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校舎から遠く離れた図書施設まで歩いて来ると、周りには誰もいないのを確かめてから、久しぶりに会う銀河と向かい合った。
「……もう、何してんのよ……」
「いや、理沙のこと探してたんだって」
「探してたじゃないでしょう……あんまり目立つようなこと、大学内でしないでくれる?」
校舎とは別棟にある図書館は、木々に囲まれた森閑とした施設で、建物の外ではあってもあまり大きな声を出すのは憚られて、やや声のトーンを抑えて喋った。
「理沙に、会いたかったんだって」
なのに一方の銀河ときたら、普段とまるで変わらない声でなんの気負いもなくストレートなセリフをさらりと告げるもんだから、顔がぼっと一気に燃え上がるのを抑えられなかった。
「……別に、私は会いたくなかったんだけど……」
恥ずかしさのあまり、ついそんな天の邪鬼な言い方をした私に、
「俺は、会いたかったぜ。理沙が店に来てくれそうにもないから、俺の方から来てみたってわけ」
と、相変わらずのフランクな口ぶりで言って、銀河は屈託もなく笑って見せた。
「とにかくもう、こういうことはやめてってば。それでなくても、銀河は注目されがちなんだし、さっきだって、思いっきり女の子たちの視線集めてたじゃない」
薄っすらと笑ったままでいるにやけ顔を、軽く睨みつけて言うと、
「なんだ…それ、もしかして俺に嫉妬とか?」
銀河がしてやったりとでも言うように、ふふん…と、唇の片端を吊り上げた。
「嫉妬…なんかの、わけないじゃない…」
そんなはずないと思うのに、裏腹にじわじわと耳が赤くなってきて、うつむいてぼそぼそと言い返した。
「なんだよ、嫉妬じゃないの? すげぇ残念…」
「何が、残念なんだか……」
本音では照れているのを隠して、わざとらしくため息をついて見せる私に、
「ホント理沙って、つれないよなぁ…」
と、銀河が仕方なさげにぼやく。
「……。……たいした用事もないんだったら、私もう行くし」
彼と喋っていると、わけもなく言わなくてもいいようなことまでさらけ出してしまいそうで、その場で別れようとすると、
「用事、あるぜ」
と、銀河が口にした。
「おまえを誘いにきたんだよ、理沙」
真っ直ぐに私を見つめ、照れもせずそんなセリフをためらいもなく口にする。
そういうところが、この男のズルいところだと思う……軽いだけのように思わせておいて、急に一変した真剣な表情を見せる。
「……行こうぜ、理沙」
突っ立ったままでいる私の手を、銀河が捕んだ──。