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「おはよー♪」
私たちが宿屋の食堂で朝食をとっていると、ジェラードが現れた。
「あ、おはようございます!
戻っていたんですね」
「うん、3時くらいに戻ってきたよ。
さすがに遅かったから、ルーク君の部屋には行かなかったけど」
ルークの部屋……というのは、受付に頼んでいた伝言のことだね。
すぐ合流できるように、そんな伝言を残していたのだ。
「別に、起こして頂いても良かったのですが」
ルークの言葉に、ジェラードは静かに首を振った。
「いやいや、さすがにそれはね。
朝に会えれば良いかなって、そのまま寝ちゃったよ」
「でも、4時間も寝ていないわけですよね?」
「睡眠はまたどこかで取るから大丈夫。
これからちょっと出かけないといけないから、また夜にでも話をしようよ」
「そうですね、それでは今日の夜に。
ガルルンの置物も受け取ったので、みんなで見ようって話していたんですよ」
「あ、そうなの?
僕のことを忘れないでいてくれて、嬉しいねぇ」
「でも、ネタバレは止めてくださいよ!」
「あはは、もちろんさ。
それじゃ、待ち合わせがあるから僕は行くね」
「「いってらっしゃーい」」
「いってらっしゃい」
挨拶を終えると、ジェラードは小走りで食堂を出て行った。
「……慌ただしい人ですね」
「今は何を動いているんでしょうね。
そこら辺のお話も、夜に伺いましょう」
「そうですね!
あ、そうだ。明日の話ですけど、自由行動にしませんか?」
「え? 急にどうしたんですか?」
「ほら、今日は街中をいろいろ回る予定じゃないですか。
そこでそれぞれ、何か見たいものとかやりたいことが出来るかな……って思いまして。
私は錬金術師ギルドをじっくり見てみたいですし、ルークは武器屋をじっくり見てみたいかな、とか」
「わたしは?」
「エミリアさんは、お部屋の片付けがあるじゃないですか!」
「ぐふっ……。わ、分かりました。オティーリエ様がいないことを祈りつつ、行ってきます……。
大聖堂に行くのであれば、大司祭様に滞在先もお伝えしようと思うのですが……この宿屋で大丈夫ですか?」
「うーん、とりあえずそれでも良いですかね?
1週間後には褒賞の件でお会いするでしょうし、それまではそうしておきますか」
「分かりました、それでは明日伝えておきます」
「アイナ様、私も承知しました。
今日のところは、武器屋はさっと確認する程度にしておきましょう」
別にじっくり見ても良いよ……と言おうとしたけど、そうしたら私の錬金術師ギルドも同じ感じになっちゃうかな。
今日はさっと見て、明日じっくり見ることにしよう。
「了解! お金が必要なら、前に出したボーナスを預かってるから教えてね」
「大丈夫です、即買いはしませんので。
欲しいものがあっても、しっかり検討することにしているんです」
おお、それは素晴らしい。
私は我慢しないでポーンと買っちゃうタイプだから、家に持ち帰って検討できる人って尊敬してしまう。
「うん、分かった。足りなかったら用立てするから、気軽に教えてね」
「ありがとうございます」
二人にはお給料のようなものを渡しているけど、高いものは高いからね。
そして高いものは、基本的には良質のものだ。
長い旅路なんだから、できるだけ良いものを買って欲しい……というのが私の思いではある。
……私も遠慮なく、高いものを買ってるわけだし。
そういえばダイアモンド原石の一件以来、特にお金稼ぎはしていないなぁ。
金貨は5000と数百枚が残っているけど、調子に乗ってたらすぐに無くなりそうなんだよね。
オリハルコンが金貨5000枚で売ってたら、迷わず買ってしまうだろうし……。
……欲しいものがものだけに、お金ももっと稼いでおいた方が良いんだろうなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少し時間を潰してから、朝の10時頃。
私たちは宿屋から出て、王都の街を歩いていた。
「それでは今日は、錬金術師ギルドと、武器屋と、装飾魔法を覚えられるところを探す……って感じですね」
「はい、まずは錬金術師ギルドに行きましょう。
でもアイナさん、じっくり見るのは明日なんですよね?」
「はい。今日は場所の確認と、中の様子を軽くだけ見ておきたいです」
「分かりました!
