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病室の廊下を歩くと、
看護師たちのささやきがすぐに耳に入った。
「若井先生って本当に完璧……!」
「元貴くん、羨ましいわ……」
「今日も元気に患者さん回ってるわね」
……ふん、俺には関係ない……
とは思いつつも、胸の奥がざわざわする。
若井が目の前で、
にこやかに他の患者さんに声をかけている。
白衣の裾が揺れ、笑顔がまぶしい。まぶしすぎる。
俺はベッドのシーツをぎゅっと握りながら、
知らず知らずのうちに顔を赤くしていた。
「……なんで、あの人は誰にでも優しいんだ……」
涼ちゃんが横で微笑みながら、
「若井呼びの特権は元貴だけだよ」
と小声で言ってくれる。
その声に少し安心するけど、
心臓はますますドキドキしてしまった。
昼食の時間、若井がふと俺のベッドサイドに近づく。
「元貴、食欲はどうだ?」
「……まだ少しだけ」
「ああ、じゃあこれなら大丈夫だろう」
若井はトレーの上に、特製のスープとおにぎりを置いた。
他の患者たちの視線なんて気にせず、ただ俺にだけ微笑む。
涼ちゃんも隣で「俺も手伝うよ」とスープを混ぜながら言う。
けど、若井の目は完全に俺に向いていて
その特別感が余計に胸を締めつける。
午後、若井が別の病室に向かうとき、
看護師たちのざわめきがさらに大きくなる。
「若井先生、かっこいい……!」
「元貴くんの隣にいるの、羨ましいわ!」
……くそ、嫉妬心がむくむくと湧いてくる。
思わずベッドの上でぷいと顔を背けると、
涼ちゃんが肩をぽん、と叩いた。
「ほら、元貴、変な顔してる。嫉妬してるの?」
「……っ、してない!」
涼ちゃんはニコニコ笑うだけで、
さらに俺の胸がきゅっとなる。
夕方、若井が戻ってくると、俺の頬に手を置き軽く撫でる。
「元貴、今日も偉かったな。よく耐えた」
その瞬間、嫉妬と安心と
恥ずかしさがごちゃごちゃになって
思わず俺は顔を隠す。
「……若井、ずるい……」
若井は耳元で囁く。
「ずるいのは俺じゃない。
元貴の方だろ、こんなに俺を求めてるんだから」
思わずぎゅっと手を握り返すと、
若井はにこっと笑ってベッドに腰かけ、
俺を抱き寄せた。
涼ちゃんもそっと手を添えて、
「二人とも落ち着けよ」
と笑う。
病室のざわめきも、
他の患者たちの視線も、今はもう気にならない。
俺の心を満たすのは、若井の手の温もり、
目の奥の優しさ、
そして隣にいる涼ちゃんの安心感だけだった。