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このタイミングで隣国のレッドリア国に行くのは危険極まりない。王女のルアージュが宣戦布告をしてきたばかりなのだ。
「ヒルくん正気? 敵国に行くなんて自殺行為だよ。国王のくせに本当にバカすぎるよ」
「すげー毒舌だな……それに、まだ敵国じゃない。戦争にはなってないんだ」
ルアージュは王女だが女王ではない。国を動かす王権を持つ国王ではないので、宣戦布告は単なる挑発と見ていい。
「オレとランナがレッドリアの国王に会って掛け合う。和平外交ってやつだな」
「ヨル様じゃなくてヒルくんが行くの? なんで私まで!?」
「ヨルに外交は無理だろ。ランナはオレの花嫁だって証明するために相思溺愛っぷりを見せてやるんだ」
(ヒルくんにも外交は無理なんじゃ……)
一体、ヒルはレッドリア国に何をしに行くのか。単にランナと遠出してノロケたいだけとしか思えない。
ヨルの『ランナはオレの花嫁だ』の発言に嫉妬して対抗しているのは分かるので、そこは嬉しいと思う。
「あーあ。まったく、なんでオレがヨルの尻拭いしに行くんだよ。本当に迷惑な奴だな、さっさと殺してぇ!」
「……ヒルくんも毒舌だよ」
ヒルの毒舌も殺意も子供の悪戯っぽさが強くて全く迫力がない。どんな顔をして言ってるのかと思えば、なぜか楽しそうな笑顔。
「まぁ、ついでにレッドリアを観光でもして楽しもうぜ。ランナの両親の故郷だろ、情報収集も兼ねてさ」
ランナはハッとしてヒルの顔を見返す。彼の提案には、ランナに対するさり気ない気遣いも含まれていた。
ランナはヴァクト陛下の三人格の謎を解き明かしたい。そしてヒルはランナの両親の死の真相を一緒に解き明かしてくれる。
お互いが、お互いのために協力する姿勢。ランナはヒルと正式に結婚して、初めて夫婦という関係の心強さと温かさを感じた。
「ヒルくん、ありがとう」
ランナは隣のヒルの肩に頭を乗せて寄り添う。体だけでなく胸も熱くなる不思議な感覚が心地よくて、もう少しだけ彼の体温に触れていたいと思った。
それから数日後の正午過ぎ。昼食を済ませてからヒルとランナは馬車に乗ってレッドリア国へと向かう。
移動時間も含めて、ヒルの人格がヨルに変わる夕方5時までに全てを終わらせて帰る必要がある。果たして観光を楽しむ時間があるのかどうか。
ジョルノの王城を馬車で発って1時間ほどでレッドリアの国境前に着いた。
「わぁ、あれがレッドリアの国境なの? なんか要塞みたい」
馬車から降りて土の地面に立ったランナの前方には、国そのものを囲むような白い壁。
高さも横幅も最果てを目視するのが不可能なほどに巨大な石の壁で、ここからは国内の景色は全く見えない。
ランナの後に続いて馬車から降りたヒルもランナと同じ顔をして驚く。
「すげえ……レッドリアは聖域だから出入国も厳重に取り締まってると聞いてたが、ここまでとはな」
「え、ヒルくんも初めて来たの?」
「オレは初めてだ。外交はほとんどアサが担当してるからな」
(まぁ、そうなるよね)
ランナは妙に納得した。アサの紳士的な態度と天使の笑顔なら、どんな外交でも上手くいきそうだ。
それならヨルは何の仕事を担当しているのか……文字通り夜遊びをしているイメージしかない。
二人の正面には巨大な門がある。白く塗られているが、鉄格子ではなく隙間のない分厚い鋼鉄で頑丈な扉になっている。
「さぁ、行くぞ。オレは国王だから、どんな門でも簡単に通れるぞ!」
ドヤ顏でそう言う今日のヒルは、なぜかフード付きの黒いローブを着ている。国王ではなく魔術師のようだ。ランナは普段通りの金の装飾の白いドレスであった。
門の左右に控えている兵の一人にヒルが近付き、ジョルノ国王だと名乗って書状や紋章を見せる。すぐに重い扉がゆっくりと開かれた。
門を通ると、その先は城下町へと繋がる真っ直ぐな並木道が続く。遠くの街並みのさらに先に白く霞んだ城が見える。
ランナが驚いたのは、その街並みの色。民家も建物も全て白が基調で、さすが聖なる国と言われるだけあって見た目も神々しい。
(真っ白な国……アサ様には似合うけど、白が嫌いなヨル様は絶対に嫌がるだろうな)
しかし、ここから王城まで歩いて行くのは時間がかかりすぎる。ジョルノ国からは往復2時間かかるので、ヒルがレッドリアにいられる時間は3時間もない。
城下町の入り口まで来たところでヒルが足を止めた。
「ここに迎えの馬車が来るはずだ。……あ、来たかな」
城下町へと繋がる道の先から、複数の蹄の音と共に何頭もの馬がこちらに向かってくる。
しかし、その姿は明らかに馬車ではない。武器を携えた何十もの騎兵だった。
「ヒルくん……どういうこと? あれって軍隊じゃ……?」
「あぁ、まずいな。ハメられたか」
どうする事もできずに佇んでいる二人の周りを騎兵が取り囲んでいく。ランナはヒルの片腕に抱きついて不安そうに金の瞳を揺らす。
ヒルは臆する事なくランナを庇う形で前に歩み出て名乗りを上げる。
「オレはジョルノ国、第三国王ヒル・ヴァクトだ。敵意はない。ファイア陛下に拝謁を賜りたく、取り次いでもらいたい」
凛と響く高らかな声は、普段の少年のように無邪気なヒルからは想像ができないほどに堂々とした威厳を放っている。
そしてランナは、レッドリア国王の名が『ファイア』である事を初めて知った。
武装した甲冑の騎兵たちの表情は分からないが、全く引き下がる様子はない。
ヒルは和平交渉という名目上、敵意はないと示す目的で武器は持っておらず自国の兵や護衛も連れてきていない。
ジョルノ国・第三国王ヒルと、第三王妃ランナは完全に無防備の丸腰であった。