そしてオレはそのまま透子をある特別な場所まで連れて行く。
「屋上?」
「そう。ここは普通の社員は入れない屋上」
会社の最上階にある屋上。
いつか透子を連れて来たかった場所。
「すごい・・・。こんなオシャレで素敵な屋上なんてあったんだ」
「知らなかったでしょ? ここは親父が自分の居心地いい空間を密かに個人的に作ってる空間でさ。親父や上にいる特別な人間しか入れない場所」
「そんなところに私が入っていいの?」
「もちろん。オレにとって透子は特別な存在だから」
「樹・・・」
特別な透子だから入れる特別な場所。
「透子。こっち来て」
そしてそのまま透子の手を引っ張って、お気に入りのフェンス沿いまで連れて行く。
「うわぁ・・・すごい・・・」
高い屋上から見下ろせる街一面が光り輝いて特別な空間が広がる。
どこまでも広がるその景色の美しさを、その特別な景色を、いつか透子にも見てほしかった。
「オレここから見える景色がすげぇ好きでさ。社長の代わりにいろいろ仕事こなしてた時とか、正直くじけること何度かあって。そんな時には、いっつもここに来て気分晴らしてた」
気分が落ち込んだり、むしゃくしゃした時に、ここへ来たら自然となぜか心が癒されて。
オレの悩みなんて、こんな景色に比べたらちっぽけなことに思えてくる。
悩んでることもどうにかなるんじゃないかって、頑張る意欲が湧いて来る。
「そっか・・。樹もそんな時やっぱりあったんだね」
「もちろん。オレ元々そんな完璧なヤツじゃないしさ。自分で自分の出来なさや不甲斐なさに落ち込むことなんてしょっちゅうだったよ」
「私の前ではそんな姿、全然見せてくれなかったから、そこまでなってるなんて気付いてあげられなかった。ごめんね」
「透子がなんで謝んの(笑) オレが透子の前では完璧な男でいたかったんだから当然でしょ。出来ない弱いオレとか透子には絶対見せたくなかった」
「樹は樹でいてくれたらそれでいいんだよ? 私だって全然完璧な人間じゃないし、自信ない人だし。だから私は樹のその存在自体に助けられてる」
「うん。多分これは男としてのオレのプライドみたいな感じかな。年下の自分ってこと意識させたくなかったのかも」
「えっ・・?」
「透子。実際そこ、気にしてたでしょ?」
「・・・・うん。多分」
この景色を見て、透子を想いだして、透子に釣り合う完璧な男になるために頑張る日々だった。
ただ透子に頼られる男になるために。
自信を持って透子を迎えに行ける男になるために。
「オレはさ、何度も言ってるけど、そんなの気にしてないし、意識する瞬間もこれっぽっちもないけど。でもきっと透子はそうじゃないんだろうなっていうのはわかるから」
きっとそれは透子しかわからないことで、いくらオレが何を言ってもきっと透子の問題で。
オレにはどうすることも出来ないなら、せめて、そう感じさせないほどの男になるしかなかった。
「でも実際はさ、オレが年下で年齢が離れてる分、正直頼りないとことかあるのも事実だろうし」
「いや、樹はそんなこと感じさせないほど頼りがいあったよ?」
「そう。だからそう思わせたかった」
透子がそんな年齢差を気にならないほど、オレが頼れる男になって完璧な透子を守れる男になれば、きっと気にならなくなるとそう思った。
「年下だから可愛いとか、年下だから頼りないのは仕方ないとか、自分が守らなきゃとか、透子にはそんな風に思わせたくなかった」
オレは透子の隣にいたい、守ってあげたい。
ただ生まれた時期が少しオレの方が遅かっただけで、透子を想う気持ちも守りたいと思う気持ちも誰にも負ける気はしない。
仕事でも経験ある透子にそう思わせるには、相当の努力が必要だともわかっていた。
だけど、そんな透子にそれを感じさせないくらいの男になれば、その時ようやく透子と対等の関係になれると思った。
「オレは年下だからってそんな言葉やイメージで、オレを見てほしくなかった」
年齢なんか気にせず、一人の男として、仕事仲間として、頼ってほしかった。
そしてそんなオレを好きになってもらいたかった。
