🇦🇶×🇬🇱
※自殺表現有
「いやだ…つらい…あぁぁああ!!!気が狂いそうだ!!」
昼であるのに真っ暗な部屋。
電気を消し、カーテンを閉じ、ただでさえ太陽が出ていないこの部屋はまるで、夜の帳が下りたようで。
グリーンランドはガシャンガシャンと周りにあるものを叩き落としたり幻覚に投げつけたり、最北の地にいながら手袋も上着も脱ぐ。
暑いのか寒いのかわからない。
手はガラス片で切り、血が滲んでは床を赤く染める。
痛くはなかった。
ただつらく、目の前が真っ暗で、やりきれない思いを悲痛な叫び声にするだけ。
「はーッ…はーッ…役目なんか知るか…僕は、僕は解放されたい…はやく…はやくはやくはやく…何か、ない…?縄、なわ…ナイフ…どこ…?」
ガラス片や様々なものが落ち、割れた窓から冷たい風が吹きつける。
「…あ、これでいいや…」
細かいガラス片が突き刺さった手で大きく尖ったガラス片を掴む。
「喉をひと突きで死ねる…今まで頑張ったのに…死ぬ時はあっさりしてて、一瞬なのかぁ…」
遺書なんてものは頭になかった。
とにかく、早く、楽に。
「ッッ!!」
ぎゅっと目を瞑り、グリーンランドは細い首にガラス片を突き刺した。
「っ…ぁ゛…ぃ…ぁあ゛…!」
大量の血が溢れ、激痛が走る。
息ができない、口内が苦い、気持ち悪い、苦しい、死んでしまう、痛い、痛い、痛い。
「ぁ…゛…う゛…」
息をするたびにゴポゴポと喉奥で鳴り、血が溜まっていることがよくわかった。
ろくに酸素も得られないし、得たくはないが、生存本能は必死に口を開く。
どれだけ息を吸おうとしても、喉に届くのは凍りつくような冷たい空気だけで、酸素の一つすら手に入れられない。
「…?……???」
そうして情けなく天井に腕を伸ばしていると、突如として、意識がふわふわしてきた。
ただ無闇にもがいて、目の前が霞むだけだったのに。
なぜかはわからなかった。
ただ、気持ち良くて、心地良くて。
先程まで苦しかったことが嘘のように、まるでクスリを使った時のように。
目の前が黒くなることに恐怖などしていなかった。
(しぬのって…きもち〜…!)
意識が落ちる。
瞳孔が開き、伸ばしていた腕も力なく垂らし、わずかに続いていた呼吸音も心拍も止まり、無音となり、真っ暗な部屋には風の吹き込む音だけがしていた。
部屋は荒れ果て、死体の手は傷だらけ、散らばったガラス片や床は赤い赤い血に染められていて、喉に深々と突き刺さったそれは、もはや凶器である。
側から見れば惨たらしく死んだようにしか見えない。
だが、その荒れた酷い部屋で死んでいるその死体は、微かに口角を上げている。
「〜🎶」
グリーンランドが死んで数日後、彼の元に1人の人物が訪ねていた。
「🇬🇱〜!💪〜?」
この特徴的な話し方をしているのは、南極。
グリーンランドと南極は仲が良く、一緒に過ごすことが度々ある。
「???🇬🇱ー!!👂??」
また、グリーンランドは彼の独特な言葉を聞き取ることができるため、南極の唯一仲良くできている化身でもあるのだ。
(何かあったのかな…)
不安に思った南極はグリーンランドの家へ入ろうとするが、扉は閉まっている。
どこからか様子を確認できないかと、雪を踏み締めて家の周りを調べてみた。
「…!」
玄関のちょうど裏側の窓が、割れている。
南極は雪に埋もれたガラス片に気が付かなかったので、強盗か何かが割って押し入り、グリーンランドに何かしたのだと結論づけた。
「…💢」
玄関からは入れないため、南極は割れた窓から入る。
多少手にガラスが刺さりかけるも、分厚い手袋を貫通することはなかった。
窓が割れているせいで雪が入り込み、室内は恐ろしいほどに冷えている。
「🇬🇱、🙆❓…」
その時、南極の鼻にツンと濃い鉄の匂いが突き刺さった。
「❓…?」
足元でパキパキと音が鳴り、見てみればガラスや陶器の欠片がたくさん落ちている。
何かがおかしい。
ただ漠然とした不安に駆られながら臭いの元を辿ると、そこには求めていた彼がいた。
「🇬🇱…?」
喉に深々と尖ったガラスが突き刺さって、痛々しい。
瞳孔は開き、そこらはなぜ気がつかなかったのか不思議なくらいに赤い。
きっと、目の前で死んでいる彼の血だろう。
「🇬🇱!!」
南極はあまりの光景に吐きかけたものを我慢してグリーンランドの遺体に駆け寄り、揺すった。
グラグラと首の据わらない赤子のように首が揺れ、ガラスが抜け落ちる。
ぷしゅっ。
まだ微かに残る血が飛び、グリーンランドと南極の服を汚す。
「❓…😨…」
グリーンランドは薄着だった。
防寒着もマフラーもなく、素足素手で、痩せ細った死斑の浮かんだ体が目立つ。
服を剥がれたのかと思うも、付近にはグリーンランドのものであろう衣服が落ちている。
