闇の森に、火花が散る。
セリオの剣がエルミナの爪と激しくぶつかり合い、金属と硬質な魔族の爪が削れ合う高い音が響いた。
吹き荒れる魔力の奔流の中、エルミナは妖艶に微笑む。
「さすがね、セリオ。やはり五度も復活しているだけのことはあるわ」
その言葉に、セリオの眉がわずかに動いた。
「……やはり、お前は知っているんだな」
エルミナの紅い瞳が細められる。
「ええ。私はお前が”初めて”この世界に蘇った時から見ていたもの。リゼリアがどれほど執着しているかも……ね」
セリオは無言で剣を構え直した。
エルミナは、一歩踏み込むと同時に、背中の黒い蜻蛉のような羽を大きく広げた。羽ばたきとともに強烈な魔力の波動が放たれ、セリオの足元がひび割れる。
「今度こそ見極めさせてもらうわ、セリオ。お前が”魔王”となる器かどうかを!」
エルミナの指が動くと、彼女の爪が一瞬で倍の長さに伸び、鋭い刃となる。
セリオはその攻撃を見極めながら、冷静に剣を振るった。剣と爪が交差し、空間が裂けたかのような衝撃が周囲に広がる。
「試すような言い方をするな、エルミナ。俺は魔王になるつもりはない」
「本当に?」
エルミナの妖艶な笑みは揺るがない。
「魔族の世界は”強き者が統べる”のよ。お前ほどの力を持ちながら、それを拒み続ける理由は何?」
「俺は……」
セリオは言葉に詰まる。
自分が何のために戦い、何のために生きているのか。かつて人間だった頃の使命感は、今も変わらずこの胸にあるのか。
(俺は何のために……)
刹那、エルミナの爪が閃いた。
セリオは反射的に剣を横に払う。衝撃が手に伝わり、エルミナの魔力が剣を蝕もうとする感覚が走った。
「お前は……試しているんじゃないな」
剣を押し返しながら、セリオはエルミナの瞳を見つめた。
「俺を魔王に”仕立て上げよう”としているのか?」
「ふふ……どうかしら……」
エルミナは楽しげに微笑むと、一歩後ろへ下がる。
「一つだけ教えてあげるわ。私はね、”人間と魔族の狭間”で揺れ動くお前が、この魔界をどう導くのか見てみたいの。……そして、どんな結末を迎えるのかも」
セリオは剣を構えたまま、しばらく彼女の言葉を噛みしめるように沈黙した。
「俺はまだ、その答えを持っていない」
「なら、答えを見つけるのね。……お前は、必ずこの魔界の”中心”に立つことになるのだから」
エルミナの瞳が妖しく輝いた瞬間、彼女の羽が大きく揺れ、黒い霧のような魔力と共にその姿が掻き消えた。
残されたのは、荒れ果てた戦場と、セリオの静かな息遣いだけだった。
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