女の信じられない言葉に、宮本は唇を震わせながら首を横に振る。やめてほしいと声に出したいのにそれができず、激しく首を横に振るしかできなかった。
「ぁ、ああ……」
頭を深く下げたまま、了承した橋本。躰の脇に添えられた手が、ぎゅっと握りしめられる。
「陽さん! そんなこと言わないでよ!!」
宮本の悲痛な叫びが、駐車場に虚しく響き渡った。
「ホント、おじさんバカじゃないのぉっ!」
女が橋本に向かって、宮本以上の勢いで怒鳴った。甲高い声なので、当然周囲に響き渡る。駐車場の周りを囲む木々のざわめきがかき消えるレベルの大きさなので、驚いた橋本は息を飲んで胸元を押さえた。
「え?」
怒鳴られた意味がわからず、橋本は呆けた顔を上げて女を見つめる。なんでわかんないのよという蔑むような視線が、グサグサ突き刺さった。
「まーくんがおじさんのことをこんなに想ってるのに、どうして私の誘いを受けるのかって話!」
「それは雅輝の名声が落ちるのが、どうしても嫌だったから」
「「名声なんて、どうでもいいの!」」
宮本と女のリンクしたセリフに橋本は驚き、思わず数歩退いてしまった。
「まーくん、ヤバくない? おじさんってば自分を犠牲にして、まーくんを守ろうとしてるよ」
「そーなんっす。俺は名声なんてどうでもいいのに、陽さんってば、こういうことをいきなり言い出すから困るんです」
「お、おい?」
橋本は意気投合しているふたりに、言葉をかけられなかった。
「おじさん安心して。他の人に秘密を広める気はないし、ふたりを応援したい気持ちがあるの」
メガネの奥にある瞳が、優しげに細められた。
「本当なのか?」
「本当よ。まーくんは好みだけど、本人には振られちゃってるし、バトルでも負けちゃったから、手を引いてあげる」
女の言葉に、心の底から胸を撫で下ろした橋本の背中を、宮本は思いっきり叩いた。力任せに叩かれた背中の痛みで顔を歪ませながら、前のめりになる。
「陽さん、もうこんなことしないって誓ってください。俺を想うなら尚更です!」
いつもは垂れ気味になっている目尻を吊り上げた宮本に、橋本は言い知れぬ恐ろしさを感じ、後頭部をバリバリ掻きながら口を開いた。
「絶対にしないと誓う。悪かったな」
「おじさん、本当に悪かったって思ってる? 傍から見ても、それが伝わってこないんだけど」
「おまえは関係ないだろ。横から茶々入れるな!」
「彼女の言ってることも一理ありますよ。陽さん、どうなんですか?」
橋本は両目を吊り上げたふたりの口撃に、思いっきりたじろぐしかなく、平身低頭を維持したまま、固く誓ったのはいうまでもない!
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