自らの意志で消そうとしても中々難しいものを身体に残すことで、あの時告げられた言葉を己の中に残すだけではなく、感じた思いは忘れ得ぬものではあるが一目見ただけで思い出せるようにしたい、そんな思いが浮かんだのはある日の朝だった。
その日は午後から休暇を取っていた為、同じ孤児院出身の女性が二人で経営しているアクセサリーショップに顔を出そうと決めたが、その時の考えを彼は己の恋人には告げることはなかった。
タトゥーをすることへの抵抗はリオンには無かったが、テレビでスタジオを取材している番組を見た時、恋人があからさまに嫌悪の顔をしたのをリオンはしっかりと見ており、事前に相談をすれば反対されかねないと危惧した為、タトゥーを彫ると言ういわばどうすることも出来ない結果を用意してから恋人に伝えようと独り決めし、タトゥーを彫ってくれる彼女に午前中に連絡を取り、考えてる図案を簡単に伝えていたのだった。
先日、永遠の恋人と呼んで憚らない彼から聞かされた一言が本当に嬉しくて、その時のすべてが満たされた様な不思議な気持ちを忘れたくない為、記憶が鮮明な内にタトゥーを彫る痛みと共に身体に刻み込んでおこうと思ったのだ。
こんな事を考えるのは初めてで、自らの過去を振り返っても己の身体に色を着ける行為をするという発想すらなかった事に今更気付くが、その行為をすることを進んで受け入れる己にも気付いて諦めの溜息を一つ。
何度も別の思考回路を進んだとしても辿り着く結果はその一つだけだった為、好きなものは好きなのだから仕方がないと開き直り、そして彼女の前にいつもと全く変わらない様子で顔を見せ、彫ってくれる彼女と共同経営者であり、己の恋人の足で暮らすリザードを産みだした彼女の提案などを聞き入れて最終的なデザインが出来上がると、何ら躊躇うことも気負う事もなく施術台に足を載せて徐々に姿を現す様を見守るのだった。
彼の左足の薬指、つまりは恋人がトゥリングのリザードを住まわせている指に、右前足を太陽に乗せ、太くて長い尻尾で三日月を絡め取ったリザードが同居するようになってからは何故か仕事が忙しくなってしまい、愛する恋人に自分の足にもリザードがいる事を見せられなかった彼は、仕事が終わって一人暮らしの狭いが居心地の良い我が家への帰路、恋人へ毎日の報告のように連絡をし、お互いの仕事の疲れを労っていたが、逢えない寂しさに恋人は秘め事を抱えた様な声で名を呼び、彼は彼で恋人が決していい顔をしない言葉を吐き捨てることでその寂しさを紛らわせていた。
逢いたい思いを何とか堪えて一人寂しくシングルベッドで丸まる夜を何度か越えたある日、その仕事の忙しさも一段落ついた為、愉快な仲間達と呼ぶ刑事達の間で真っ先に誰が休暇を取得するかで争奪戦が起きたのだが、高倍率になっていた週末の休暇を彼が見事に奪い取り、その歓喜のまま恋人に週末は休みだから何処かで遊ぼうとメールを送るほどだった。
久しぶりのデートだと浮かれた彼だったが、左足の薬指が少しだけ疼き、ああ、お前も嬉しいのかと己の爪先を見下ろしてにやりと笑みを浮かべてしまえば、それを目撃した署内で自他共に認める男前が鼻で笑った為に危うく乱闘騒ぎになりかけるが、何とかそれを乗り切って和解の合図である互いの肩に腕を回してたたき合ったのだった。
かくして彼が手に入れた休暇は週末の恋人の休暇と当然ながら重なった為、仕事が終わった連絡を入れたときに何をしようかと浮かれながら告げるのだった。
ウーヴェが己の恋人の足が最後に見た時と違う事に気付いたのは、その日仕事を終えて彼の家に恋人が浮かれた様子でやってきた後、その日は偶然にもメインのバスタブに湯を張っていた為か喜び勇んでバスルームに引き摺られていった時だった。