それに、いくらグリーンランドが弱っていようと、人間に負けるほど弱いわけがない。
見たところ傷は致命傷となったであろう喉と、素足で歩いたからか切り傷だらけの足裏のみ。
リストカット痕もあるが、これは傷も塞がっている前のものだ。
割れた窓、薄着のグリーンランド、殺されたにしては少ない傷、日頃からの希死念慮…
考えうる限り、南極にとって最悪の状況が浮かぶ。
「…🇩🇰、☎️」
冷たい部屋で、冷たい死体を抱きしめた。
ぼんやりと意識が浮上する。
「……?」
眩い光に瞬きを繰り返し、あり得ないはずの感覚に脳が醒めてきた。
「…ぁ…?」
喉が掠れる。
突き刺したはずの喉から、音が出ている。
痛くない。
寒くない。
苦しくもない。
血に溺れる感覚もない。
「ぇ…?」
自分は死んだはずなのに。
心地良かった死から、辛い現実に引き戻されてしまった。
なぜ?どうして?どうやって?誰が?なんのために?
「けほ…ッ 」
声は出なかったが、確かに傷は治されている。
重い体を起こそうとしてふらつき、ふわふわのベッドに倒れ込む。
(……死んだと思ったけど、生き残っちゃった…?)
気持ち良いまま死にたかったな、と黒く落ちていく心を引き止めることもなく、包帯が巻かれた喉を撫でた。
(…ぼーっとするのも疲れるな…)
それ以外できることがないので、黙って天井を見つめる。
どうやって死のうか。
そんなことを考えながら。
「…ん、ん…?」
「へ…」
今の今まで気が付かなかったが、自分の足の近くに誰かいるようだ。
起こしてしまったらしく、唸りながら起き上がる。
咄嗟に掛け布団の中に潜り込むと、起き上がったであろう人物は感動したように声を上げた。
「グリーンランド…!!ようやく目が覚めたのか!」
「ひっ…」
布団ごとがばりと抱きつかれ、グリーンランドは小さく悲鳴を上げる。
「まったく…心配させやがって…」
「ッ…め、なさ、ぃ…」
「謝らなくていい、お前のことをケアしてやれなかった俺の責任もある…」
デンマークは、グリーンランドの保護者だ。
気づいてやれなかったこと、様子を見に行かなかったこと、もっと話していればと後悔したこと、秘める思いは並ではない。
グリーンランドがちらりと布団から顔を出すと、デンマークは静かに静かに泣いていた。
「!…に、さ…な、か…けほッ…」
「無理して話さなくていい!傷は大方塞がってるが、まだ傷ついたままなんだ…」
軽く咳き込みながら頷くと、少しばかり喉が痛んだ。
言葉の代わりに、デンマークの頭を撫でて慰める。
自分より背の低い、けれど頼れる兄の弱いところを、初めて見た気がした。
「ありがとな…」
デンマークが落ち着いたあたりで話を聞いてみると、 グリーンランドは確かに死んでいたそうだ。
第一発見者は南極で、ひどく凄惨な状態だったとのこと。
「…」
なんとか起き上がったグリーンランドだが、喉を刺したせいで話せなくなっているので、筆談で質問をする。
久々にペンを握った。仮死状態だったとかも含め、およそ2、3ヶ月ぶりといったところか。
『どうして、今生きてるの?』
手に力が入らずふにゃふにゃした文字を読み取り、デンマークは答えていく。
「お前には伝えてなかったな…国だけじゃなく、お前みたいな 土地の化身ってのはな、その程度では死ぬことができないんだ」
「!」
「土地の化身 がそう簡単に死んじまったら、世界の均衡なんて簡単に崩れてしまうだろ?だから、自殺も他殺も事故死もできない。正確には、肉体が原型を保っている限りは回復させることができる」
「ぇ…?」
デンマークはバツが悪いといった様子で目を逸らしている。
グリーンランドが死ななかったのは、死にきれなかったのは、喉以外の致命傷がなかったから。
南極に発見され、ここで治療を受け、だから目を覚ましたということらしい。
自殺願望の強いグリーンランドからしてみてれば、悪夢のような話だ。
「そ…な…ひ、どぃ…」
「だからフィンはスウェーデンと喧嘩する時、銃を持ち出すんだよ」
痛いのも苦しいのも感じる。
でも、決して死なないんだとデンマークは言う。
それが堪らなく苦しかった。
「ぼ、く…し、にた…」
死にたいのに。
簡単な言葉すら上手く吐き出せない。
真っ黒に塗りつぶされた瞳から涙が溢れていく。
「…グリーンランド…」
デンマークは声を出すこともできずに泣くグリーンランドを抱きしめた。
普段は厚いコートを着ているからわからなかったが、不健康なまでに細い四肢が心をえぐる。
絶対に死ねないから。
そんな理由だけで、心を壊した彼と長期間離れているべきではなかった。
誰よりも太陽を望み、誰よりも太陽に怯え、光を求めたグリーンランド。
最も欲しいものは最も恐ろしいもの。
想像できるだろうか?
