡な質問を、真白にぶつけた。

告白にきまってるやろがい! とツッコミたい気持ちを抑え、話の展開を見守る。

告白にしては、かなり早い帰還だったがそれは何故なのか。

「普通に告白でしたよ」

「うわ」

俺と隼人は、口を揃えた。こいつ、告白の返事をあんな短時間で済ましたのか。しかもなんだ。普通って。告白に、普通も特別もあるものか。

「なんすか」

「んで、お前はなんて答えたんだよ」

隼人は、踏み込んだ以上深掘りしない訳にもいかず、また聞かずとも分かりきった質問を投げかけた。

「無理」

「わあ、殴りたい、この笑顔」

こいつはもう敵だ。隼人も同感のようで俺と顔を見合わせる。

「逆になんて答えるのは正解なんすか」

「それは、俺も知らん」

だって告白された事ないもん。潔く胸を張って言ってやる。

「は、ダル」

「こっちのセリフじゃ馬鹿たれ」

贅沢な悩みなこった。てか、俺が最後に点決めたのに。なんでだよ。身長か?身長なのか。

「ま、いいや。一ノ瀬先輩は、なんて言って断るんすか」

「んー、今は部活に集中したいからごめんねつってる」

優しい嘘。サッカーを言い訳に使うとは、罪な男に育っちまったな。

「嘘つき、今にでもサッカー辞められるくせに」

「いや、別に嘘じゃないし。今更やめれんよ」

隼人は、珍しく含みのある笑みでこちらを見てきた。一度全国まで来てしまえば、優勝という栄光をつかもたくなってしまうものだ。きっとそれは、誰にだって思うことなのだから。

「……ダル」

より一層不機嫌な声で真白が呟く。俺以上に面倒事を嫌うこいつからすれば、迷惑極まりないのは、否定しない。だが、もう少しばかり、愛想というものを持ち合わせいても良いのでないだろうか。

「そもそも、話した事も無いやつにそんな気ぃ使うのも面倒じゃないっすか。あと、好きな子がどうとかも、ベラベラ喋りたくないんで」

乙女か!え、ていうか何だ。好きな子がいるのか。別にさっきまで、好きな子がどうとか隼人は言ってないのに。断った理由は、好きな子がいるからか。

気づいちまったぜ。この謎言及するしかねぇな。

先輩という名にかけて。

「つまりは、好きな子がいるから断ったと」

「なっ!」

顔を真っ赤にして固まる左翼。図星だ。生意気だが、こういう分かりやすいところがかわいい。からかいたくなってしまうのは、先輩の性だろう。

「ねー、隼人くん聞いた?好きな子だってぇ」

「マジか。えー、花咲じゃないだろ?」

花咲とは、我がツバメ高校サッカー部の三年女子マネージャーである。本名は花咲鈴。彼女は、癖という癖を煮詰めて、濃縮したような女だ。真白には、些か刺激が強すぎる。

「あ、一年の花田とか?」

「ばっ、馬鹿じゃなんですか!」

隼人の口から出た名前に、ピクりと反応する真白。またもや図星こうもこうもわかりやすいと、いつもの生意気もかわいく見えてしまう。

それにしても、花田か。確かに真白が好きそうな雰囲気ではある。

花田ゆうか

俺の従妹で、真白の同級生だ。ふわふわした感じでいかにもモテそうな女という感じだ。

「花田か、なんかうん。分かるわ」

「なんなんすか、ガチダルい」

真白は、きっとこちらを睨みつける。

しかし、全くもって覇気がなく、こちらが軽く否してしまうのも容易だ。

そんな様子を感じ取ったのか、俺たちを置いてスタスタと進んでいってしまう。ちょっとばかり、意地悪して見たくなった俺は、左翼の背に向かって呼びかけた。

「あ、花田の好きなタイプ知ってるか?」

速いピッチで、回転していた足がピタリと止まる。そのまま、時を戻したかのように、こちらへ向かってくる。

「知らないっすけど」

「教えてやるよ」

少しばかり期待に満ちた目をこちらに向ける真白。心の奥の加虐心がそそられる。意地の悪い気持ちを押さえ込み、笑ってみせる。

「サッカーが強ぇやつ」

真白の恋心によって、彼女との昔の会話を思い出したのだ。

“私、サッカーが強い人が好きなの”

中学時代に、後輩に頼まれて聞きに行った時に返された。アイツの上手いの基準は、どこなのかは知らんけど。

言い切ったことに満足して、俺は少し歩みを進めた。

振り返ると、よろしくない時の笑みを浮かべた右翼と呆然と立ち尽くす左翼。一体何があったのか。


俺は、知らない。


もう一度言う。


俺は知らない

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