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【はちじゅうはち】
……みんな、
フランケンシュタインのことを
『怪物の名前』
だと思ってる。
でも、
本当は怪物を創った科学者の名前。
じゃあ、
あの剥き出しのツギハギの怪物の名前は何?
って、みんな不思議がる。
……答えはね、
名前なんてない。
彼は名前さえ与えられなかった。
でも、私は
『ヴィカ』。
怪物を創ったヴィクターであり、
名もなき怪物そのものでもある。
哲学の本を読んでいるとね、
ジャン=ポール・サルトルっていう人が
『実存は本質に先立つ』
って言ったの。
人間は、何かの目的(本質)があって
作られた道具じゃない。
ただ理由もなく
この世界に放り出されて(実存)、
それから
『自分は何者か』
を自分で決めるしかないんだって。
普通の人間は、
それを自由と呼んで喜ぶかもしれない。
でも、私は違う。
私は、ヴィクターとして
『目的』
を持って怪物を創った。
なのに、怪物としての私は、
その目的からこぼれ落ちて、
ただ理由もなくここに生きている。
つまり私は、
『自分の手で、目的のない不完全な命をこの世にドロップしてしまった』
という大罪の責任(ヴィクターの視点)と、
『勝手に創り出されて、世界のすべてに拒絶された』
という終わらない絶望(怪物の視点)を、
ひとつの身体の中で
同時に味わい続けているの。
他人の評価なんて、
どうでもいい。
哲学者のヘーゲルは、
人間は他人に認められて初めて
『自己』
になれる って言ったけれど、
私は世界に認められようなんて思わない。
世界が私を拒絶するなら、
私が私を認めればいい。
だから、
私はスライムをこねる。
この柔らかくて、
まだ何者でもない
不確定な物質(プリマ・マテリア)に、
私の頭の中にある
『生命の概念』
を刻みつけるの。
文字じゃないよ。
言葉にしたら、世界に消費されて、
ただのホラー小説の記号になっちゃうから。
ツギハギの光、
電気のパルス、
脳のシナプス……。
この中に、私だけの
『新しいエデン』
を創り出しているの。
私は、私を創り直す 科学者であり、
私に愛を注ぐ、
世界でたった一人の理解者。
……ねえ、あなたには見える?
このスライムの中で、
新しく生まれようとしている、
私だけの哲学が。