テラーノベル
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旅の商人トネルは、商用で地方を回ったのちに都へ向かうことにした。
ガタゴト、ガタゴト……
その街道を走る馬車の中で、トネルは隣の同業者と世間話に興じている。
「それにしてもバイローム地方には驚かされましたよ」
「へえ、そりゃ一体? あそこは一面の荒野で人の住まない土地と聞いておりましたが?」
「ええ。私もそう思っていたんですがね……」
商人という職業は、情報が命。
こうしたスピーディな情報交換も大事な仕事のうちであった。
「にわかに信じられませんな。あのような辺境にいきなり砦が建ち、町ができ、人々が集まっているなんて」
「私も目を疑いましたがね。本当なのです」
「うーん」
「まあ、信じるか信じないかはあなた次第です……おっ、都が見えてまいりましたぞ」
トネルはそう言って街道の先に見える都を指さした。
ここから橋を渡ればもう半日ほどで到着のはず。
窮屈な長旅もようやく終わり。
他の馬車の乗客たちからもホッと安堵の息が漏れた。
ガタゴト、ガタゴト……
しかし、その橋までたどり着いた時である。
「むむう、妙に並んでいますな」
「なかなか進みませんぞ」
あいにくの渋滞。
橋の前には都へ向かおうという馬車や人の列が連なっている。
あまり進まないので、馬車の主人が先の様子を見に出るシマツだ。
「こんなことは珍しいですね。どうしたのでしょう……」
トネルは隣の商人と顔を見合わせる。
で、しばらくすると馬車の主人が戻って来てこう言った。
「みなさんすみません! ここから先はどうも進めそうにありませんので迂回しようと思います!!」
「は? はぁああ?」
「ふざけんな!」
「どういうことですか!!」
乗客からにわかにブーイングが起こる。
この橋を渡らないとなると都へはかなり遠回りになってしまうのだ。
「し、仕方ないのです。どうやら橋が崩れてしまったようで……」
「橋の崩落ですか。復旧を待った方がよいのでは?」
と、トネル。
「「「そうだそうだ!」」」
これまで都周りの道や橋が壊れた時には、あっという間に……遅くとも一日中には修繕されてきたものだった。
今日も少し待てば橋を渡れるのではないか?
それなら迂回するより開通を待つ方が早い。
乗客たちはみんなそう思ったのである。
「残念ながらそうはいかんでしょう」
「はあ。何故ですか?」
「なんと言っても『予算のムダ』で有名な土魔法課が廃止されましたからなあ。復旧のめどが立っていないようなのです」
予算のムダ。
旧リーネ帝国における、ここ数十年の改革のキーワードである。
そのムダの削減の中心には『土魔法課』があり、つい先だって当課の廃止により改革はひとつの“理想”を体現したのであった。
「……だったらしょうがないな」
「うむ。しょうがない」
「しょうがないよ」
すると迂回に難色を示していた馬車の乗客たちも、うつむきがちに納得せざるをえなかった。
そう。
土魔法課の廃止は世論の信託を受けて議会で決定されたこと。
なんなら自分たちもそれに快哉をあげていた(あるいは快哉をあげるフリをしていた)ひとりなのである。
だから、誰も『土魔法課の廃止が間違っていた』とは言えない。
そんなことを言えば、この世で最も恐ろしい『空気』という万の軍勢を敵に回す可能性があるからだ。
ヒヒーン……!
青空に嘶きが響いて、馬車は反転する。
あと半日で到着のはずだったこの馬車が都にたどり着いたのは、それから一週間の後のことであった。
しかし……
こんな不協和音も、リーネの都の急速な凋落の、ほんの序曲にすぎなかったのである。
◇ ◆ ◇
俺は洞窟へもぐると、再びゴーレム狩りにいそしんだ。
ギャオオオオ!!!!
途中、そんな恐ろしい咆哮を上げるグリーンドラゴンにも遭遇するが、コイツからはまだ逃げることにする。
「アイツを倒せればこのフロアでもずいぶん自由がきくんだがな……」
そう思った俺は、レベル上げと同時に再びパワーストーンを回収することにした。
岩ゴーレムを倒すだけならばもはや攻撃力を上げる必要はないのだけれど、目標をグリーンドラゴンに設定すると『確実に一撃で倒せる攻撃力』が欲しい。
と言うのは、グリーンドラゴンの攻撃を喰らってしまっては瀕死間違いなしなので、下駄を履かせた攻撃力を嵩に必ず1ターンで戦闘を終了させる必要があるからだ。
〇パワーストーン 32
しかし、パワーストーンは希少な鉱物である。
すでにかなり採掘してしまっており、残りを探し出すのはいかにこのダンジョン底とは言え難しくなってしまっていた。
「攻撃力も2000近いしな……多分大丈夫じゃね?」
とは思うが、あのグリーンドラゴンの凶暴なルックスを見ると自信がなくなってくる。
あと一押し強くなっておきたい。
そんな時。
キラキラキラ☆……
岩のはざまに一等輝く鉱石が、少量ではあるが目に映った。
宝石の原石などの回収は後回しにしていたのだけれど、コイツは俺のカンが『なにか』であると発していたので採掘してみることにする。
「なんだろう?」
そう呟きながら黄金のつるはしを振るう俺。
すると、インベントリにはこのように表示された。
〇ミスリル 2
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