だからオレはずっと透子に伝え続けていた。
オレにとってずっと透子は特別な存在なのだと。
透子だから特別なのだと。
「そだね。結局それをずっと意識してたのは自信がない私の問題なだけだったんだよね」
だけど、きっとそんな透子だからオレも惹かれたのかもしれない。
そんなに何でも出来る完璧な女性で、誰もが憧れるような人なのに。
どこかしら自信無く誰に対しても気を遣える人。
全部自分で背負いこもうとしてしまう。
そんな透子だからオレは守ってあげたいと思ったのかもしれない。
「だからオレは透子が不安にならないように経験も自信も全部身につけて、ずっと透子に気持ちを伝え続けた」
「うん。樹はずっとそうやって気持ちを伝え続けてくれてた。ダメだね。年上なのにこんな自信なくて頼りないなんて」
「ホラ。またそう言う」
「えっ?」
「また年上だからって」
「あっ・・・ホントだ」
だけど、今は昔ほどその言葉が透子を苦しめているとも思わない。
きっと今はもう透子もわかってくれている。
だからこれからもオレがそんなの気にならなくしてあげるから。
「透子はそれでいいんだよ」
「このままで・・?」
「そう。別に自信なくたっていい。年上だからって頼りがいある透子を求めてるワケじゃない」
「樹・・・」
「自信がなければ自信持てるように、オレがいつでもどこでもずっとこの気持ち伝え続けてあげる」
「うん・・・。こうやって樹が気持ちを伝え続けくれたから、どんどん自信も持てるようになった」
「でしょ? それに透子が頼りがいあったら困るのオレだし」
「え? なんで?」
「透子にはオレに頼ってほしい。オレが透子をこの先もずっと守るから」
「樹・・・」
どんな透子だってかまわない。
どんな透子でもオレが透子を好きな気持ちは変わることなんてない。
どんな透子だってオレにとっては愛しい存在。
「オレは透子が頼ってくれれば、それがオレの自信になる」
年齢も立場も関係なく、一人の男として、オレに頼ってほしい。
もう透子を守る自信はついたし、覚悟もちゃんと出来てるから。
「やっぱ樹ってすごいや」
「何が?」
「私がずっと悩んでたことや気にしていることも、こうやって簡単に解決してくれて、それどころかこんなにも幸せな気持ちにさせてくれる」
「ただオレは透子が好きなだけ」
「うん。その気持ちだけで、こんなにも救われるんだね」
「それを言えば、オレの方こそ透子がいてくれるだけで、たくさん救われて来たから。透子がいなきゃ今のオレはいないんだよ? 透子がいることで今のオレはここにいる」
「そっか・・。あの日出会えたから、今の樹はいてくれてるんだ」
「そうだよ? だからオレたちの出会いは必然だって言ったでしょ?オレたちが今こうしていられることは、自分たちで作ってきた必然的な運命ってこと」
「そうだね。この年齢とこの関係だからこそ、今こうしていられるってことだもんね」
「そう。だから透子はずっとオレを信じて、そのまま好きでいてくれればそれでいい。そしたらオレが透子をずっと幸せにしてあげる。オッケ?」
「オッケー。大丈夫。今はもう何の不安も心配もない。ただ樹のこと今までよりも、もっともーっと好きになったってだけ」
「なら、これからもっと幸せになるだけじゃん」
「そだね」
ほら。オレ達が一緒にいればただこれからもっと幸せになるだけ。
オレは透子がいることで救われて、透子はオレがいることで救われる。
こんなに最高な関係ないでしょ。
だけど。透子が思うよりもオレの方が何倍も何百倍も救われてるけどね。
こんなにもオレの人生まるごと救ってくれた透子の存在はホントに言葉にならないくらいなんだから。
そんなオレの運命を変えてくれた透子はオレにとってかけがえのない特別な存在。
きっと一生かかってもこの想いの大きさも深さも表わすことが出来ないほど。
それほどオレの透子への想いは、果てしなく大きい。
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