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MAKO
今日は主が挨拶に来ると聞いていた別邸の執事達はソワソワしながら準備をしていた。
ハナマルはいつも通り午後になってから起きてきたのでユーハンがさっさと着替えろ、と寝間着・寝癖コンボのハナマルを引っ叩いていた。
そうこうしているうちに主がドアをノックした音が響き、テディが尻尾を振っている犬のように玄関に駆け出し、元気に返答した。
「主様!来てくださってありがとうございます!
さあ、中にどうぞ!」
テディがドアを開けて小柄な主を迎え入れるのを確認してユーハンは緑茶を淹れに行った。
小上がりに座る主にお茶とお菓子を届ける。
「いらっしゃいませ、主様。緑茶をどうぞ」
『あ、ありがとうございます・・・』
主は上品に湯呑みを持ち上げて緑茶を啜り始めたので、東の文化に馴染みがある人なのだろうか、と不思議に思って観察していた。
「お、主様?来てくれたんだ〜」
寝室から着替えを済ませたハナマルが顔を出す。
しかし、寝癖は直っていないしタメ口だ。
ユーハンは悲鳴を上げそうなのを必死に飲み込んでハナマルを叱り、主に謝罪した。
「ハナマルさん、主様の前ですよ!!
・・・申し訳ございません、いつもこの人はこんな感じでだらしなくって・・・」
必死で頭を下げるユーハンの勢いに押され気味の主は首を横に振り、ハナマルの無礼を許した。
『あ、いえ・・・大丈夫です・・・』
そう言われたハナマルは気分を良くして何処からか酒を取り出してきた。
「いや〜話の分かる主様で助かるよ〜
なぁ、主様の許しも出たわけだし、ちょっと親睦を深めるために酒でも・・・」
「ハナマルさん!どう見ても未成年の主様にお酒なんてダメですよ!」
テディは慌ててハナマルから酒瓶を取り上げて小柄で童顔な主が成人しているはずがないだろうと叱る。
「ハナマルさん、貴方という人は・・・
主様をダシに酒を飲もうとするほど下衆だとは思いませんでした。今ここで切り捨ててもよろしいのですよ?」
ユーハンは腰の刀に手をやり、本気でハナマルを切ろうとしていた。
嘗ての主人であればこれほどまで無礼を働いた部下を生かしてはおかないだろう、と考えての行動だったらしく、テディはかなりの恐怖を感じた。
「い、いや〜・・・これはその、主様の緊張を解すためのジョークっていうか・・・兎に角、本気で主様に酒飲ませようとしたわけじゃないし、俺だって流石に主様の前で酒飲まないって!信じてよ!ユーハンちゃん!!」
ユーハンの殺気を正面から浴びせられたハナマルは必死になって命乞いを始める。
一応は執事としての心構えくらいはある、と命がけで訴えていた。
テディと主がどうしようかと顔を見合わせていると、甘い匂いを纏ったベレンが帰ってきた。
ロノにお願いしていたお菓子が出来たのだろう。
良いタイミングだ、とテディはホッとしてベレンに助けを乞う目線を投げた。
「あらら・・・主様、もう来てたんだね。
お菓子を持ってきたんだけど、遅かったかな?」
ベレンが主の前にお菓子の入った籠を置くと、やり合っているユーハンに説教されているハナマルの様子を伺い、困ったように笑った。
そんな空気を打破したのはいつもマイペースなシロだった。
階段から降りてきて、不機嫌を隠す様子もなく小言を言い出した。
「煩くてかなわん・・・
・・・お前が主か。最初に言っておく。我は別にお前に仕える気はない。我が認めたら仕えてやってもいいがな。
・・・我の邪魔はするな。いいな?」
下の階に居た執事達は主に対しても尊大な態度を貫くシロに喉を鳴らした。
もし主の不興を買ったらどうしよう、と全員が冷や汗を流す。
『あ、はい・・・』
しかし、主は驚いた様子ではあったが怒ったり不快そうにしている様子はなく、全員が胸を撫で下ろした。
それにしても、執事にこんなに横暴な態度を取られても全く気にする様子がなく、むしろ騒がしくしてしまったことを反省しているような主に皆興味が出てきた。
「・・・あー・・・ごめんね、主様。
シロは誰にでもあんな感じなんだ。気にしないで。ね?」
『あ、はい・・・』
ベレンがシロを優しくフォローすると、主は少し安心したような様子で頷いていた。
本当にシロに対して不快感などはなかったようで安心した。
「とりあえず、自己紹介していなかったから、しておこうかな」
まだ誰も自己紹介をしていないことを執事達の間でさっと共有し、空気を変えるべくベレンが口火を切った。
「俺はベレン・クライアン。ベレン兄さんって呼んでくれてもいいよ?なんでも頼ってね」
『よろしくお願いします、ベレンさん・・・』
主はメモを取りながらペコっと頭を下げる。
フランクに話しかけたベレンに対して緊張している様子の主の言動は硬かった。
続いて、テディが自己紹介。
「俺はテディ・ブラウンと申します!コーヒーが好きです!よろしくお願いします!」
『テディさん・・・、よろしくお願いします』
主はメモにしばらく何か書いて頭を下げた。
テディは主が身長差があるにしても一切目を合わせようとしないのを不思議に思った。
そして、ユーハンが頭を下げる。
「私は、シノノメ・ユーハンと申します。
主様の忠実な執事として、これからどうぞよろしくお願いいたします」
『ユーハンさん・・・よろしくお願いします・・・』
主と少し似た容姿のユーハンには若干気を許しているらしい主は、ユーハンにはちょっと砕けたイントネーションで挨拶した。
ユーハンもそれに気づいたようで、少し嬉しそうにしていた。
最後にハナマルが頭を下げた。
「カワカミ・ハナマルだ。趣味は酒とギャンブル・・・って怖いよ、ユーハンちゃん・・・
まあ、そんな感じだ。よろしくな、主様」
『あ、はい、よろしくお願いします・・・ハナマルさん』
途中でユーハンがハナマルを睨みつけ、困ったように笑ったハナマルは頭を下げてメモを取っている主を面白そうに見下ろしていた。
『えっと、主になりました、〇〇と申します。
これからお世話になります・・・』
最後に主が皆の前で頭を下げて、自己紹介は終了した。
主は失礼ではあるが、主らしくない、という印象を全員が抱いていた。
オドオドした言動や相手の言いなりになりがちな様子などからして、かなり気が弱い人なのかもしれない、と感じていた。
執事達はお菓子を食べながら主の世界のことを聞く風を装って主について色々と聞き出そうとした。
主はとりあえずな笑顔を貼り付けて話せる範囲のことは大抵話してくれたので、平民だったために萎縮していたのではないか、という結論に落ち着いた。
しかし、顔色の悪さや趣味などを聞かれて言い淀むような様子は少々違和感を覚えた。
これから主とちゃんとやっていけるのだろうか、と一抹の不安を抱えたのだった。
コメント
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うわ、10話お疲れさまです…!読んだあと、なんだか胸の奥がぎゅっとなりました。主さん、すごく控えめで丁寧だけど、メモ取る手つきとか目を合わせないところに、普通の「気弱」だけじゃない影がある気がして。執事陣の個性もそれぞれ立ってて、特にユーハンさんのハナマルへの殺気…笑っちゃったけど本気度が伝わってきた。シロさんのツンデレ具合も気になるし、続きが早く読みたいです!