テラーノベル
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夏が終わりかけの、微妙な気温。木の葉が地面にちらついている。
僕と彼女の間には、1メートルほどの隙間がある。僕よりも少し前を弾むように歩いていた。
「私、秋あんまり好きじゃない」
「なんで、過ごしやすいじゃん」
彼女は地面に落ちた葉を1枚1枚踏んでいた。
「なんか、つまんないじゃん。だから春とかも嫌い。冬は雪があるし、夏には海とか…楽しいじゃん」
「なにそれ」
秋が嫌いだと言っておきながらニコニコで葉を踏む彼女を見て、僕は鼻で笑った。
「冬だーーー!」
と、彼女は玄関の前に降り積った雪にダイブした。ビーニーにも雪がついてしまっ ている。そんなこと気にもせずに足をバタバタさせていた。
「はっちゃけ過ぎでしょ、気をつけてね? 」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ! 」
ニコニコで雪だるまを作ろうとしていた。僕もそれを手伝うかのように、近くにある石ころと、家にあったバケツを持ってきた。
「目つけて」
言われるがままに目をつけて、帽子のようにバケツを被せた。
「可愛い、うまくできたね」
「そーだねー…」
完成した雪だるまを、ふたりで眺めていた。
「…この雪だるまも、あったかくなると溶けちゃうんだよね、」
「当たり前じゃん」
「なんか、人間みたい」
「え?人間はあったかくなっても消えないよ?」
「それは分かってるよ、そうじゃなくて」
彼女は深く、なんでそう思ったのか真剣に考えていた。
「人間も、弱ってから消えちゃうじゃん。そんな感じ」
なにいってるんだろと自分で我に返ってビーニーを被り直す彼女。僕は横からその姿を見守ることしか出来なかった。
「…来年も、雪だるま作れるといいな」
そう言って僕は帽子越しの彼女の頭に手を置いた。
「わ、桜咲いてる」
窓越しに桜を眺めていた。彼女は笑顔だった。
「あれ、なんか前に春も嫌いって言ってなかったっけ」
「そんなこと言ってないもーん」
と逃げるように言った。
「嘘つけ、言ってたって。」
「気のせいだって、いってないよー」
ケラケラ笑う横顔は、春の夕日に照らされていて鼻筋がくっきり見える。よく見てみると綺麗な鼻だな、なんて考えていた。
「見て、これ」
僕はポケットから出した小さな貝殻を何個か机に並べた。
「え、めっちゃ可愛い!」
貝殻を細い指で摘んで、じっくり観察していた。
「これわざわざ取ってきてくれたの?」
「うん、なんか夏感じたくなったから」
「そんなこと言うタイプじゃないのにー」
無邪気な顔をしながら「巻貝!」と見せつけてきた。
「…海、ふたりで行きたかったな。」
「何言ってんの、来年行けるじゃん」
彼女はずっと笑顔だった。
窓のすぐ近くに生えている木の葉はほとんど無かった。
「葉っぱほとんど無いね、」
「な、寂しい」
僕はずっと彼女の手を握っていた。細くて、折れそうなほどの手を。
「やっぱり秋になると冷えるねー」
という彼女の足にかかっているブランケットを少し上に引き上げた。
「みんなも、秋に備えてるのかあ…」
彼女の横顔は、なんとなく悲しそうだった。外は薄暗くて、日が短くなっている証拠だった。
「もうちょっとで冬だね。早く雪だるま作りたい」
悲しそうだった顔とは打って変わって、楽しみな気持ちに溢れているような表情をした。
「…そうだな、楽しみ」
僕も笑った。
冬になった。
「本日はご多用の中、… 」
外には雪が沢山積もっていて、歩くのも大変なくらいだった。
「葬儀・告別式にご会葬いただき、誠にありがとうございます。」
僕はあくびを噛み殺しながらアナウンスを聞いていた。お坊さんの声が聞こえてくると、どんどん瞼が重くなってきた。頑張って目を開ける。
葬式が終わって、会場を出た。少し近くに、彼女のお母さんがいた。こちらを見て、手招きしてきた。
「これ、表紙に『タクくんにしか見せない!』って書いてあって、中身見てみてくれない?」
と小さめのノートを手渡しされた。家に帰ってから見てみよう、そう決めてポケットに閉まって、タクシーで家に帰った。
ソファにはビーニーが置いてあり、座れそうになかったのでダイニングテーブルの方の椅子に腰掛ける。
1ページ、めくった。
『9月14日
なんか大腸がんなってた。来週くらいに手術して、ちょっと入院!治すためだし、頑張らないと。
まだまだ人生はこれから!タクくんともっと色んなところ行きたいもん』
『11月11日
がん転移してた。今度から薬使うらしいー、髪も抜けちゃうって( т т )
私の自慢のロングヘアがー。
タクくんに嫌いになられたらどうしよう 』
『12月31日
久しぶりに外でた!雪めっちゃ積もってて楽しかったー、雪だるまも作ったよ☃︎
来年もタクくんと雪だるま作れますように。』
『4月17日
病室の窓から桜見えて嬉しかった!タクくんに春嫌いだったじゃんってツッコまれたけど、桜見るのは楽しいからいいのー!
花見ると生きてるって感じする︎✿』
『7月21日
タクくんが貝殻くれた!私の好きな巻貝いっぱいくれた。夏感じれて嬉しい!
来年は私も海行ってふたりで貝殻探したい𓇼』
『9月10日
なんかもう長くないかもって先生に言われちゃった ᵕ ᵕ̩̩もう私の人生終わっちゃうんですかー。
こうやって言われるとなんか悲しい!ちょっと泣いちゃった』
『10月2日
今日はいつも以上に元気じゃなかった。
終わりが近いって、こういうことなのかなぁ。ドラマとかよりも、なんかアッサリ。
タクくんノートみてくれるのかな。
タクくん私が居なくなっても泣かないでね!空からタクくんのこと絶対みてるからね。私のこと、忘れないでね』
『11月3日
意外としぶとい。でも面会禁止で暇。
ペン握る自分の腕が細くてびっくりする。
人間ってこんなに細くなることができるんだ…
このままなにかの奇跡で生きちゃえばいいのに。まだやりたいことあったんだってー߹-߹美味しいご飯いっぱい食べたり、もっとでっかい雪だるま作りたかったよー』
ノートはあと少しで、1冊終わりそうだった。
涙よりも鼻水が出ていて、なんか恥ずかしい。こんな姿も見られてるのかな…なんて上を見てみても、ただ天井があるだけだった。
ソファに落ちてたビーニーを拾って、写真立ての前に置いた。そして手を合わせる。
これからもどうか、近くで見守っていて。僕のことを、1人にしないでね。僕は、2人分の人生を生きます。
コメント
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もう…泣いちゃったよ…🥀 「来年も雪だるま作れるといいな」って、あのとき彼女は自分の未来をちゃんと知ってたんだね。 季節が巡るたびに「まだ一緒にいたい」って願いを日記に書き残す姿が、胸に刺さって仕方ない。 4つの季節で一生を終える計算された構成、切なすぎるよ…。 「僕は2人分の人生を生きます」ってラスト、彼女の存在がちゃんとタクくんの中で生き続けるんだね。 素敵な作品をありがとうございます。静かに、大事に読みました。
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ちゃま🌙
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