引き続き、異星人対策室のジョン=ケラーだ。ティナからのメッセージを受け取った我々は、直ぐに対策を開くためにオンラインでの首脳会談を開くことにした。
ホワイトハウスの地下に新設されたこの部屋は、中心に講壇があり後は部屋の壁一面に無数のモニターが設置されている。数十年前に世界で大流行した伝染病騒ぎの最中に計画されたもので、国連の議場を介さずに国際会議が開けるようにと用意された部屋だ。オンラインであるため各国首脳は自国で対応することが出来るので非常に便利なのだが、ハッキングなど防諜の問題で余り使用されることはなかった。だが、今回はアードから提供された技術を用いて初めてのオンライン会議が開催される運びとなった。
アリアから提供されたもので、小さな箱のような形状をしている装置だ。地球の端末に対応するように改造されているらしく、この装置を経由することで少なくとも地球上ではハッキングや盗聴される心配は皆無らしい。
何故こんなものがあるかと言えば、ティナにも内密で我々がアリアの要望で自動化された生産施設を用意。後はアリアが必要な資材を持ち込ませて製作しているのだ。地球の規格に合わせてかなり妥協した産物らしいが、信頼できる。
念のため合衆国情報部がハックを試みたが、結論から言えば不可能らしい。内部のプログラムは完全にアード語。更に地球には存在しない数列や法則がふんだんに取り入れられており、地球人では解読することすら無理だとか。
まあ詳しい理屈は分からないが、取り敢えずハッキングされる心配がないならと今回のオンライン会議に持ち込めた。問題があるとするなら、何故か私も参加させられているのだが。今日はカレンと過ごす予定だったのだが……ケーキを買って帰らないとな。
中心の壇上にハリソン大統領が立ち、周囲にあるモニターには百を超える国々の首脳達が映し出されている。何度体験しても、この様な場は慣れないものだな。
「皆さんご多忙なのは承知している。前置きを省き、早速本題に移らせて貰おう。ケラー室長」
「はっ。ワシントン時間で二日前にティナからメッセージが届きました。先ずはご覧ください」
それぞれの画面にメッセージが映し出されている。ふむ、大半の首脳は驚いたり表情を険しくさせているな。
……ん、日本の椎崎首相だけは苦笑いを浮かべている。やはり彼女もティナの本質をよく理解しているようだ。味方が居るのは心強い。
『ハリソン大統領、お尋ねしたい』
最初に口を開いたのは……これは珍しい。中東連合のメルス首長か。
中東勢力は異星人問題に関して距離を置いているのが現状だ。積極的に関わろうとしていない。宗教関係の理由もあって、異星人に対して懐疑的でもある。少なくともこれまで中東諸国は動きを見せていない。
「伺いましょう、メルス首長か」
『このメッセージの内容は、様々な解釈をすることが出来る。我々としての懸念は、異星人による地球侵略が本格的に始まるのではないかと言うことだ』
「それについては、御懸念無用と考える」
『何故か。大型艦を伴い、更に月に拠点を構築する。侵略に備えた橋頭堡と考えるのが自然だと思うが』
「地球の理屈ではそうでしょう。しかし、相手は十万光年彼方の惑星です。行き来するのも大変ですし、その為の拠点構築と考えれば不思議ではありません」
『何故断言できるのか疑問だ。あの異星人の策略である可能性を否定できまい』
ふーむ、確かに一理あるな。少なくとも地球でなら大問題、領土問題に発展する行為だ。
む、椎崎首相が手を挙げたな。
「では、これが策略ではないと私が断言しましょう。私の政治生命を賭けます」
『……椎崎首相、随分な自信だ。貴女が異星人と懇意であることは承知しているが』
「メルス首長、それと不安を感じている皆様。ティナちゃんに侵略の意図はありません。この問題は解釈の違いによるもの。彼女は月の所有権がどうなっているか知らないだけです。次に来訪した際に私からちゃんと説明しますから、ご安心を」
強かだな、ティナとの良好な関係をアピールしつつ然り気無く次の来訪地も日本だと発言している。三番目を狙って各国が水面下でやりあっているのは知っているだろうに。ハリソン大統領も苦笑いだな。
だが、彼女が請えばティナは迷わず日本へ行くだろう。そう思わせるだけの深い繋がりがある。ふむ、私では説明するのも難しい。椎崎首相に任せてみるのも悪くないが。
『では誤解によるものであるとして、アード側が拠点構築を望んでいるのは事実でしょう。月は我々地球人の財産だ。土地を提供するのだから、見返りを要求するのは当然と思わないかね?』
黄卓満、中華が動いたな。
『黄卓満主席、先ずは誤解を解いてから。それからこの件を話し合うべきではありませんか?』
「椎崎首相の言う通りだ。この場はメッセージの共有だけにしよう。誤解を解いた後改めてアード側と交渉する。それで構いませんな?」
ハリソン大統領が強引に纏めたな。黄卓満主席含めて複数の国が不満げだが……仕方あるまい。先ずはティナに説明しなければな。
翌日、統合宇宙開発局から緊急連絡があった。どうやらティナ達が太陽系へ戻ってきたみたいだ。しかし、ティナ……三倍はちょっとだけ大きいとは言わないよ……?
地球の軌道上へ辿り着いた艦隊を先ず見ることになったのはISSの宇宙飛行士達である。
「デカいっ!なんだこれは!?」
「五百メートル前後はあるぞ!?」
「まさに大型艦だな」
「スターデスト◯イヤーじゃねぇか!」
「ん?船体に模様があるぞ。アードにも迷彩の概念があるのかな?」
「いやまて、あれは迷彩じゃない!なんだあれは!?」
「ちょっ、妹さんがデカデカと描かれているぞ!?」
「はぁ!?なんだとぉ!?」
誰もがその威容とティリスの絵に驚愕。ティリスの絵の側には大きく日本語で船名が描かれていた。
「あれはなんだ、日本語?」
「おーい、タケシ!あれなんて書いてあるんだ?」
「えーっと……ふふっ!www」
「どうしたんだ!?」
「ぎっ……銀河一美少女ティリスちゃん号www」
「「「wwwwww」」」
日系人宇宙飛行士、タケシ=ニシムラ(増殖中)によって痛艦と表現され、世界中を困惑させて日本人を狂喜乱舞させた。
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