テラーノベル
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夢を見た。
潮風。
蝉の声。
青すぎる海。
『チョモー! はやくー!』
振り返る。
凛子が笑っていた。
麦わら帽子。
白いワンピース。
小学生の姿。
その隣には、ルージュ――まだ“ルー”と呼ばれていた頃の少女が立っている。
『またチョモ泣いてんの?』
呆れた声。
でも笑っていた。
あの頃はまだ。
全部、本物だと思っていた。
ーーーーーーーー
鈴木は目を覚ました。
薄暗い天井。
しぇるたーの客間。
窓の外では、朝の雨が降っている。
嫌な汗が背中に張りついていた。
「……最悪」
掠れた声が漏れる。
起き上がる。
頭の奥に、昔の映像がこびりついていた。
いつもルージュが持っていたカメラ。
笑い声。
歓声。
鈴木は顔を覆う。
最近、夢を見る頻度が増えていた。
ルージュを追い始めてから。
“チョモ”を思い出す回数が増えた。
コン、と扉が鳴る。
「起きてる?」
霧矢だった。
返事を待たず、扉が開く。
「朝ごはん」
霧矢はトレーを持っていた。
焼いた食パン。
スクランブルエッグ。
インスタントのスープ。
妙に普通だった。
「……なんでお前が」
「冬橋サン忙しいんで」
霧矢はベッド横にトレーを置く。
鈴木は少し眉を寄せた。
「毒とか入ってねぇだろうな」
「あは。警戒心えぐいッスねぇ」
霧矢は笑う。
「入れてたら昨日の死体処理の時点で死んでるって」
それもそうだった。
鈴木は黙ってパンを齧る。
霧矢は壁にもたれてスマホを弄っていた。
静かな時間。
雨音だけが響く。
その時。
「鈴木クンってさ」
霧矢が不意に言った。
「凛子ちゃんのこと好きだった?」
#御本人様とは一切関係ありません
🫧想美🎐🍏
561
#だけなんだ
だけなんだ
653
だけなんだ
3,529
鈴木の動きが止まる。
霧矢はスマホから目を離さない。
まるで天気でも聞くみたいな声だった。
「……なんで」
「いや、見てたらわかる」
鈴木は何も言わない。
パンの味がしなかった。
好きだった。
多分。
ずっと。
でも。
言えなかった。
島では、いつも凛子の周りに人がいた。
ルージュ。
親。
カメラ。
視聴者。
“凛子ちゃん”。
皆の人気者。
その隣で自分は、泣いて笑われる役だった。
『チョモまた泣いてるー!』
『かわいい〜!』
『凛子ちゃん助けてあげて!』
鈴木はゆっくり息を吐く。
「……凛子だけだった」
「ん?」
「普通に接してくれたの」
霧矢は少しだけ顔を上げる。
鈴木は窓の外を見る。
灰色の空。
「他の奴らは、みんな“チョモ”を見てた」
静かな声だった。
「でも凛子は違った」
『チョモ、いたい?』
小さい手。
擦りむいた膝。
泣きそうだった自分に、凛子は絆創膏を貼ってくれた。
『これでだいじょぶ』
ただそれだけの記憶なのに。
今でも忘れられない。
霧矢は少し黙る。
それから。
「優しい子だったんだね」
「……あぁ」
鈴木は頷いた。
「だから死んだ」
霧矢は何も言わない。
否定もしない。
ただ静かに聞いている。
鈴木は続けた。
「ルージュは、昔から頭がよかった」
その名前を出した瞬間、空気が少し冷えた。
「大人が何考えてるか、全部わかってた」
撮影。
再生数。
金。
島の大人たちが、自分たちを“商品”として見ていること。
ルージュは最初からわかっていた。
「……あいつ、自分からカメラに映ってた」
鈴木は拳を握る。
「笑えば褒められるって知ってたから」
『ルーちゃん天才〜!』
『空気読める〜!』
『将来女優だね!』
大人たちは笑っていた。
ルージュも笑っていた。
でも。
時々。
誰も見ていない時だけ。
彼女は、ひどく冷めた顔をしていた。
『チョモ』
夕暮れの防波堤。
まだ小さかったルーが、海を見ながら言った。
『人ってさ、なんでも見世物にするよね』
意味がわからなかった。
だから鈴木は聞き返した。
『みせもの?』
ルーは笑った。
『チョモは知らなくていいよ』
その顔を。
鈴木は今でも覚えている。
「……最初から壊れてたのかもな」
呟く。
だが。
霧矢は小さく首を傾げた。
「違うんじゃない?」
「……は?」
「壊れたっていうか」
霧矢は少し考える。
言葉を探すみたいに。
「生き残ろうとしてただけな気する」
鈴木は眉を寄せる。
霧矢は笑った。
「ま、知らんけど」
軽い声。
でも。
その言葉だけは、不思議と頭に残った。
その時だった。
下の階から、子供の泣き声が響く。
鈴木が反射的に顔を上げる。
続いて冬橋の低い声。
「……落ち着け」
ただ事じゃない空気だった。
霧矢がスマホをポケットへ入れる。
「ありゃ」
笑顔が消える。
「なんかあったっぽい」
コメント
4件
えええぇぇ…何があったの…