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kaede🍁
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#💛💜
みら

7,798
2
翌日。
放課後の廊下。
渡辺は教室を出ると、少し離れた窓際に見慣れた姿を見つけた。
宮舘。
壁に軽く背を預けて、渡辺が来るのを待っている。
渡辺は少しだけ歩く速度を落とした。
「何してんの?」
宮舘が顔を上げる。
「待ってた」
「何で」
「一緒に帰ろうと思って」
「先帰ればいいのに」
そう言いながらも、渡辺は宮舘の隣へ並んだ。
二人で歩き出す。
昔からこういうことは珍しくない。
授業が同じ日も。
違う日も。
時間が合えばなんとなく一緒に帰る。
幼い頃からずっとそうだった。
だから、今さら。
「待ってた」
なんて言われても特別な意味なんてない。
渡辺はそう思うようにしていた。
宮舘が隣を見る。
「今日、荷物多いね」
「そう?」
「持とうか?」
宮舘が渡辺の鞄へ手を伸ばす。
渡辺はすぐに避けた。
「いい」
「重そうだけど」
「大丈夫」
「そう?」
「大丈夫って言ってんじゃん」
宮舘はそれ以上何も言わなかった。
ただ、少しだけ笑う。
渡辺はその笑顔を見て、すぐに前を向いた。
心臓がほんの少しだけ速くなる。
昔から宮舘は優しい。
自分にだけではなく、周りにも。
困っている人がいれば自然に手を貸す。
だから、これも特別ではない。
そう思っているのに。
宮舘が自分のために待っていたことが少し嬉しい。
その自分が面倒だった。
「翔太」
「何」
「今日の実技どうだった?」
「普通」
「普通?」
「失敗してないし」
「じゃあ上手くいったんだ」
「まあ」
「よかったね」
その言い方まで優しい。
渡辺はまた横を見る。
宮舘は何も気づかず前を向いて歩いている。
好き。
その言葉が頭に浮かぶ。
でも、口には出せない。
幼馴染で。
ずっと近くにいて。
今さらどうやって言えばいいのか分からない。
もし言って、今までと変わったら。
その方が怖い。
だから何も言わない。
宮舘も何も言わない。
それなのに。
時々、こちらを見る視線だけが少し長い気がした。
渡辺は気づかないふりをした。
数日後。
魔法実技の授業。
広い実技場には、何組もの生徒が間隔を空けて並んでいた。
今日の課題は攻撃魔法の制御。
決められた標的へ、決められた強さで魔法を当てる。
教師が注意事項を説明する。
「威力を上げることが目的ではありません。自分で制御できる範囲を守るように」
生徒たちが返事をする。
渡辺も杖を構えた。
目の前、少し離れた位置にある標的。
手元に水の魔力を集める。
青い光。
水が細く集まり球になる。
渡辺は標的だけを見る。
「……よし」
軽く杖を振る。
水の球が飛ぶ。
標的の中心。
綺麗に当たった。
教師が頷く。
「いいですね」
渡辺は少しだけ満足そうに杖を下ろす。
その時だった。
斜め後ろ。
別の組。
「待って!」
誰かの声。
渡辺が振り返る。
制御を失った魔法。
火でも水でもない。
強い衝撃を伴う光の塊。
まっすぐこちらへ飛んでくる。
避けるには少し遅かった。
「翔太!」
誰かが叫ぶ。
次の瞬間。
身体へ強い衝撃。
息が詰まる。
渡辺の身体が横へ飛ばされた。
床。
鈍い音。
周囲が一気に騒がしくなる。
「大丈夫!?」
「先生!」
「魔法止めて!」
教師が駆け寄る。
渡辺は少しだけ息を整えた。
痛い。
脇腹。
腕。
多分。
擦った程度ではない。
でも、人に囲まれる方が嫌だった。
渡辺は身体を起こす。
「平気」
教師が止める。
「動かないでください」
「大丈夫です」
「魔法を受けています。保健室へ」
「これくらいなら」
立ち上がる。
少し、脇腹に痛みが走った。
顔には出さない。
「授業続けられます」
教師が眉を寄せる。
「無理をしないで」
「してないです」
明らかにしている。
でも、渡辺はそのまま杖を拾った。
怪我をしたところを見られるのも、心配されるのも苦手だった。
だから何でもない顔をする。
ただ。
制服の下。
腕には少し赤い傷。
脇腹にも鈍い痛みが残っていた。
授業が終わる。
渡辺は誰より早く実技場を出た。
保健室へは行かない。