いやだ、離せバカリオンといつものように文句をぶつけてみるが、はいはい、いつもいつもうるさいオーヴェと、これまたいつものように文句が跳ね返ってきた後、綺麗なモカ色のドレスシャツの上にざっくりと着込んでいたノルディックセーターをいそいそと脱がされ、ドレスシャツのボタンも浮かれ気分のまま脱がされた時に漸く我に返るが、その時にはすでに己の姿は下着一枚になっていて、今更反論しようが抵抗しようが仕方がないと溜息を吐いて現状を受け入れようとしたのだが、恋人のいかにも嬉しいと言いたげな手付きがやけに悔しくて、目の前の目が覚めるような鮮やかなブルーのシャツを両手で掴むと同時に左右に引っ張り、小さなボタンをすべて弾き飛ばして漸く溜飲を下げる。
「・・・どこで覚えてくるんだよ、そんな乱暴なこと」
すべてのボタンが飛んでいったシャツを見下ろし、にやりと笑みを浮かべる恋人の前で鼻息荒くどこだろうなと返したウーヴェだったが、ふふんと笑ったその時、リオンが笑みを深めたかと思うとウーヴェの身体に突進をかまして横抱きにし、事もあろうに程良く溜まってジャグジーの泡が溢れるバスタブに放り投げたのだ。
「!?」
さすがにその暴挙に目を白黒させたウーヴェが白い髪を額に張り付かせて湯の中から抗議の声と拳を突き上げる為に身体を起こすが、その真横にリオンが飛び込んできて再度頭から湯を浴びてしまう。
「・・・水も滴るいい男、だな、オーヴェ」
「お前は・・・っ!!」
同じように金髪から湯を滴らせるリオンの笑顔にウーヴェが目を吊り上げるが、至近で男前な笑みを浮かべる恋人に思わず鼓動を早めてしまったのを悟られないようにそっと離れて円形のバスタブの縁に腕を引っかけて距離を置く。
「あれ、どうした?」
「・・・また沈められたらたまらないからな」
「どうせ頭洗うんだし、良いだろ?」
そんな問題かとウーヴェが瞼を平らにすると、そんな問題だと何故かリオンが胸を張り、湯の中から足を突き出してまるでシンクロナイズドスイミングの様にくきくきと足首から先を左右に振る。
その様がおかしくてつい先程の怒りを忘れ去った顔で小さく笑ったウーヴェに、リオンも気をよくして両足でシンクロの真似事をする。
「足首が痛くなるぞ」
「へへ・・・オーヴェ、こっち来いよ」
手を伸ばしても足を伸ばしても届かない広さを誇るバスタブが恨めしいが、そんなに離れたところにいるなと陽気な中にも隠しきれない本気を滲ませて誘えば、その言葉の真意を探るように上目遣いで見つめられるが、一つ溜息を泡の中に落としたウーヴェがリオンの横に向かい、並んで腰を下ろす。
「いきなり放り込むから湯を飲んだだろう?」
「うん、ごめんごめん」
本当に悪いと思っているのか、思っていると言葉だけの謝罪とそれを疑う声がバスルームに響くが、ウーヴェの機嫌を取るようにリオンが再度足を湯から突き出す。
「・・・リオン、その指はどうした?」
「へ?・・・ああ、これか?」
その時ウーヴェの目がリオンの薬指に彫られたタトゥーの存在に気付き、驚きを隠せない顔でリオンを見つめた為、何でもない事のように答えて膝を曲げてウーヴェの顔の近くに足を持ってくる。
「これは・・・リザードか?」
「そう。お前は青い眼の可愛いリザードだけど、これが俺のリザードだ」
照明を弾いてきらりと光る水滴の下、ウーヴェに見つめられたリザードが微かに色を変えたように思え、目を細めて見つめるウーヴェにリオンが苦笑する。
「尻尾が絡んでいるのは・・・三日月なのか?」
「そう。これはリッシーがデザインしたんだけど、リザードが良いって言ったら、リッシーとベラが太陽と月も一緒に彫れって言ってくれたんだよ」
「どうして?」
「俺も良く分かんねぇけど、二人の目から見たら俺とオーヴェが太陽と月に見えるんだって」
だからその二人の姿を具現化した太陽と月に架かるよう、二人が持つ同じ心をリザードで現したそうだと、彼女たちの感性を認めているリオンが肩を竦めれば、ウーヴェがターコイズ色の瞳を瞠って薬指のタトゥーを魅入ったように見つめる。
「・・・欠けた月・・・か」
確かに自分にはふさわしいのかも知れないと自嘲すると、リオンが青い目を細めてゆっくりと首を振って名を呼ぶ。
