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車内に響く卑猥な水音に、宮本は眉をひそめながら、いつも以上にハンドルを両手で握りしめるしかなかった。
「よっ、陽さん、もうやめないとっ! 危ないですって」
宮本が運転中だというのに、突然はじまった遠慮のない行為。自分の下半身にむしゃぶりつく橋本に向かって懇願してもまったく聞く耳を持たずに、じゅぷじゅぷとわざと音を立てながら、感じやすい先端を狙って執拗に舌を絡める。
「運転中なんですよ、はあぁっ…気持ちいぃっ」
「俺なりの誠意を示しているんだけどさ」
「誠意の示し方がおかしいですって。しかもなんでこのタイミングっ……んあっ!」
宮本は思わず一瞬だけアクセルを踏み込んでしまったが、前方に車がいなかったこともあり、挙動不審な動きをするインプは、誰の目にも止まらなかった。
「あぶっ、危なぃっ……ってば!」
「バケットシートで、躰が逃げようのない雅輝にとっては、もどかしさが快感に繋がってるだろ」
「そんなことなぃっ!」
「そんなことあるね。いつもよりギンギンになってるのはどうしてだ?」
痛いところを橋本にずばっと突かれたせいで、顔を真っ赤にしたまま、うっと言葉を飲む。昨夜散々いたしたというのに、引きずり出された快感に抗うことはおろか、このまま橋本によってイカされたいと思う自分もいた。
「陽さんっ、も、気持ちいいんだからっ! ヤバいですって」
「ほうか、ヤバいのか。大変らな」
「陽さんってば、うンンッ!」
宮本はもどかしさをやり過ごすために、ハンドルをばしばし叩きながら、視線を前方に走らせる。血まなこになって停車できる場所を探しまくった。
「く~~~っ、我慢ガマンがまんっ!」
「わっ!」
宮本がインプのアクセルを一気に開けて、車体をドリフトさせながら対向車線に進路変更した反動で、橋本の口から宮本自身が外れた。
派手なドリフトをかましたせいで、環状線にスキール音が鳴り響く。そんな聞き慣れた音を耳にしているのにもかかわらず、慌てて下半身にかぶりつこうとする恋人の動きを読んだ宮本が、橋本の頭を鷲掴みする。
「陽さん、ちょっと待って!」
「待たねぇ! させろよ」
前を見据えたままでいる、宮本の我慢は限界だった。環状線から住宅街に向かう脇道に向かって、インプを必死に走らせる。しかしギアチェンジするのに、橋本を掴んでいる左手を外さねばならない。
「陽さんお願いだから、このままでいて!」
宮本の必死のお願いに、橋本は「だったら、1分だけ待ってやる」などという信じられない返事をした。
「1分だけとか鬼畜~っ!」
「雅輝ならできるだろ。だって雅輝だし」
生ぬるい返事をした橋本は宮本自身を手にしたまま、腕時計でちゃっかり時間を計測する。
「う~~~っ、峠のバトルより、絶対難易度がに高いって!」
一時停止しつつ、走行しなければならない住宅街の脇道の中から、1分以内で駐車できる場所を探すミッションに、宮本は涙目になりながらも、いい場所を見つけてそこにインプを停めることに成功した。
火照りきった下半身をそのままに、安堵のため息をついてギアをニュートラルに入れた瞬間に、橋本の口にぱくっと食べられる。
「うくっ!」
「まっしゃくひかんひったりにいんふをちゅうひゃするなんて、きようなことしやがりゅ」
(まったく時間ピッタリにインプを駐車するなんて、器用なことしやがる)
橋本は上手にしゃぶりながら、独り言をつぶやいた。ただ口でされるだけじゃなく、独り言を呟くことによって、絶妙なタイミングで自身を吸い上げられるため、宮本は気持ちよすぎてイキたくてたまらなくなる。
「ああ、もぉ陽さんってば、敏感なところを狙って、舌を動かさないでくださいよぅ」
「遠慮せずにイケよ、ましゃき」
さっきまでは運転に集中していたせいで、快感がそこまで得られずにいた。だけど今は音をたてながら執拗にねぶられるので、どうにも我慢できない。
「あっあっあっ、イクっ…ンンッ!」
ぶるりと躰を震わせて絶頂した宮本の顔を見つつ、橋本は口内で精液をしっかり受け止めながら飲み込んだ。
「陽さん…もう出ないのに、しつこくちゅーちゅー吸わないでよ」
「……昨夜俺の中で何度もイったはずなのに、どうしてこんなに濃いモノが、勢いよくたくさん出るんだ雅輝」
渋々口から宮本自身を解放した橋本が、膝元からジト目で宮本の顔を見上げた。
「うっ、そっ…それは、むうぅ」
視線をあちこちに這わせ、困ったふうを装う恋人に、橋本は大きなため息をついてみせた。
「まったく! 勝利の余韻やら、いきなりの口撃におまえが感じただけだろ」
宮本の下半身から躰を起こし、自分の席に戻った橋本が助け舟を出す。するとお返しをしてやろうと考えたのか、宮本は嬉々として助手席ごと橋本に抱きついた。
「雅輝、ストップだ」
「え~っ、ここからがいいところなのに」
「どこがいいところなんだ。おまえはこんなところで、ナニをしようとしてる?」
「ナニって、陽さんを気持ちよくさせようと思ったんだけど」
「そんなことをここでしたら、おまえの大事なところをへし折るからな!」
空中で何かを折る仕草をした橋本の顔は、街灯の灯りを受けているせいか、二割増しに恐ろしく宮本の目に映った。慌てふためきながら運転席に戻る。
「俺を抱きたかったら、とっととインプを発進させればいいだけだろ」
「確かに! ベッドで美味しくいただきますからね!!」
腕を組みながら正論を言った橋本の言葉に、宮本は瞳を輝かせながらアクセルを勢いよく踏み込んだ。ちなみに下半身は露出したままである。
橋本をベッドで抱くために、自宅に向かって急ぐ宮本の真面目な顔と恰好のミスマッチに橋本は笑いだしそうになったが、あえて指摘せずに助手席から眺めた。
どんな格好でも愛おしく思える宮本と一緒にいられることに、しっかりとした幸せを感じることができたのだった。
おしまい