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ーー
「ふぅ」
久しぶりの自分の部屋。悠己は簡単な荷物を床に落とし、そのままベッドに腰掛けた。
あれから2日後、退院する事ができた。
病院にいる間は特に何もなかった。あるとすれば、蓮からの連絡が全く無い事だろう。
蓮は毎日のようにメッセージを送ってくる。だから2日も何もないのはめずらしく感じてしまう。
ふわり、と冷たい風が僕の前髪を揺らす。
窓、開いてたっけ?
「…」
立ち上がり、窓に近づくと犯人であろう人物が立っていた。
「やあ」
僕の顔を見るや否や、挨拶でもするように片手を挙げた。
結月は、いつものようにパーカーのフードを被っていなかった。目は黒色かと思っていたが、よく見ると珍しい色をしている。
「ゆき、見て欲しいものがあるんだ。付いてきてよ」
なんだか少し楽しそうに結月はそう言った。
「…」
「嫌だって?そうだなぁ…」
結月は何か考える素振りをしたと思うと、近づいてきた。僕が何もできずにいると、トモダチ、と結月が耳元で囁いた。
「、は?」
友達、という単語が僕の頭をぐるぐると回る。まさか、結月は、。
「何処に行けばいい」
気がつけば僕は1歩踏み出していた。
「ふ、察しがいいね。付いてきなよ」
結月が身をひる返し、歩き始める。
僕は適当にコートを手に取り、結月を追った。
明かりがついているというのに、薄暗い。僕の家から少し離れた、廃墟のようなボロボロな倉庫。
そこには不気味な雰囲気が漂っていた。
結月は何も言わず、歩を止めた。僕も結月から少し離れた位置に止まる。
「ほら」
結月が呟く。視線を目で追うと、2メートルほど離れた所にある暗い影の中に、誰か倒れている。
「…」
冷や汗が頬を伝う。
「行かないの?もしかして、怖い?」
「……」
人影へと近づく。
もし、死んでいたら。
唇を噛み、更に近くへ寄る。
明るい金髪に、見慣れた制服。
もう否定しようがなかった。
倒れているのは蓮だった。
錆びた鉄の様な鋭い臭いが僕の鼻を劈く。蓮の腹部が、赤黒く染まっていた。
「…っ」
動かない。
、蓮はもう死んでいるのだろうか。
「生きてるよ」
突然、結月が呟いた。
生きてる?
確かめる為に蓮へと伸ばした手が、止まる。
手が震えた。
大丈夫だと自分に言い聞かせる。
意を決して僕は蓮の手に触れた。
「っ…」
冷たい、けど死んだ人の冷たさとは違う。触れていると少し体温を感じた。
「蓮、れん!」
名前を呼び、肩を少しだけ揺らす。すると、蓮はうっすらと瞼を開いた。
「…あれ…ゆ、き?」
蓮の声。
「よかった、生きて…」
グサッ
僕がそう言った瞬間、何かが刺さるような音が鳴った。
「ッゔ…ぁ」
蓮が苦しそうに顔を歪める。
僕の隣には、いつの間にか結月がいた。
「なん、で、」
僕の質問には答えず、結月は立ち上がったかと思うと、ナイフを床に落とした。
「あははははは」
笑い声。結月は楽しそうだった。
「ちょっとだけ、君たちに時間をあげるよ」
そう言い、そのまま僕に背を向けたかと思うと、結月は姿をくらました。
「…」
途端に辺りは静まり返る。
「、ッゴホッゴホッ」
蓮の咳きに僕ははっとし、蓮へ目を向ける。
「ゆ、き、、退院、したんだ」
蓮の声は酷く掠れていて、弱々しかった。
「蓮、どうすれば、」
「…ゆき、ゆきは、俺の事、、邪魔だった、?」
僕の手を、蓮がぎゅっと握る。
「そんなわけないじゃん、僕、本当はもっと蓮と一緒に…」
話をしたり、ゲームしたり、遊んだりとか沢山したい事があったのに。
言葉が声に出ず、視界が歪み出した。
「、そっか。俺、実はゆきに、嫌われてたんじゃないかって、思ってたんだ、。」
少し苦しそうに笑う蓮。
「ゆき、いつも、俺には素っ気なくて。、最初から俺の事なんか、見えて、ないんじゃないかって、、。だから、あの日、ゆきが来てくれた、時、本当に嬉しかった…。もう、ゆきの事は、諦めてたのに。…期待して、よかったんだ。、ちゃんと、ゆきの世界に、俺は、居たんだね…」
抑えきれなくなった涙が、溢れ出した。
「…嬉しいなぁ、。俺の為に…泣いて、くれる人が居るんだ…」
もう蓮の瞳は曇り始めていた。
「、蓮、…ごめん…xxxxxxx」
ずっと前から、こうなる予感がしていた。また誰かが、死んでしまうのではないかと。
「…なんだ、ふふ………あり、がとう、、。ゆきに、会えて、本当によかった、」
僕の手を握っていた、蓮の手から力が抜ける。
焦るように、手を握り返しても、もう体温を感じなかった。
「………」
蓮の頬に触れる。
こうやって僕から蓮に触れていれば、もっと早く僕は僕の感情に気づく事ができたのだろうか。
ーー
「悲しい?」
温度のない声が響き、足音が近づいてくる。
僕は、ゆっくりと銀色の光に手を伸ばした。
コメント
2件
お久しぶりです 今回のお話も面白かったです!!
諸事情により、更新出来ませんでしたが復活しました。