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第1話『遊び人とヘタレ』
「なあ、玲央。今日、寄ってかね?」
「……は? どこに?」
「俺んち。親いないし、ゲームやんね?」
放課後、校門を出たところで声をかけてきたのは、いつも通りの軽い調子の蒼真だった。
玲央は、鞄の持ち手を握ったまま一瞬戸惑って、すぐに視線を逸らす。
「……べつに、いいけど」
「マジ? サンキュ。あ、俺んち初だよな。歓迎するぜ、玲央くん」
蒼真は冗談めかして玲央の背中をぽん、と叩く。その手が自然に触れてくるのが、ずるい。
ほんの少しだけ心臓が跳ねたのを、悟られないように歩幅を速める。
彼はクラスの人気者。明るくて、ノリが良くて、女子からも男子からも好かれてる。
けど──噂では、女の子に手が早いらしい。
そんな彼が、なんで俺なんかとつるむのか。正直、よく分からない。
***
「うっわ、マジで来たのな。……ちゃんと掃除しといて良かったわ」
蒼真の部屋は意外と片付いていた。ベッドに放られたクッション、壁際のゲーム機器。
玲央は部屋の隅に座って、鞄を抱えるように膝の上に置いた。
「玲央、もっとくつろげよ。なにか飲む?」
「水で……いい」
「ん、ほい」
ペットボトルを渡されて、軽く会釈。
そのやり取りさえも、なぜか胸がくすぐったい。
しばらくゲームをして過ごし、互いに笑ったり、冗談を言い合ったりするうちに──距離が近くなっていることに、気づく。
ベッドに並んで座ったまま、ゲームのコントローラーを持つ手がふと触れた瞬間。
蒼真が、視線をこちらに移した。
「玲央ってさ、意外と可愛いとこあるよな」
「……は?」
「ほら、そうやってすぐ赤くなるとことか」
「なっ……べつにっ……!」
玲央が動こうとしたその瞬間、蒼真が手を伸ばし、後頭部の近くに軽く触れた。
一瞬、抱き寄せられるのかと思って息が詰まる。
──けれど、彼の指先はほんの少し髪をいじっただけで、すぐに離れた。
「……んー、ちょっとしたイタズラ」
「……ばか」
玲央の頬が、ほんのり赤く染まったまま。
蒼真はその様子に、心から楽しそうに笑った。
***
帰り道。玲央は、蒼真の横顔をこっそりと盗み見た。
「……あのさ」
「ん?」
「なんで、俺と一緒にいるの?」
「え?」
「クラスじゃ……お前、人気あるし……俺なんかと一緒にいても、つまんないだろ」
「……」
蒼真は一瞬沈黙して、次に、にかっと笑った。
「玲央、面白いから。なんか、からかいがいあるっつーか」
「……やっぱ、そういう理由か」
「でもな」
蒼真の声が、ふと低くなる。
「……その反応、俺、けっこう好きなんだよな」
その言葉に、心臓が跳ねた。けれど──その真意は、まだ玲央にはわからない。