手が引かれベッドに誘われて、びくんと肩が震える。
「あっ、あのもしかして、抱き枕代わりに?」
無意識に緊張を緩めようとして、いつかの夜の記憶がつい口からこぼれた。
「抱き枕? いや…違う」
彼がゆっくりと首を横に振って、人差し指と中指の二本を絞めているネクタイの結び目に掛けると、そのままクッと下へ引き緩めた。
ワイシャツの襟を立てて、しゅるっという衣擦れの音と共に、解いたネクタイを首元から引き抜く。
ボタンが一つずつ順に外されて、ワイシャツがはだけられると、引き締まって厚い胸板が垣間見えた。
その一連の仕草に魅了されるようで、目を離すこともできないでいると、
「君を、抱いて寝てもいいか?」
と、尋ねられて、頬を染めて小さく頷き返した。
背中に腕が回されて、彼の胸に頭が押し当てられると、心臓の鼓動が早まっていく。
かつての夜とは明らかに異なる熱に抱かれると、仄かに香るムスクのトワレに全身が包まれるようだった。
「……そんなに怯えなくても、眠るまで君を抱いていたいだけだ。ただ、もし許されるなら、もう一度……いや、この夜に何度でも、君に口づけさせてくれないか」
答える代わりに目を閉じて、彼の胸に顔をうずめると、
つと顎が引かれて、再び唇が重ね合わされた──。
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