もう、終わりにしようなんて陳腐なことを考える自分に吐き気がする。何もない、誰にもいじめられてないのに引きこもる「僕」
何故行けないのか自分にすら分からないことを聞いてくる親や先生。
ただ、腫れ物のように接するクラスメイト。
その全てに嫌気がした夏休みの終わり、僕は飛び降りることにした。
向かうのは神社。
助けてくれない神様へのせめてもの仇返しに選んだ場所だ。
長い長い階段を登り終えたら名も知らぬお姉さんが立っていた。
なぜこんな所に…なるべく迷惑かけたくないのに…と思いながら見ていると女性が声をかけてきた
「おーい! 少年 何してるんだ?」
底抜けに明るい声だった。
悩みなんかなさそうな声に腹が立つ。
「別に…」
僕は愛想悪く返した。
「あなたこそ何やってるんですか」
ぼくの問に曖昧に返事をするお姉さん。
「ねえ、この高さから落ちたら死ぬと思う?」
僕こそ聞きたいと思った。
死にたいと願いながらそこまで調べていなかった。
衝動的に飛び出してしまったのだ。
「知らない」
冷たく突き放すような返事をしてもお姉さんはフレンドリーに接してくる。
「なんでそんなこと聞くんですか」
「私はね、しがないweb小説家なんだ」
「その資料にしようかと思ってね」
なんだそれ、僕は思った。
ほんの気まぐれで僕は作品を読むことにした。
「小説、なんて名前?」
快く教えてくれたお姉さん。
僕は読んでみた。
拙い文章で象られた小説。
不格好なそれは綺麗だった。
ニコニコしながら感想を聞いてくるお姉さん。
「拙い、雑、設定に矛盾がある、誤字多い」
「大人しそうな見た目して結構言うね君!?」
「でも、なんか綺麗です。」
僕がそう言うとお姉さんはニヤニヤしていた。
「そんなこと言ってくれたのは君が初めてさ」
いつの間にか胸のもやもやはどっかに言っていた。
「お姉さん、ありが「これで悔いないわ」
何故かお礼を言おうとした僕に被せてお姉さんは言い切る
お姉さんは後ろに飛ぶ。
嫌な予感がした僕が手を伸ばしたが、お姉さんの手は払いのけられ、そのままお姉さんは階段から落ちていった。
僕は叫び声を上げ、慌てて階段を駆け下りた。
下に到着すると、お姉さんは地面に倒れていた。血は流れていなかったが、彼女は目を閉じ、息をしていなかった。
「お姉さん!起きてください!」
僕は彼女を揺さぶったが、反応はない。慌てて救急車を呼ぼうとポケットを探るが、携帯電話は家に忘れていた。
その瞬間、僕の中で何かが弾けた。お姉さんが飛び降りた理由も、なぜ僕に話しかけたのかも分からない。
ただ、お姉さんの笑顔と、彼女の小説の不格好な美しさが、僕の心に強烈に焼き付いていた。
僕は泣きながら、お姉さんの体を抱きしめた。
「どうして…どうしてこんなことを…」
その時、近くにいた神社の管理人が駆けつけ、警察と救急車を呼んだ。
救急隊が到着するまでの間、僕はお姉さんの側に座り続けた。
お姉さんの最後の言葉が頭の中で繰り返される。
「これで悔いないわ」
僕はその意味を理解できなかった。
だけど、彼女が僕の人生に一瞬だけでも光を当てたことは確かだった。
救急車が去った後、僕は一人、神社の階段を登り直した。
今度は自殺をするためにではなく、お姉さんが最後に立っていた場所を見つめるためだった。
そして、心の中でお姉さんに感謝した。
「ありがとう、お姉さん。僕は、もう少し頑張ってみます。」
その日以降、僕は少しずつ外に出るようにした。
お姉さんの小説を読み返し、彼女の言葉を思い出しながら。
お姉さんの小説は誰にも話していない。
きっと共感してもらえないから。
それでも良かった。
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