テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【王都バキ・ラカン】
「懐かしいわね。あの城前広場で大暴れしたのも、もう昔の話ね」
かつて、あれほど嫌がっていたドレスを身にまとい、華奈は城下町を懐かしそうに眺めていた。
「パパとママが暮らしていたのはお城でしょ、いいなー」
今日は麗羅の貴族学校の入学式出席の為、フィルモアに訪れていた。
その隣を真新しい制服姿で歩く、華奈に瓜二つの麗羅も、バースとは違う都会の空気に喜びを隠せない。
※※※※※※
【フィルモア王立・貴族学校】
「さあここが学校よ、あなたの稽古は《《近》》《《衛》》が付けてくれるから頑張りなさい」
「そっか、城に行けるんだね。楽しそう(笑)」
「けど、本当に一般入試で良かったのね?」
「親の七光を使いたくなかったのよー」
華奈の口利きなら特待生として入学することもできた。
だが、麗羅はそれを断り、自ら一般入試を受けて入学したのだ。
麗羅が選んだ理由は簡単だ――。
「……本当にそれだけ?」
「平民が貴族をぶっ飛ばしたら、最高に面白いじゃん!」
「……」
華奈の脳筋も大概だが、娘の麗羅はその上を行っていた――。
※※※※※※
【入学式後……】
「あの黒髪の子、可愛いな、お茶に誘わないと!」
「バースから来た転入生だよな……めっちゃ可愛いな」
そして成績順にクラス分けが行われ、クラスメート達は早速可愛らしい麗羅に目を付け始める。
ちなみにバースに住んでいたため、正体《姫騎士》はバレていない。
「黒髪って珍しいわね」
「うん、そうなのよ、仲良くしてね。私レイラ!」
男子の目線に気にすることなく、麗羅は早速、女子達とおしゃべりに花を咲かせていた。
そして、ふらりと現れた幼馴染の同級生に、正体が明かされてしまう――。
「麗羅、剣の腕は確かだが、成績はBなんて笑えるぞ(笑)」
現れたのは、フィルモア王国第一王子エリオット――王位継承権第一位の皇太子だ。
護衛を引き連れ麗羅の元に現れると、イケメンの彼に、女子生徒から熱い眼差しを向けられる。
だがエリオットは麗羅に対していきなり毒付く――。
「うるさいわねエリー、私に負けっぱなしの癖に!」
「ふん、脳筋に学力では負けない!」
皇太子にタメ口、愛称の時点で、学友はドン引きし始める。
喧嘩腰で互いに詰め寄る2人——。
だが、護衛騎士はいつもの事なので、口を手で隠し、笑いを堪え見守っていた。
「えっ、という事は、あいつが王子を負かす噂の姫剣士だ!(汗)」
「ヤバい、絶対敵わないよ(泣)」
レベル300超えの皇太子を、完膚無きまで負かす美少女の噂は以前からあった。
だが、麗羅の強い願いで、顔と名前は公表されず。それが同級生だと知った男子の顔は暗い――。
「いやーん。姫騎士麗羅って素敵!」
女子生徒たちは、男を打ち負かす「姫剣士」に目を輝かせる。
入学早々に、どこかで見たような光景が繰り広げられるのだった……。
※※※※※
【フィルモア城・ウィラードの執務室】
「すまん匠殿、宜しく頼む」
すっかり王様が板についたウィラードだったが、匠に深々と頭を下げていた――。
「掃除も自分の使命ですから、気にしないで下さい」
ウィラードが頼んだ掃除とは、違法奴隷取引に関与した貴族と商人の処罰だ。
各国の手前、表に出せず。秘密裏に処分する。
それが匠のもう一つの仕事だ。
「前回の魔物討伐といい、本当に助かる」
「あはは、昔だったら断っていたけどね。それじゃ行ってくる」
今回はヨハネに打って貰った片手剣を携え、颯爽と部屋を後にした――。
※※※※※※
【とある貴族の別荘・裏口】
ウィラードの使命を帯びた匠は、黒い戦闘服を身に纏い、息子の玲恩と共に、容疑者宅へ侵入している。
「玲恩、一応非殺のつもりだ。身の危険を感じたら躊躇せず切れ」
「承知しましたお父様」
今回、荒事の現場が初めての玲恩。
緊張しているのか、暑くもないのに汗をかいていた。
「そう心配するな、冷静に対処すれば殺し合いにはならんよ」
秘密裏と言っても、奴隷の解放と、関わった貴族の爵位剥奪、商人の強制破産宣言が主な仕事だ。
だが、まれに手駒を使い歯向かう事があり、その場合は正当防衛を盾に制圧するのが流れだ。
「さあ、始めようか」
そして匠は、コソコソせず堂々とした足取りで、廊下を歩き始めた――。
「ど、どなたでしょうか」
「左翼近衛騎士団――レフティーガードの者だ。抵抗しなければ、誰も傷つけるつもりはない」
先に接触したのは執事服の男だった。匠は抜剣する事なく、それでいて慌てず対応する。
