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第一話「青に触れる衝撃」
白い昼。
広場に宝石たちが集まっている。
中央には、黒衣の教師——田角陸。
「東側に歪みがある」
短い言葉。
「深追いはしなくていい。確認を優先」
それだけ告げると、静かに一歩下がる。
指示は最小限。
判断は宝石に委ねる。
広場の端。
黒が座っている。
ブラックダイヤモンド——葛葉。
光を吸う、最硬。
その隣に透き通る青。
アクアマリン——叶。
「今日静かだね」
叶が空を見る。
「嵐の前だろ」
葛葉は短く返す。
「不穏なこと言わないでよ」
「事実だろ」
少し離れたところで、赤が刀を確かめている。
ルビー——剣持。
「ブラックダイヤが前線なら、耐久は問題ない」
冷静な声。
その横で、緑が笑う。
エメラルド——三枝。
「いやいや、あの人単騎特攻するじゃん」
「しねぇよ」
葛葉が即座に否定する。
「するよ」
叶が即答。
「お前味方だよな?」
「一応」
小さな笑いが起きる。
まだ、空気は穏やかだ。
巡回。
前列に葛葉、剣持。
左右に三枝と不破(紫水晶)。
後方に叶。
「今日は散開でいきましょう」
剣持が淡々と指示を出す。
「共鳴が本当なら、密集は危険」
「共鳴ってそんなやばいの?」
三枝が首を傾げる。
叶が答える。
「衝撃じゃなくて、中を揺らすらしいよ」
「中?」
不破が自分の胸元を見る。
「見えない攻撃ってこと?」
その瞬間。
空が裂けた。
白い輪。
月人。
「はい来た!」
三枝が跳ぶ。
矢が降る。
葛葉が前に出る。
黒い刃が振り抜かれる。
衝突。
硬度10の衝撃。
月人の一体が砕ける。
「遅ぇ」
低く呟く。
だが。
今までと違う。
月人の中心から、音ではない波が広がる。
低い振動。
空気が歪む。
「……これか」
剣持の声が硬い。
波が走る。
葛葉の身体が僅かに止まる。
砕けない。
だが。
内部が揺れる。
「っ……」
ほんの一瞬。
呼吸が乱れる。
その背後。
第二波。
「葛葉!」
叶が叫ぶ。
反射的に前に出る。
青が、黒の前に入る。
振動が直撃する。
空気が圧縮される。
ぱき。
今度ははっきり聞こえた。
叶の胸元に細い線。
透明な青の内部に、淡い亀裂。
時間が止まる。
「……何してんだ」
葛葉の声が低い。
叶は息を整える。
「揺れてた」
「だから?」
「放っておけないでしょ」
三枝が叫ぶ。
「下がれ!!」
不破が月人の注意を引く。
剣持が横から斬り込む。
「振動源を潰せ!」
葛葉の目が変わる。
怒りではない。
焦り。
一気に踏み込む。
黒が閃く。
連続で三体を砕く。
だが振動は止まらない。
叶の亀裂が、微かに広がる。
「……やば」
本人が小さく呟く。
葛葉が振り返る。
その瞬間、最大の波。
「下がれ!」
葛葉が叶の腕を掴み、後ろへ引く。
自分が前に出る。
衝撃。
直撃。
地面が抉れる。
葛葉は立っている。
だが。
内側が、軋む。
田角の声が静かに響く。
「十分だ。退く」
短い。
強い。
その一言で、全員が動く。
田角が前へ。
月人を見据える。
白い輪が、揺らぎ、消える。
戦闘終了。
叶が膝をつく。
「……あー、やっぱきてる」
葛葉がしゃがみ込む。
「見せろ」
「平気だって」
「見せろ」
青い胸部に、細い亀裂。
深くはない。
だが。
内部まで届いている。
剣持が冷静に言う。
「共鳴は、透過率の高い宝石に強く出る」
三枝が顔をしかめる。
「叶、モロじゃん」
叶は苦笑する。
「笑えないね」
葛葉が低く言う。
「次、前出んな」
「無理」
即答。
「なんで」
「葛葉、また一人で突っ込むでしょ」
言い返せない。
沈黙。
不破がぽつりと漏らす。
「にゃはでもさっき、ブラックダイヤも揺れてたよね 」
空気が止まる。
葛葉の視線が鋭くなる。
「見間違いだろ」
「いや」
叶が静かに言う。
「揺れてた」
葛葉は黙る。
田角が近づく。
「亀裂は浅い」
穏やかな声。
「だが、次は深くなる可能性がある」
叶が笑う。
「じゃあ、次は気をつけます」
田角はそれ以上何も言わない。
ただ、全員を見渡す。
「今日は修復を優先しよう」
短く告げ、去る。
夕暮れ。
叶は座ったまま空を見る。
葛葉が隣に立つ。
「……悪い」
小さな声。
叶が目を丸くする。
「なにが?」
「庇わせた」
叶は少し考えてから言う。
「全然」
「だって」
「葛葉が砕けるほうが嫌だから」
その言葉が、重く落ちる。
葛葉は息を呑む。
遠くで月が淡く光る。
叶の内部で、まだ微かな残響が続いている。
次に同じ波が来たら。
今度は、浅い亀裂では済まない。
誰もまだ、そこまで想像していない。
でも。
戦場で叶が葛葉の前に立った瞬間。
未来はほんと少しだけ決まった