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本日の仕事を終え、今日も洋樹と私のアパートに帰宅。
「重ッ。今日のダンボール、めっさ重いんだけど」
洋樹がアパートの宅配BOXを開け、実家から送られてきたダンボールを持ち上げた。
洋樹は、週に3、4日は私の部屋に泊まる。
私のアパートも洋樹のマンションも会社から徒歩圏内だから、どっちの部屋にお泊りしても良いのだが、私のアパートの冷蔵庫は、実家が送ってくれる食料のおかげでいつでも潤っている。なので洋樹はいつも、自分の部屋には呼ばず、私の部屋に来たがる。
「あぁ。多分中身、南瓜だよ。お母さんから『日花里の好きな南瓜がたくさん出来たので送ります』ってLINE来てたから」
洋樹に南瓜入りのダンボールを持ってもらったまま、部屋の鍵を開ける。
「俺、南瓜苦手ー」
洋樹が、持っていたダンボールを落としそうなほどに肩を落とした。
「知ってるよ。洋樹には別の野菜食べさせてあげるって。南瓜が傷んじゃうから落としちゃダメだよ‼」
玄関のドアを開きながら一緒にダンボールを運ぼうとすると、
「うん‼ よろしくお願いします‼」
洋樹は「これくらい一人で持てるって。日花里は先に靴脱いで部屋に入って」と、私の手を退け、背中を押した。
「ありがとう」と洋樹に言いながら部屋の中に入り、クローゼットに鞄を片すと、早速キッチンへ。
お腹を空かせた洋樹の為に、洋樹リクエストのドライカレー作りに取り掛かる。
少し遅れて入ってきた洋樹が、
「南瓜、ココに置くよー」
と冷蔵庫の近くにダンボールを置いた。
「ありがとう。先にシャワー浴びておいでよ。その間にちゃちゃっと作るからー」
仕事後のほんのり汗臭い洋樹に、お風呂に入る様に言うと、
「はーい。日花里の料理、楽しみにしてるねー」
と、洋樹はとても良い返事をして、クローゼットから着替えを取り出すと、お風呂へ向かって行った
洋樹は、基本的にとても優しい人間だ。
ちょっとした手助けにも必ず『ありがとう』と言うし、私が困っていれば手を貸してくれるし、私の料理も『おいしい』と言って食べてくれる。今みたいな、私が喜ぶような言葉もくれる。
そんな洋樹が大好きだった。
だけど、浮気をされて、洋樹の優しさが【特別私だけに向けられたものではなかったんだ】と思った時から、洋樹の優しさに胸がチクチクし出した。
曽根さんにも同じことをしていたんだろうな。曽根さんの料理も『おいしい』と言いながら喜んで食べたんだろうな。
優しい洋樹が好きなのに、優しくされて嬉しいのに、こんなにも切ない。
考えても仕方のないこと。浮気の事実は消えないし、過去に戻れるわけでもない。
「ふぅ」と小さい息を吐き、
「さっさと作らなきゃ」
エプロンを首に通し、腕まくりをした。
冷蔵庫から材料を取出しながら、ダンボールに視線を落とす。
付け合せのサラダ、私の分だけ南瓜サラダにして、洋樹の分はオニオンサラダにしようかな。
さっそくダンボールのテープを剥がし、南瓜を丸々1コ取り出した。
「立派な南瓜だなー」
私は田舎育ちの為、野菜の良し悪しはすぐ分かる。
洋樹も食べられたらいいのに……。
少し残念に思いながら、南瓜を1コ丸ごと蒸した。
南瓜を蒸している間にドライカレーと野菜スープと洋樹用のサラダを作成。
洋樹がお風呂から上がる前に、自分用のサラダも出来上がり、テーブルに並べた。
洋樹は女子並みにお風呂が長いので、洋樹待ちの時間に南瓜の煮物を作り、タッパーに詰めた。
「上手に出来たなー」と呟きながら、タッパーに入った南瓜の煮物の粗熱を冷ましていると、
「わー、いい匂い。お腹減ったー」
ようやく洋樹がお風呂から上がってきた。
「ご飯、準備出来てるから食べよー」
南瓜の煮物を放置し、料理の並んだテーブルに行くと、
「食べよう食べよう」
と、洋樹もテーブルを囲んだ。