錬金術師ギルドは、魔術師ギルドと隣り合っているんですよ」
「へぇ……。やっぱり関係性が強いんですね」
「はい。錬金術には魔法が必要なときもありますし、魔法には錬金術の道具が必要なときもありますし」
「なるほど。
……ところで、魔法と魔術って違うんですか?」
「厳密な違いは無いんですけど、魔術というのは手順を踏まえて行う魔法のことを指しますね。
魔法はあっさり、魔術はこってり、って感じです」
いや、ラーメンみたいに例えられても。
「では魔術師ギルドというのは、魔法使いギルドって言うのと同じ感じなんですね」
「そうですね。
でも、簡略化できない魔法も扱っている……という意味を込めて、魔術師ギルドと名乗っている感じでしょうか」
「ふむふむ、なるほど。何となく分かりました」
話をしながら30分ほども歩くと、大きな建物が2つ並んで見えてきた。
「あ、もしかしてあの建物ですか?」
「はい、そうです。
右が魔術師ギルドで、左が錬金術師ギルドです」
建物の大きさは、同じくらい。
錬金術師の方が魔術師よりもマイナーっていうイメージがあるから、これには少し驚いた。
……でもよくよく考えると、私はまだこの世界で、いわゆる魔術師には会ったことがないんだよね。
「それでは早速、中に入ってみましょう」
「記念すべき、アイナさんの初訪問ですね!」
「私も錬金術師ギルドというのは初めてです。どのような場所なのか……」
そんなことを口々に言いながら中に入ってみると、そこは錬金術のアイテムが並んだお店だった。
「……あれ? ここ、お店ですよ?」
「はい、こちらからはお店になっているんです。
一般のお客さん向けですね」
「なるほど、それ以外は……あっちから奥に行けるのかな?」
周囲を見回すと、建物の奥に進む通路が別にあった。
そこから、錬金術師ギルドの受付のような場所にいけるのだろう。
「はい、あちらからも行けます。あと、この建物には入り口がもう2つあるんですよ。
1つは錬金術師用の入口で、あちらの通路と行き先は同じです。
そしてもう1つは職員用の入口なので、そこには間違って入らないでくださいね」
「もし入ると、どうなりますか?」
「恥ずかしいです」
「え? ……あ、はい」
……それは当然のことだね!
でもそういうのって本当に恥ずかしいから、入るときはよく注意しよう。
「それでは、奥には明日行ってみます。
今日はお店のところだけ眺めて、次に行きましょう」
「はーい」
「分かりました」
三人揃って、お店の中を見て回る。
今までに立ち寄った魔法のお店を広くして、錬金術のアイテムに特化させた……っていう感じかな?
品揃えはポーションや爆弾、宝石……この辺りは今まで見てきたものだけど、それ以外にもいろいろと置いてあった。
アーティファクト錬金のアクセサリなんかもあるけど、鑑定してみると、ステータスが少し付いているくらい。
魔石も同様で、これもステータスが少し付いているくらいだ。
他には食器や置物、油や樹液、見ただけでは意味不明な何かも置いてある。
魔法の媒介を作るような、特殊な宝石や結晶なんていうのも扱っている。
「……種類はたくさんありますね。
モノ自体はそんなに凄いものではないですけど」
「あくまで一般のお客さん用ですからね。
奥に行けば、もっと良いものがあると思いますよ」
「なるほど、それは明日を楽しみにしておきましょう。
何か良いものを見つけたら、お土産に買っていきますね」
「「え」」
「え? な、何かおかしいこと言いました?」
「いえ……。
こと錬金術に関して、アイナさんが良いと思うものって……ここにあるんでしょうか……」
「同感です……」
そういえば……。私も、同感です……。