「オーヴェ」
彼女たちが俺を太陽と評したのは外見上の特徴が最大の理由だが、お前を月と言ったのはきっと外見だけではなく、内面の激しさをも見抜いているからだろうと笑みを浮かべ、驚愕に見開かれる目を見つめて白い頬に手を宛がう。
「欠けているからお前に相応しいんじゃない。満ちても欠けても、きっとお前はお前だからだ」
例え姿形が変わったとしてもその本質だけは絶対に変わらない、そのしなやかな強さがお前の心の有り様だと見抜いている彼女たちは本当にすごいと、ただ一度会って話をしただけでそこまで見抜く目の良さに感心するリオンにウーヴェもただ驚くが、今までそんな風に己を評したものがいない為になんと返せばいいのかが分からず、ジャグジーの泡を顎に受けるように湯の中に肩まで沈んでもごもごと口の中で言葉を転がす。
「気に入ってくれたか、オーヴェ?」
子供のように笑顔でどうだと首を傾げるリオンに小さく頷いたウーヴェは、照れ隠しのように一体いつこんなタトゥーを彫ったんだと問えば、午後から休みの日があっただろうと教えられて瞬きをし、バスタブの縁に後頭部を預けて湯気に煙る天井を見上げる。
彼の姉がこの家で寝泊まりしていた時の騒動で結果的にウーヴェは今まで胸に秘めていた思いを告げたのだが、あの日リオンがリッシーの店に行くと言っていた事も思い出し、彼女はタトゥーを入れる技術を持っているのかという疑問を口にする。
「うん。ちゃんと勉強したけどベラの面倒を見るのが精一杯だから、タトゥーに関しては知ってる人だけらしい」
もちろん俺は知っていたし、彼女も俺に関しては問題ないと言ってくれたからすぐさまデザインを彼女とベラと一緒に選んで彫って貰ったと肩を竦めたリオンは、何やら納得できない様な顔で苦笑するウーヴェに苦笑し、タトゥーは苦手かと問いかける。
「・・・今までは、な」
「うん?」
「あまり良い記憶がないから、苦手だった」
その、奥歯に物が挟まったような言い方から連想される事があり、そうかと低く返したリオンは、だが、お前のこれに関して言えば嫌悪感どころか、己の足に巻き付いているリザードを迎え入れたときのように素直に受け入れられると返されて目を瞠る。
「オーヴェ?」
「────よろしく、リオンのリザード」
そっと足を掴んだかと思うと、リオンが驚きに目を瞠るのを尻目にリザードの頭に口を寄せたウーヴェは、小さな音を立ててその指にキスをし、これで俺のリザードも独りぼっちじゃないと片目を閉じる。
「!!」
「これだとどこにも行くことがないから安心だな」
リオンの足から手を離し、ただ驚いている恋人にふわりと穏やかな笑みを浮かべたウーヴェは、そっと伸びてくる腕に小首を傾げて次の行動を待つと、抱き寄せられて間近に迫った耳朶で光る青い石のピアスにもキスをする。
「オーヴェ・・・お前のリザードにキスしたい」
その端的な言葉にウーヴェの身体がぴくりと揺れるが、リオンの身体に腕を回すと腰を抱かれて足の上に横抱きにされてしまう。
「リオン」
「・・・足挙げろよ、オーヴェ」
言葉で促されて羞恥の溜息を零しつつ左足を持ち上げれば、きらりとリザードの身体を水滴が流れ落ちていく。
自らの言葉通りにウーヴェの左足のリザードの頭にキスをしたリオンは、ウーヴェの胸の中央にも口を寄せてキスをする。
羞恥を覚えていようが怒りを覚えていようが、自分が心から願えばその通りにしてくれる優しい心を感じ取りたくて、キスを落とした場所に掌を押し当て、次いでピアスが填っている耳を押し当てる。
「どうした・・・?」
「うん────オーヴェの心臓・・・動いてる・・・」
生きていれば当然のその行為にすら何かを感じるのか、リオンが目を閉じて耳を押し当てたままぽつりと呟くが、それを耳にしたウーヴェが軽く唇を噛み締めた後、蒸気で湿って重くなった金髪をそっと抱き寄せて口付ける。
「リーオ」
