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#真相をお話しします
だけなんだ
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@ V o .
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子供の泣き声は、一階から響いていた。
細い。
息が詰まるみたいな泣き声だった。
鈴木と霧矢が階段を降りる。
しぇるたーのリビングには、重たい空気が沈んでいた。
小さな女の子が泣いている。
十歳くらい。
痩せた肩を震わせながら、床に座り込んでいた。
その腕を、冬橋が静かに掴んでいる。
白い包帯。
その下から覗く、紫色の痣。
「……やだ」
少女が掠れた声を漏らす。
「帰りたくない……」
鈴木の足が止まった。
玄関には、中年の女が立っていた。
香水の匂い。
派手な化粧。
苛立った顔。
スマホを弄りながら、露骨に舌打ちする。
「だからぁ、家出しただけなんですって」
冬橋は無表情だった。
「この子、腕折れてたぞ」
「転んだんじゃないですか?」
女は笑う。
乾いた笑いだった。
「ほんと最近、大袈裟ですよね」
少女の肩がびくっと震える。
その瞬間。
鈴木の奥歯が軋んだ。
霧矢が少しだけ目を細める。
笑っていない目だった。
鈴木は黙って少女を見る。
細い首。
爪痕みたいな痣。
怯えて、人の顔色ばかり窺う目。
――昔の自分みたいだ。
『チョモ泣いてる〜!』
笑い声。
スマホのカメラ。
逃げ場のなかった教室。
喉の奥が、少しだけ苦くなる。
「……帰りたくない」
少女がもう一度呟く。
今度は、もっと小さかった。
冬橋が静かに聞く。
「殴られたか」
少女は答えない。
代わりに、呼吸が浅くなる。
女が苛立った声を上げた。
「ちょっと! 変なこと吹き込まないでくれます!?」
その瞬間。
霧矢が笑った。
「あはッ」
空気が止まる。
霧矢はソファにもたれたまま、女を見ていた。
笑顔。
なのに。
目だけが、まるで死人みたいに冷たい。
「アンタさ」
軽い声だった。
「ガキの世話、向いてないよ」
女の顔が歪む。
「は?」
「だってその子、アンタの声するたび震えてんじゃん」
霧矢は首を傾げる。
本当に不思議そうに。
「怖がられてる時点でダメじゃない?」
女が声を荒げる。
「関係ないでしょ!? 親なんですけど!?」
「へぇ」
霧矢は笑う。
「でも所有物じゃないッスよね」
しぇるたーが静まり返る。
鈴木は気づく。
この男。
怒っているわけじゃない。
軽蔑でもない。
ただ、本気で理解できていない。
どうして子供を壊せるのか。
どうして泣くまで傷つけられるのか。
それが、本当にわからない顔だった。
だから怖い。
人間の常識ごと抜け落ちているみたいで。
女が一歩下がる。
無意識だった。
冬橋が低く言う。
「直斗」
「はいはい」
霧矢は肩を竦める。
でも笑顔は消えない。
冬橋は少女へ視線を戻した。
「お前はどうしたい」
少女の唇が震える。
「……ここ、いたい」
その声は、助けを求めるというより。
もう沈みきった人間が、やっと浮かんだ時の声だった。
冬橋は短く息を吐く。
「わかった」
女が怒鳴る。
「はぁ!? 誘拐ですか!?」
「児相には連絡済みだ」
冬橋は淡々と答える。
「診断書もある。あんたの旦那にも連絡済みだそうだ」
女の顔色が変わった。
冬橋は続ける。
「今日は帰れ」
低い声だった。
静かなのに。
逆らえる空気じゃなかった。
「今ここで騒ぐなら警察を呼ぶ」
女は何か言い返しかけた。
だが。
冬橋の目を見て、黙る。
舌打ちをして、 乱暴に扉を開け、
ヒールの音だけを残して、去っていった。
玄関が閉まる。
その瞬間。
少女の肩から、ふっと力が抜けた。
しぇるたーに静寂が戻る。
すすり泣きだけが小さく響いていた。
冬橋はしゃがみ込む。
「腹減ってるか」
少女が小さく頷く。
「カレー残ってる」
冬橋は立ち上がる。
「食うなら持ってくる」
少女はまた頷いた。
その目に、ほんの少しだけ光が戻っていた。
冬橋は台所へ向かう。
その背中を見ながら、鈴木はぽつりと言った。
「……なんでやってんだ」
霧矢が隣へ来る。
「何が」
「こんなこと」
霧矢は少し考える。
「冬橋サン、昔孤児だったから」
「……」
「自分みたいなの、減らしたいんじゃない?」
軽い口調。
でも、その言葉は妙に重かった。
鈴木は少女を見る。
小さな背中。
震える指。
昔の自分みたいだった。
すると。
少女が恐る恐る顔を上げる。
鈴木と目が合った瞬間。
びくっと肩が跳ねた。
鈴木は少しだけ傷ついた顔をした。
霧矢が吹き出す。
「あは、怖がられてる」
「うるさい」
「顔怖いもん」
「……」
霧矢は少女へ近づく。
床にしゃがみ込んで、自然に目線を合わせた。
「だいじょぶ」
柔らかい声。
「ここ、怖い人いないから」
鈴木は思わず霧矢を見る。
その顔は優しい。
優しいはずなのに。
どこか空虚だった。
まるで。
“優しさ”っていう形だけ覚えて、後から貼り付けたみたいに。
少女は小さく頷く。
霧矢は笑う。
「えらいえらい」
その瞬間だけ。
少女の強張った顔が、少し緩んだ。
鈴木はわからなくなる。
この男は、本当に空っぽなのか。
それとも。
空っぽだからこそ、人が壊れる音に、誰より敏感なのか。
コメント
4件
unknownさんの霧矢の解釈がめっっちゃ好きです…今回も素晴らしいお話ありがとうございます!!