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『この手紙は僕が灰になったら__』
なんてぼやいたりしてさ。
君は僕が死んだら、泣いてくれるかな。
あわよくば抱きしめて欲しい…なんてね。
まだ夜も明けきらない星が残っているような時間
静かに俺のスマホが震え、プルルル…と2回鳴った。
寝起きで意識が朦朧とするまま鳴り続けているスマホに手を伸ばす
ぼーっとした目を擦り着信の相手を見ると“彼”だった
「…もしもし」
少し安心したような声色で電話口の彼は応答した。
「どうしたの?」
「いや、特に用事はないんだけどさ…」
歯切れ悪く答える彼はいつもよりもなんだか脆くて消えてしまいそうな気がした。
「本当に?何か話したいことあるなら…」
「本当に声聞きたかったって言うかさ、まぁ、深い意味はないから。」
「…またね」
プツッ
「あ…」
なんとなく、本当になんとなくだけどすごく嫌な予感がして俺は彼の好きだと言っていた夜景が見れる場所に向かっていた。
今までにないくらいに心臓が脈を打ち、息も吸いづらくなってくる。
もう少し、もう少しであの場所に…
赤い光が目の前いっぱいに広がっている光景をみて俺の嫌な予感は現実になったんだと思った。
まだ夜も空け切っていないのに集まっている野次馬をかき分けた目の前には人だと分からないくらいに無惨な姿になった彼の姿があった。
俺は気付けば黄色いテープをくぐって、俺を止める奴らの手を振り払って俺は夢中で彼を抱きしめていた。
屋上から飛び降りたのだろう。もう生きていないことは一目見て分かった。
どんどん冷めていく身体をどれだけ抱きしめても体温は戻ることなんてなく、俺はあっという間に周りの人間に引き剥がされてしまった。
次に彼を見たのは警察署の霊安室だった。
俺はずっと彼の死体を抱きしめていた。
そこに体温はなかった。
何時間居たか分からない。
警察官に声を掛けられるまではずっと彼の側で答えも出ないことを問いかけていた。
君は世界を嫌いになった?
嫌いになった方が幸せだった?
今更どうしようないなんて分かってるけど…
分かってるけどやるせないよ
お腹は減ってない?
そっちは寒くないかな
うざいよね、でもさ、割と心配してるんだよ
君の服にできたシワさえ愛おしいと思ってしまったんだ
あの時「またね」って言ったくせに。
この空の上でも君は死にたいなんて思っているんだろうか。
たとえそんなことを考えていたとしても性懲りも無く愛してしまうんだよ。
警察署からの帰り道、ふと君の名前を呼んでみても聞こえてくるのは風の音
「なんで、生きていればきっといい事だってあったのに」
なんて…
彼のいなくなる音がした。
何度も何度も彼の名前を呼んだ。
でも、彼の声は聞こえてこなかった
君を傷つけたもの全部ぶっ殺してやりたいな。
天国はきっと君の匂いがする
明けてしまった自殺前夜
きっと君は世界も明日の朝ごはんもどうでもいいと思えたんだよね。
「本当に?何か話したいことあるなら…」
あぁ、本当に優しいな。
でもね、今はその言葉を聞いちゃいけないんだ。
せっかく固めたこの決意が揺らいでしまうから。
だから、だからね、これでさよならだね。
「本当に声聞きたかったって言うかさ、まぁ、深い意味はないから。」
「…またね」
プツッ
もう『また』なんてないのに最期まで僕は__
「これでいいんだ、このままでいいんだ。」
「さよなら、またね」
涙拭って靴を脱ぎ捨てて世界の淵に立ったんだ
「怖いよ」
たった一言呟くだけでより怖くなる
どうかこの手紙を君が読んでくれるなら。
この手紙は僕が灰になったら…
この手紙は僕が灰になっても…
ねぇ、君に僕の思いを伝えてくれるのかな。
伝わってくれるのかな
end