仕事で何か辛いことがあったのかと、つい先程までの陽気さが影を潜めたことに気付いてそっと問いかければ、何でもないと答えられ、それならばそんな声を出さないでくれと願ってリオンのこめかみに頬にキスをする。
お前はいつも周囲を照らす太陽のように明るい笑顔を浮かべてくれと願いつつも、リオンがこんな暗い顔をする事を知っているのは自分だけかも知れないという後ろ暗い快楽に囚われそうになって背筋をぞくりと震わせる。
それが伝わったのか、リオン小さな笑い声を零してお前だけだと背中に回した手で震えを吸い取るように撫でた為、もう一度今度は先程のものとは違う理由から背中を震わせて胸に抱いたリオンの顎に手を掛けて顔を上げさせると、その先を読んで青い眼が伏せられたことに微かに笑みを浮かべて薄く開く唇をそっと塞ぐのだった。
バスタブの縁に腰を下ろしたリオンが広げた足の間にウーヴェが身体を割り込ませて伸び上がり、この後何をしたいのかを告げる様にキスをしたのだが、当然ながらリオンがそれを拒む理由など無く、好きなだけ好きなようにしろと目を細めてその頬を撫でたのは、今からどのくらい前だっただろうか。
その間、己の行動に対する許しも得たウーヴェが碧の瞳を欲に光らせて湯の中に跪き、リオンのものを手と口と舌を使って愛撫していたが、リオンの手が頭の形に添って後ろに回ったかと思うと軽く力を込めて頭を押されてしまい、その衝撃に喉の奥で小さな悲鳴が籠もる。
すっかりと形を得てウーヴェの喉の奥をも圧迫する程になっていたが、どちらもそれを止めることをせず、己のものがウーヴェの口を出入りする様を、一心不乱にその行為を繰り返すウーヴェをただ愛おしそうに見つめていると、苦しくなった呼吸を整えるように顔を上げる。
「オーヴェ、もう満足したか?」
お前の口で天国に連れて行って貰うのも好きだが、どちらかと言えば中の方が好きだと言いながらウーヴェの顎から頬にかけての整ったラインを撫でたリオンに艶然と笑みを浮かべたウーヴェだったが、己の唾液に濡れて光る先端にチュッとキスをすると、中はまた後だと囁いて何かを言われる前に再度リオンの腹に付きそうな角度のものに手を添えて口の中に招き入れる。
ウーヴェが意外と-リオンにしてみれば嬉しい誤算だった-オーラルに対する抵抗がない事を知り、それとなく促したり懇願したりすると口では文句を言いながらもやってくれるし、今日のように気分がノっているときや調子が良いときなどは口の端から唾液を零しながらも自ら進んで口と喉を使って愛撫してくれるのだ。
そんな時は当然ながらその後の時間、ウーヴェが泣きそうな顔で根を上げたり、時にはぼろりと涙を零したりするまで中を突き上げて悲鳴じみた嬌声を上げさせるのだが、今夜は我慢出来るだろうかとウーヴェの口淫を受けていたリオンは、気を逸らせたことが分かったのか、ウーヴェが舌先を先端にねじ込んだ事に気付いてびくんと腰を引きそうになる。
「・・・悪ぃ」
「・・・・・・」
素直に悪かった謝った後、もうお前しか見ていませんと言いたげな顔で恋人を見下ろし、濡れて赤く光る唇の間を出たり入ったりする見慣れたそれに目を細め、この後当然の様に一足先にベッドに追いやられるのならば、このまま口の中に出してしまいたいと告げると、やや躊躇ったような気配が伝わった後、白い頭が上下して許しを与えてくれる。
「────ダンケ」
その一言の後、望み通りにウーヴェの口内に熱を吐き出したリオンは、ずるりとものを吐き出しながら軽く咳き込む恋人の口元に掌を宛がい、ここに吐き出せと無言で促しながら微かに震える背中に湯を掛けてやる。
掌に吐き出された白い熱と唾液を無造作にお湯で洗い流し、ぐったりと腿に上体を伏せるように身を寄せるウーヴェの腰を抱き上げてその勢いのまま腿に座らせると、唾液に濡れる唇をぺろりと舐めた後そっとキスをする。
「・・・ん・・・、リオン・・・」
「ああ。待ってるから、なるべく早く済ませろよ」