寮へ戻って適当に回復魔法でも使えばいい。
そう思っていた。
けれど、廊下を少し歩いたところで脇腹がまた痛む。
「……最悪」
小さく呟く。
人に見られたくなくて近くの空き教室へ入る。
扉を閉める。
誰もいない。
渡辺はやっと息を吐いた。
机へ鞄を置く。
制服の袖を少し捲る。
腕。
思ったより傷が大きい。
「……これくらいなら」
自分で治せる。
多分。
渡辺が杖へ手を伸ばした時、扉が開いた。
「翔太」
聞き慣れた声。
渡辺が止まる。
最悪の相手だった。
「……何」
宮舘が教室へ入ってくる。
「探した」
「何で」
「今日、実技で怪我したって聞いたから」
「誰から聞いたの」
「それより」
宮舘の視線が捲った袖へ落ちる。
渡辺はすぐに隠そうとした。
「見せて」
「何を」
「怪我」
「大したことない」
「見せて」
宮舘が近づく。
渡辺は一歩下がる。
「いいって」
「翔太」
「ほんとに平気」
「平気な人は空き教室に隠れないよ」
渡辺が黙る。
逃げようと扉の方へ身体を向ける。
でも、宮舘が腕を掴んだ。
「痛いんでしょ」
「痛くない」
「嘘」
「離して」
「治すまで」
「自分でできる」
「じゃあ、何でまだ治してないの?」
答えられない。
宮舘は渡辺を近くの椅子へ座らせた。
「座って」
「大丈夫だから」
「翔太」
少しだけ声が低い。
渡辺は諦めた。
「……分かった」
宮舘が渡辺の腕へ手を翳す。
柔らかな光。
暖かい魔力。
傷の周りが淡く光り、少しずつ痛みが引いていく。
渡辺はその光を見ていた。
近い。
宮舘の顔も、手も。
逃げたくなる。
でも。
治療中。
動けない。
宮舘が言う。
「こういう時くらい頼って」
「……」
「昔からそうだよね」
渡辺が目を逸らす。
「何が」
「大丈夫じゃない時ほど、大丈夫って言う」
「大丈夫だから」
「ほら」
「何が」
宮舘が少し笑う。
「今も」
渡辺は何も言えなくなった。
治療は続く。
柔らかな光。
静かな教室。
宮舘がふと、視線を傷から渡辺の顔へ移した。
「翔太」
「何」
「俺は翔太が好きだよ」
渡辺の身体が完全に止まった。
「……」
聞き間違いではない。
宮舘は穏やかな顔のまま続ける。
「ずっと」
渡辺の顔が一気に熱くなる。
「……今言う?」
「うん」
「なんで」
「今なら逃げられないから」
渡辺が宮舘を見る。
「ずるい」
「うん」
悪びれない。
宮舘は回復魔法を続けている。
確かに今逃げたら傷もそのまま。
何より、腕を掴まれている。
渡辺は完全に逃げ道を失っていた。
宮舘が少しだけ笑う。
「返事は?」
「……」
言えばいい。
自分も好きだと。
ずっと同じ気持ちだったと。
それだけなのに。
喉まで出てきた言葉が止まる。
恥ずかしい。
怖い。
今までの関係が一気に変わりそうで。
宮舘の顔をまともに見られない。
「……分からない」
やっと出たのはそんな言葉だった。
言った瞬間、自分で後悔した。
違う。
分からなくなんてない。
分かっている。
でも言い直せない。
宮舘はほんの少しだけ、寂しそうに笑った。
「そっか」
渡辺の胸が痛む。
「……」
「分かった」
それ以上聞かない。
責めない。
いつも通り優しい。
宮舘はただ治療を続ける。
その優しさが渡辺には余計に苦しかった。
「もう痛くない?」
少しして宮舘が聞く。
渡辺が腕を見る。
傷はほとんど消えている。
脇腹の痛みもかなり軽い。
「……うん」
「よかった」
宮舘は手を離した。
もう逃げようと思えば逃げられる。
でも、渡辺はすぐには立てなかった。
言えなかった言葉だけが胸の中に残っている。
好き。
本当はそれだけだった。
コメント
3件

💙素直になりなさい 好きなのに 長く一緒に居たから 🖤💚別世界なのですね。 キス💋ありで出演承諾したかな…
ああ、もう……第3話、めちゃくちゃよかったです。怪我を隠そうとする渡辺と、それを見透かして「今なら逃げられないから」って告白する宮舘。この状況の作り方が秀逸でしたね。好きなのに「分からない」としか言えなくなる渡辺の心情、すごく伝わってきました。宮舘の「そっか」の寂しげな笑顔に胸が締め付けられます……。幼馴染ならではの距離感と、それでも変わることを怖がる気持ちが丁寧に描かれていて、続きが気になりすぎます。みらさん、素敵な作品をありがとうございます!