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夜空は鈍色に染まり、雨が静かにタワーの鉄骨を叩いていた。
そこは、かつて王都全域のメディアを制御していた《第六通信塔》。
今は立ち入り禁止区域とされ、政庁の記録からも消された場所だった。
ノア――クロウ・ラディウスは、仮面越しに監視カメラの映像を見ていた。
契約者たちが、命を賭けてその声を拡散するために集っていた。
「始めようか。命の代償に、未来を乗せる」
彼の呟きと共に、箱舟の突入班が動き出す。
その中心にいたのは、契約者No.3ハイデ・ラマシュ。
元軍事技術者。
彼女の能力は、《重圧化(グラヴィ・レイ)》自身が触れた物質の重力を数倍に増加させることができる。
彼女はその能力を使い、階段や通路を封鎖しつつ突入していた。
だがその能力には代償があった。使用中は自らの身体にも重力がかかるのだ。
(それでも……前へ)
腰を砕かれながらも、ハイデは進んだ。
命を賭けても、この信号を中央塔に到達させねばならなかった。
「信号増幅装置、残り35秒で接続……!」
塔の内部、ノアと連携する少年契約者が叫ぶ。
その声に続き、背後の鉄扉が吹き飛ばされた。
白い甲冑。無音の進軍。
現れたのは、白冠騎士団の第一分隊長 ラダ・エルステッド。
「命令:拡散電波の沈黙。対象、排除」
ラダが無言で抜刀し、ハイデの肩を切り裂いた。
「……チッ、予知能力持ちか」
ハイデは膝をつきながらも、左手で床に触れる。
その瞬間、塔の床が異常な重力で沈下し、白冠の兵士たちがバランスを崩した。
「予測できても、重力の変化は読めないでしょ……!」
その隙をつき、仲間が制御室に突入。
拡散装置がノアの指示で起動を開始する。
「……届いてくれ……この声が……!」
しかしそのとき、もう一人の白冠能力者が現れた。
名は、エリーゼ・クラナハ。騎士団の静刃と呼ばれる者。
彼女の能力は《斬断音域(サイレンス・スラッシュ)》
一定範囲の**音と衝撃波を無効化できる。
「この塔は、王の命によって沈黙する」
空間が静寂に包まれる。
仲間の叫び声が聞こえない。爆音も響かない。
音が失われるということは、発信も停止するということ。
ハイデは、喉の奥から血を吐き、意識が遠のく。
(駄目なの……? 私たちは……)
だがその瞬間――
《契約者No.1:セラ・グレイ、代償を上書きします》
拠点からノアの声が届いた。
セラが、再び自らの声を差し出したのだ。
彼女の音域は、国家側の無音干渉すら共鳴で乗り越えることができる。
《……願いは、届く》
塔の最上部――拡散アンテナが起動した。
映像と音声が、王都中に一斉に放たれた。
ノアの演説
「この国では、沈黙が正義とされている。
だが沈黙は、弱者にとって声を殺せという命令だ」
「君が叫べないなら、代わりに俺が叫ぶ」
「願いを語ることは、罪ではないそれは、生きている証だ」
それは、確かに届いた。
市民たちの中で、耳をふさいでいた者たちの手が、そっと耳から離れる。
「……これが……ノア……?」
塔の地上。
ミレイユは剣を握り、空を見上げていた。
「負けたのは私たちか…」
白冠部隊は、能力封じが解除された瞬間に撤退命令を受けた。
命令は「演説そのものを止められなければ、これ以上の民衆刺激は避けること」
だがミレイユの心には、別の声があった。
「本当に、私が信じていた正義は、ここにあったのか……?」
塔の瓦礫の上に、重傷のハイデが座りながら、血塗れの笑みを浮かべていた。
「……ノア、届いたよ……」
ノア陣営は大きな代償を払った。
複数の契約者が重傷を負い、データ拠点も露見した。
だが、それでも言葉は沈黙を破った。
崩れかけた塔の影で、ノアは静かに呟いた。
「沈黙は、壊れた。
次は王の心臓部に、届かせる」