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「はい、どちらさまでしょうか?」
インターホンの向こう側からお手伝いさんだろうか、若い女性の声がした。
「突然すいません、茶糖(サトウ)と言う者ですけど、あの、鳥の羽について伺いたくて――――」
「ああ、そちら関係の! お待ちくださいませ、旦那様にお伝えします」
「? はい……」
何だか思っていた以上にすんなりと事が運んだが一体何故だろう?
コユキも私同様に怪訝(けげん)な顔を浮かべている。
暫く(しばらく)して玄関に姿を現した恰幅(かっぷく)の良いこの邸宅の主の第一声によって我々の疑問は晴れるのであった。
「お前が羽を売りに来た女か? それにしてもみすぼらしい格好だな…… まあ良い、どこで聞いてきたか知らんが、珍しい羽であれば買い取ってやるぞ、見せてみろ」
なるほど、ここに鶴の尾羽が有ることも頷ける、この主は鳥の羽コレクターってやつだろう。
コユキも納得した表情を浮かべて返す。
「ああ、残念なんだけどアタシの探している羽がここん家にあると思って聞きに来たのよ、期待させてゴメンね」
「なんじゃ、お前もコレクターなのか、しかし、珍しい羽は貴重じゃからな、おいそれとは譲ってやる訳にはいかんぞ! 望みのブツは何だ? ヘビクイワシの冠羽か、オオフウチョウの飾り羽か、それともアカショウビンの風切羽か?」
コユキは首を振りながら言った。
「ううん、アタシが探してるのはタンチョウ、鶴の尾羽なんだけどさ、どう持っているでしょう?」
主は顎に手を当て首を傾げながら呟くのであった。
「ん~、持っていたかな? まあ、一応あるかも知れんが、ニホンキジやクジャク並みに普通の品じゃないか、欲しいというならやらんでもないが、勿論タダじゃないけどな、千円くらいは払えるんだろう?」
交渉は殊の外(ことのほか)順調であった、ここまでは……
善悪でも一緒に居ればここで憎々しそうに千円をワザと渋りながら払い取引完了であっただろう。
だが、今回はコユキ一人である。
長きに渡る引き籠りニート生活の結果、コユキが失った物の一つがコミュニケーション能力であった、その低さをいかんなく発揮したのである。
「良かった、アタシ相方から三万円以内で手に入れて来いって言われてきたのよね! んじゃあ、これ千円、はい、どうぞ!」
「ほぅ………………」
「ど、どうしたのよ?」
無表情になっていた主は急に重くなった口を開き、重々しく言うのであった。
「確かに鶴の尾羽は価値の低いアイテムだ、それこそ出品が重なったオークションなんかでは数百円でも手に入る事もある……」
コユキは急変した主に対して慌てたように声を掛ける。
「でしょ、だったら――――」
「だが断る!」
コユキに全てを言わさずにこの邸宅の主は、強い意志の込められた声で天国の扉を開く勢いで言い、唖然とするコユキに向かって続けたのであった。
「ふっ、三万円だと? 何でか知らんが我が家にあるだろう鶴の尾羽は市場価格の数十倍の金を出してもいい程の物らしいな、儂自身が気が付かなかった特徴でもあるのかも、なあぁ~? ふふふ、そうとくれば、交渉は決裂じゃ、何十万積まれようとも売る気はない! 分かったらとっとと帰るんだな! シッシッ」
「な!」
ガッシャンッ!
その時、家の奥の方から窓ガラスだろうか、何かが割れるような物音が派手に鳴り響くのであった。