『いただきます』と2人で手を合わせると、早速ドライカレーに喰らいつく洋樹。
「美味ーい」と笑顔で鼻息を漏らす洋樹を見ていると、嬉しいな。作って良かったな。幸せだな。と思う。思うけど……。
曽根さんの料理を食べてもそんな顔をしたのかな。と、どうしても考えてしまう。
単純に喜べない。素直に幸せを感じたいのに。こんなに捻くれたいわけじゃないのに。
洋樹と仲良く夕食を食べ終え、食器を片して一息つくと、お母さんに一言南瓜のお礼をLINEしようとポケットに手を突っ込んだ。
……アレ? 携帯がない。鞄の中かな。
テレビのバラエティを見ながら笑っている洋樹の後ろでクローゼットを開け、鞄の中を探る。
……ない。
「……会社だー」
ポケットにも鞄の中にもないなら、携帯の在処は会社しかない。
あぁ、そうだ。昼間に携帯の充電がなくなりそうになって、会社のアダプタに繋いだことを思い出す。携帯、アダプタから外した記憶がない。絶対に会社にあるわ。
「もう‼」と思わず自分の太ももをパシンと叩いた。
「どうしたー? 何、急に自傷行為し出してんの?」
洋樹がくるりと振り返り、「イライラしなさんな」と私の頭を撫でた。
「携帯、会社に忘れた。取ってくる」
すくっと立ち上がり、「私の馬鹿ー‼」と自分に悪口を叩く。
「携帯依存症かよ。でもまぁ、ないと何となく不安になるのは分かるわ。俺も行くよ。外暗いから」
洋樹も腰を上げようとするから、洋樹の肩を押して座らせた。
「大丈夫だよ。チャリで行くから。サーっと行ってサーっと帰ってくるから。洋樹はテレビ観てて。行ってきます」
「気を付けてね。何かあったらすぐ呼……べないじゃん。携帯ないじゃん。やっぱ一緒に行く」
折角座らせたのに、再び立ち上がろうとする洋樹。
「だーいーじょーうーぶ‼ 私、めちゃめちゃチャリ漕ぐの早いから。誰も追いつけないから」
今度は私が洋樹の頭を撫で、洋樹を宥める。
「日花里がそんなに運動神経良いとは思えないんだけど。寄り道しないで帰ってこいよ。本当に心配してるんだから」
洋樹が私のほっぺたを摘み、むにーっと引っ張った。
「お父さんかよ。心配してくれてありがとう。行ってきます」
洋樹に頬を掴まれたま笑顔を作ると、「変な顔」と言いながら洋樹も笑った。
「早く帰ってきてね」
「うん」
鞄を肩に掛け、玄関の棚に置いてあるチャリの鍵を手に取り、アパートを出た。
アパート脇の駐輪場に停めてあるチャリの鍵を開け、籠に鞄を入れると、サドルに跨った。
ペダルを踏み込み、会社を目指す。
仕事自体も会社も別に嫌いではないが、就業後に再度会社に行くのは、やや億劫。
お母さんへのLINEは明日でもいいし、どうしても携帯が必要な状態ではないが、携帯のある生活に慣れてしまうと、無いことが手持無沙汰。近くにあることが分かっているから、取りに行かないと気が済まない。
誰のせいでもなく、紛れもなく自分が悪いくせに「めんどくさいよー」とボヤきながらペダルを漕いだ。
支店が入っているビルに着き、支店のある階を見上げると、まだ電気が点いていた。
「まだ誰か残ってたんだ」と、誰が残業しているのか気にしつつ、ビルの駐輪場にチャリを停めた。
日中に比べるとかなり静かなビルの中に入り、エレベーターに乗り込む。
支店のある階で降り、セキュリティカードを翳して支店のドアを開けた。
コメント
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リオンです。第2話、読み終えました。 南瓜のエピソードから始まる日常の温かさと、その裏で洋樹さんの優しさに「曽根さんにも同じことを…」とチクチクしてしまう日花里さんの心情の対比が本当にリアルでした。大好きな人の優しさを素直に喜べない、その切なさが胸に沁みます。最後の携帯忘れ、そして会社の電気が点いている伏線—これは次に繋がる大事な布石ですよね。続きが気になります。