少なくとも、デンマークにはその苦しさを分かりきってやることなどできなかった。
できるとしたら──
「🇩🇰!」
ノックもせずに入ってきたのは、南極。
大きなコート、分厚い手袋、長いマフラー…それらの防寒具は自身のためではなく、彼の低すぎる体温から他者を守るためのものだ。
「🇬🇱!🔁🔆!」
キラキラと透き通った目を輝かせ、グリーンランドのベッドまで走ってくる。
「南極、いくら個人とは言え病室では走るな」
「❗️、🙏!」
「何言ってるかわからねえが…まあ、次から気をつけろよ」
「🙂↕️!」
言葉が伝わらない代わり、南極は身振り手振りと表情が豊かだ。
唯一言葉がわかるのは、グリーンランドのみ。
グリーンランドの辛さがわかるのは、南極のみ。
2人が親友なのも頷ける。
「てぃ、か…」
「🇬🇱、😇 Ø🥹〜!」
「ゎ」
弱々しく名前を呼ばれ、南極は感極まって抱きついた。
目覚めたばかりで受け止める力のないグリーンランドが支え切れるはずもなく、ばたんとベッドに倒れる。
「けほッ…てぃか…」
退いてという意思表示に細い腕で押し返すと、大型犬のように擦り付いていた南極は「あっ!」という顔をして離れた。
「🙏🇬🇱!🙆…?」
ゆっくり起き上がって頷けば、南極はホッとしたように息を吐く。
外よりもずっと暖かい室内でも、南極の息だけは白くなっていた。
「…俺はもうお邪魔かな?医者を呼んでくるから、ゆっくり話でもしな」
「😊!」
グリーンランドもよそよそしく手を振ってデンマークを見送り、部屋には2人きり。
「🔆🙆?🛏️?」
『ちょっと眠いかな』
「😴 ✔️。🇩🇰◀️🔆」
「ぁ、がと…」
寝ているグリーンランドの顔があの時と重なり、南極は少し顔を顰めた。
その後のことを、グリーンランドはあまり覚えていない。
面倒な手続きはデンマークがしてくれたし、医者の説明はぼーっとしてほとんど聞いていなかった。
どうせ何か後遺症があったところで、また死ぬつもりなのだから関係ない。
家に帰ったら、まずは首を吊ってみよう。
きつく絞まって壊死してしまえ、重力で骨でも伸びてしまえ、死ねるのならどうなろうが良いのだ。
しかしグリーンランドの予想に反して、家に帰ってすぐ自殺、とはいかなかった。
「…なんで南極もいるの…」
「🇬🇱😇⛑️!」
「わざわざ遠いところまでよく来たね…」
本当にその通りで、南極はグリーンランドのためと言い張って地球の裏側とも言うべき場所まで赴いてきている。
どうして自分のためにそこまで?と疑問しか湧いてこないが、南極には彼以外人間なんてほとんど存在しない。
ペンギンなんかの動物しかいないから、きっと退屈で遊びに来ているだけ。すぐ帰るだろう。
「🇦🇶👀、😇 Ø?」
次は許さないんだから、と手を握って言われ、これは長くなるかもしれないと覚悟を決めた。
「🇩🇰🗣️!」
訂正、もう南極は帰らないかもしれない。
それでも、グリーンランドは自殺を図る。
南極が寝ているうちに首を吊ったのだ。
台から足を離した瞬間、ギュッときつく絞まる縄が苦しくてもがいた。
けれど、南極は寝ているからバレないようにしなくてはと思い黙って堪え、意識が遠のく時を待つ。
「かはッ…ひゅッ…はッ…ぁ…」
苦しい、痛い、今度こそ。
様々な思いを抱えながら、ふわふわ沈んでいく意識に身を任せる。
(やっぱり…きもち〜かも…)
縄を掴んでいた手が重力に従って落ちた。
2度目の自殺も成功し、グリーンランドは死んだ。
翌朝発見され、1週間後には意識を回復させられたが。
家に帰った時、南極に部屋へ閉じ込められた。
理由を聞けば、自殺しないようにするため、の一点張り。
デスクが置いてあったので、角に頭を打ちつけて死んだ。
次はデスクや角のあるものが全て撤去され、ベッドは日本式の布団にされていた。
