テラーノベル
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施設の面会室。思ったより広く、今の俺の孤独を増強させてくるようだった。
緊張から、待ち合わせ時間よりも30分も早く着いてしまった。
明來に、何と声をかければいいか。
覚悟を決めた日から、全く定まっていなかった。
ごめん、大丈夫?、久しぶり、調子はどう、…。
秒針の音が俺を急かしてくる。
そこで、扉が開いた。
「明來。」
明來は悲しげに微笑みながら、こちらに近づいてきた。
「瑠唯、痩せたね。」
「…明來、どうして。」
「まだ、話したくないかな。」
明來の負った心の傷は、まだ触れてはいけないようだった。
「そういえば、髪切ったんだな。」
「え、瑠唯が気付くなんて珍しー!何、彼女できた?」
「んなわけねえだろ。そんだけ短くなってれば気付くわ。」
「そーそー!ボランティアでヘアカットしてくれる団体さんが来てさ〜。せっかくだしバッサリ切っちゃった!」
「へぇ。そんなのあるんだな。」
肩ほどまであった金髪は、男子と見紛うほど短くなっていた。色は、ブリーチによって黒くは戻らなかった。
「なんかさー、最近自分が女かどうか分からんくなってきててー。」
唐突にそう語りだした明來は酷く孤独に見えた。
「女に戻んなきゃっていう思いもあって、体売ってたんよー。稼ぎもいいしね。でも、もっと辛くなってきちゃってさ。」
「そう、だったんだな。じゃあ、トランスジェンダーってことか?」
「まだ分かんなーい。ノンバイナリーみたいな?」
「…へぇ。」
「リアクションうっす!もっと驚いてくれてもいいじゃん!」
馬鹿、驚いてるに決まってんだろ。
突然のカミングアウトに、心は動揺していた。
俺は明來のことを大抵知っていると思っていたし、明來を女子だと思って接してきた。
…正直に言う。俺は明來のことが好きだった。
辛い過去を背負いながらも、底抜けに明るくあろうとする明來は、眩しかった。
でも明來にとっては、俺から恋愛的な好意を向けられているなんて、気持ち悪いだろうな。
俺の動揺とは裏腹に、明來は語り続ける。
「だから母さんに、仕事辞めたいって相談したんだよ。ちょうど闇バイトグループとの関係も知ったしね。でも、それ母さんにとっては相当なショックだったみたいでさ。母さんその日に夜逃げしちゃったんだよねー。」
その途端、納得した。
明來から湧き出てくる孤独の正体は、これだったんだ。
どれだけ近づいても、ずっと孤独な目をしていた。
この孤独を、俺は知ってる。
青い目の少女と、もう一人。
「なあ、明來。今度、設楽先生と話してみてくれないか。」
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