この後ウーヴェが何をするのかをしっかりと理解しているリオンが、それでも離れる名残惜しさを隠さないで白い髪に隠れる耳に囁くと、待っていてくれと言葉ではなく唇へのキスで伝えられる。
そのキスを受け止めて返したリオンは、赤く染まる目元にぽつりと存在する小さなほくろにもキスをした後、一度バスタブの中に頭まで潜った後、呆気にとられるような顔で苦笑するウーヴェに悪戯がばれた子供の顔で笑い、タオルでくすんだ金髪を拭きながらバスルームを出て行くのだった。
クッションをいくつか重ねて腰の下に差し入れ、逃げを打つ身体を引き寄せて窮屈さを感じる程身体を折らせた後、股の間から目元を赤くしながら見つめられてにやりと太い笑みを浮かべれば、この後訪れる衝撃を予測した顔が背けられる。
いつまで経っても羞恥を感じるのか、それとも期待に顔を赤らめているのかは分からないが、拒まれている事だけはあり得ないと知っているリオンは、押さえつけた足にキスを届けた後、一気に身を沈める。
「────っ、・・・ア・・・ッ!!」
一瞬詰まる呼気と吐き出される時に自然と流れ出す甘い吐息にリオンが腰を震わせるが、その震えが伝わったようにウーヴェの細い腰も震えている。
女のように柔らかな身体ではない為にかなり窮屈な姿勢ではあるが、それすらも受け入れてくれるウーヴェに感じるのは欲も情もひっくるめた思いだけで、それを伝えるように腰を引くと震える呼気が細く長く吐き出され、押しつけると身体全体が逃げを打つようにずり上がろうとする。
足を抱えて引き寄せ中を掻き回せば顔が嫌々をするように左右に揺れ、熱を持った襞を纏わり付かせたまま半ばまで出て行った後、一気に押し込んで最奥を突き上げれば顎が上がって開けられた口から熱の籠もった甘い息がこぼれ落ちる。
いつものように白い痩躯を抱いていたリオンだったが、薬指で太陽と月をその身で繋いでいるリザードがシーツに擦れて微かに痛みを訴えた事に気付き、足を庇うように立ち上がるとウーヴェの腰を掴んで引き上げる。
さっきよりは胸の圧迫感は無くなったが、腰や背中ではなく両肩で己の体重を支えるような体勢に苦しそうな声を挙げたウーヴェに悪いと謝ったリオンだったが、そのまま腰を進めてウーヴェの口から苦痛の呻き声を挙げさせてしまい、舌打ちをした後そっと抱えていた腰を下ろさせるとその反動を利用して抱き起こし、己の足の上に座らせる。
昔ならばこんな風に相手の身体を気遣う余裕など無く、ただ快楽だけを求めて結構無理強いをしてきたが、ウーヴェと付き合い始めてからはそんな強引な抱き方で自分だけが気持ちよくなるよりも、二人で快楽に溺れたい思いが強くなっていた。
だからより負担の少ない体勢を選び、目尻の端で苦痛に滲んだ生理的な涙を舐め取り、腰を再度掴んで持ち上げた後、己のものを咥えさせると綺麗に背中が弧を描きながらもしっかりとリオンの肩に両腕を回してしがみつくが、震える足もリオンの腰に絡められる。
その動きに素直にリオンが口笛を吹くことで歓喜を表し、常日頃の顔からは想像出来ないウーヴェの嬌態を脳裏に焼き付けるように見つめれば、欲に霞んだターコイズが細められて艶やかな光を湛えて見下ろしてくる。
「・・・どうした、オーヴェ?」
「・・・ん・・・、・・・リー・・・オ・・ッ────ンァ!!」
歓喜に震える声で名を呼ばれ、思わず中を突き上げれば頭が仰け反って背中が撓む。
それに気をよくして腰を掴んで引き上げ、一気に引き戻すとびくんと身体が竦むが、それでも腰に絡められた足はそのままだった。
だが、不意にリオンの背中に回っていた腕が離れたかと思うと何かを探すようにシーツの上を指先が滑り、リオンの組んだ足の指へと辿り着いた後、目的地がそこであるかのような安堵の溜息がリオンの耳に吹きかけられる。
「オーヴェ?」
何がしたいんだと訝る声で名を呼んだリオンは、小さな小さな声がリザードと答えたことに軽く目を瞠り、左足の指を愛撫するように撫でるウーヴェの手の感触に今度は目を細めてしまう。