「ま、まさか……左翼近衛騎士団……レフティーガード!?」
そしてレフティーガードの証となる、胸に隠された「逆さ紋章」を見せると、執事の男は主人の悪事がバレたと勘づき、観念した表情をする。
逆さに刻まれた王家の紋章。
それは表の騎士ではなく、王命によって闇を処理する者だけが持つ証だった。
コンコン
匠は執事を伴い、貴族の執務室へと入る。
「だ、誰だ!……まさか、その黒の近衛服は……」
「ああ、レフトだよ、処罰はその場で言い渡すが、その前に息子を呼んでこい」
諦めた貴族の男は息子を呼び出す。
匠はラストチャンスを与えるつもりなのだ。
※※※※※
「これはこれは、ようこそお越しにくださいました」
「突然で悪いが、お父様は失脚だ。君は公明正大に後を継げるかな?」
いきなり呼び出された息子は、執事から聞いていたのか、慌てることはない。
匠の問いに微動だにしなかった。
「奴隷の件ですね。私は悪事に加担しません」
胸を張り堂々と受け答えをした。
貴族ならこの程度の虚勢は日常だ。
判断に迷う場面だが、匠も眉ひとつ動かさない――。
「玲恩、君ならどう判断する?これが事実なら家督を譲らせて終わりだ」
「少しお時間を下さい――」
玲恩は、抜剣すると息子に向かって切先を向けた。
「我に宿し精霊達よ、かの者と契約を結ぶ奴隷を解放せよ」
フィルモアでは性奴隷は禁止だ。
そのため犯罪者たちは発覚を防ぐため、王国が禁術指定した「絶対服従契約」を奴隷に施す。
「私の魔法が弾かれるのであれば、禁術が結ばれているということです」
玲恩の詠唱は奴隷解放の際に使われる一般的な魔法だ。
もし、絶対服従の禁忌の契約なら、弾かれる――。
キィィィン!
そして予想通り、息子の手の甲の魔法陣が輝き、術式は否定された。
「わ、私の奴隷は正式な契約に――」
「諦めろ、調べは済んだ。贖えば罪が重くなるだけだ」
「無礼者! 斬り捨てて――」
バキァーン!
抜剣した途端、剣は根元から折れ、既に匠の剣は鞘に収まっていた――。
「さて、処分は決まった。これにサインしろ」
取り出した契約書は、爵位剥奪と部外者に一切情報を漏らさないという物だ。
血判を使う生死に関わる書を見た貴族の男は、諦めたのかガックリと肩を落とす。
「お前は強制労働所送りだ!」
「嫌だ嫌だ!」
チャリ――
玲恩は切先を息子に向け、サインを促す。
「サインしなければ切る!」
「うううぅ――」
息子は諦め、血判を押した。
そして、任務は終わりを迎える――。
「助けて頂きありがとうございます」
別荘に匿われていた数名の奴隷達を解放するが、皆、薄着であられのない姿だった。
玲恩は一目見て性搾取されたとわかり、苦み走った顔をする――。
「さっきの動きは良かったぞ」
「ありがとうございます。けど、あんな目に遭わせた連中が、生きているのは納得できません……」
玲恩と大差ない女の子を見て、欲望に駆られた大人達に対して怒りが湧き上がるのが手に取るようにわかる。
匠は玲恩と向き合う――。
「目を背けるな。世の中には表だけじゃなく裏の顔もある。それを知るのも、お前の勉強だ」
「そうですね。今回は勉強になりました……」
まだ十五歳の玲恩には少々厳しい現場だった――。
「まあ、エルフが見つかったらこの程度では終わらない」
「終わらない?」
もしエルフが保護されれば、完全に国際問題に発展する。
先ほどの二人は、本当に闇に葬らなければならないのだ。
「ああ、爵位剥奪では済まない……処分だ」
「……はぁ……良かった」
匠の目が鋭く細められる。
玲恩は、「処分《処刑》」という言葉の意味を悟った。
「ママは今、奴隷商を潰しに行ってる。あっちはエルフが絡んでる可能性が高い」
彼女は今、奴隷商にガサ入れの真っ最中だ――。
奴隷商のところにはエルフが囚われているのは確実なので、今頃、華奈は剣片手に大暴れしている筈だ。
「だから、屋敷だったのですね」
母親の戦う姿には憧れる。
だが、その剣が命を断つ瞬間だけは、まだ見たくなかった。
玲恩はそう思わずにはいられなかった――。
コメント
1件
もう第96話か〜!麗羅の新入生エピソード、元気いっぱいで可愛かった😊 華奈の脳筋超えていくところ笑った。でも匠パパと玲恩の任務パートがめっちゃ重くて、ここで親子の対比が効いてるよね…「処分」の意味を悟る玲恩の心情、すごく伝わってきた。闇を見せられて成長する姿、これからも見守りたい🌙
#溺愛
桜咲かな
814
のん
166
うらうら
243
烏丸鳥丸
319