「リザード、気に入ったか?」
自分の足にあるトゥリングのリザードとはまた違うが、同じ思いを具現化した様なリザードが気に入ったのかと問えば、嬌声なのか同意なのかが分からない声が返ってくる。
「────あ・・・、あ・・・っ・・・!」
太陽に前足を掛け、太く長い尻尾で三日月を絡め取るリザードを何度も何度も撫でたウーヴェにリオンが痛みとくすぐったさを同時に感じて苦笑するが、今は俺の番だと告げるが早いか、ウーヴェの中に入ったまま細い背中をシーツに沈めるように身を伏せる。
「・・・ン────ッ、ァア!!」
背中が仰け反った時を狙って片腕を差し入れて腰を抱き、片手で白い足を抱え込んで胸に押しつけるように曲げさせると、快感の海に沈み込んでしまえとばかりに腰を押しつけて熱い息を吐き出させる。
そして、ウーヴェの爪先が緊張したように曲げられて程なく、二人の腹の間に熱が吐き出されたのを確認したリオンは、己も熱を持つ襞の中に負けないほど熱いそれを吐き出すのだった。
いつもならばぐったりするウーヴェの身体をタオルで清めてからコンフォーターを被るのだが、さすがに今日はリオンも疲れているのか、お座なりにウーヴェの腹と尻を拭き自身のものも拭く以上のことは出来なかった。
ウーヴェはと言えば半ば以上意識が吹っ飛んでいるからか、リオンのそのお座なりなそれに対する文句も苦情も口にするほどの気力はなく、潜り込んでくるリオンの身体に手を引っかけるだけが精一杯だった。
いつものようにリオンがウーヴェの腰に腕を回して身を寄せた事を何とか認識したウーヴェは、眠りに落ちる前にやりたいことがあった事を思い出したのか、リオンの左足に己の左足を触れあわせるように足を絡めて横臥する。
「オーヴェ?」
さっきもそういえば随分と左足を気にしていた事を思い出し、そんなに俺のリザードが気に入ったのかと苦笑混じりに問えば、無言で白い髪が上下し、ウーヴェのリザードが持つ冷たい熱がタトゥーの上から伝わってくる。
「オーヴェ・・・」
「仲間が・・・出来て、良かったな・・・」
「────うん」
寝息混じりの囁きが誰に対するものだったのかは分からないが、間違いなく己にも語りかけてくれている事を確信したリオンは、短い言葉に有りっ丈の思いを込めて頷き、ウーヴェの左足に己の左足を押しつけてシルバーの身体を持つリザードとタトゥーの身を持つそれをしっかりと重ね合わせてやるように更に身を寄せる。
この家でいずれ一緒に暮らそうと伝えてくれた事が嬉しくて、その時の気持ちを忘れないように己の身体にリザードという形で刻み込んだが、そのリザードは己が考えていた以上の歓喜をもたらしてくれた事に気付いて目を伏せる。
恋人の足を永住地に決めたリザードも一人で寂しかったのだろうかとぼんやりと思案した時、リザードもそうだがそれ以上に一人の寂しさを感じ取っていたのは自分たちだと気付いて目を開けたリオンは、同じように半分だけ目を開けて口元に笑みを湛えているウーヴェに気付いて目を瞠る。
「リーオ」
一人にしないという約束をまた守ってくれてありがとうと囁かれ、抱き寄せられて鼻先にキスをされてしまえば言葉など必要なくなってしまい、ウーヴェの唇が顔中にキスを降らせた後は今度はリオンが同じようにキスの雨を降らせる。
「明日さ、一日休みだからゆっくり寝てようぜ、オーヴェ」
「・・・・・・それも、良いな」
「うん」
だから今夜はぐっすりと眠ってくれと伝え、同意の頷きを貰ったリオンもそのまま静かに目を閉じる。
恋人には反対されるかと思っていたタトゥーだったが、予想外に気に入ったようで本当に良かったと胸の裡で安堵の吐息を零すと、お休みと告げて意識を手放すのだった。
その夜、身体の作りは違っても同じ心を持つリザードは離れることなく一晩中身を寄せ合っているのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!