ドアノブに破いた布団を引っ掛け、また首を吊って死んだ。
戻るとドアノブもなくなり、とうとう扉は向こう側からしか開けられない。
布団も南極が出さない限り部屋にはなく、眠る時は南極と一緒になった。
その次は窓を割って喉を掻っ切った、あの時と同じような死に方。
窓は強化ガラスに変えられた。
何もできないように腕を縛られ始めたのはここからだ。
壁に頭を打ちつけて死のうとしたが、額が割れたところで音に気づかれ、壁も床もクッションに覆われた。
さながら精神病院の隔離部屋。
どうしてそこまでするのかと聞いても、南極は
「🇬🇱😇 Ø」
雑談はしてくれるのに、質問にはそれ以上答えてくれない。
窓から南極が外にいることを確認して、脱走も図った。
幸いなことに、手は前で縛られていたので簡単に出られた。
テーブルに残されたままのアイスピックで、目から脳まで一気に貫く。
脳と心臓と体。
この三つが揃っているから生き返ってしまうのだろうと思い、思い切り突き刺した。
怖かった、痛かった、気持ち悪かった。
死ぬことには成功したが、また生き返って入院させられる。
これで何度目か覚えていない、けれど今回は障害が残った。
脳の一部を損傷して記憶力が悪くなり、感情表現も乏しい、または極端で、挙句の果てに両目が潰れたのだ。
元々見えない片目はいいとして、残っていた方からアイスピックを刺したのが間違いだったらしい。
出られないように扉には板と錠前で塞がれるようになった。
そうまでしても、グリーンランドは自殺願望を捨てない。
風呂で溺死した。
湯を張られることはなくなった。
舌を噛んで死んだ。
布を噛ませられるようになった。
一緒に眠る南極の冷気を懐に潜って浴び続け、凍死した。
デンマークが代わりに来るようになった。
食事を拒否し、餓死を狙うこともしたが、通用するはずもない。
頭痛がすると言って薬をもらい、その薬でオーバードーズした。
もはや、1人で何もさせてもらえなくなった。
腕を縛られ、轡がされ、見た目だけなら囚われの身のような格好だ。
「……🇬🇱、❓😥?」
「死にたい、から?」
「❓?」
「…嫌なことから、逃げたい…」
自殺を繰り返し初めてn回目、今日は南極とお話をする日。
「😇、😱?」
「怖いし、痛い…でも、それでいい」
「👍 Ø!!!」
ダン!と机を殴り、南極は穏やかな顔を崩して怒鳴った。
「ひっ…」
「…🙏」
はっと気づいて謝ると、南極は怯えるグリーンランドを抱きしめて落ち着かせる。
「…ぅ…ぐすっ……ひぅ……こわ、い……っ…う……」
何度も何度も自殺を図るうち、とうとうグリーンランドは壊れきってしまった。
何をしても笑顔にはならないが、少しのことで泣いてしまう。
南極だって疲れてしまった。
いくら頑張ってもグリーンランドは自殺をやめず、首周りには痛々しい傷跡が、きつく縛ったせいで手首には縄の跡が、頭を打ちつけた時の傷が、目にも眼帯代わりの布が、全部まだ残っている。
ボロボロにしたいわけじゃなかった。
ただ、助けたくて、生きる希望を見出して欲しくて。
「てぃか…も、や……いやぁ…ひっ……ぅえ…ひっく…う……」
「🙏…😢 Ø…」
泣きじゃくるグリーンランドを慰め、膝に乗せる。
「🙆…🙆…😢 Ø👌…」
「つら、ぃ…も、やだぁ…ころしてっ…ぜんぶいやぁぁッ…」
ぷつん、と何かが切れた音がした。
どれだけ頑張っても、グリーンランドが救われることはない。
何度自殺を繰り返させた?
自分がグリーンランドの生を諦め、死体のままでいさせていれば、全て丸く収まったんじゃないか?
最初に死んだあの時から、見捨てていれば。
素直に埋めてやっていたら、こんなに傷だらけになって苦しませる必要など、なかったはずだ。
「…🇦🇶…🇬🇱💭😣…」
ごめんね
その一言で済んだなら、どれほどよかったことか。
「🛀、🚶」
「溺死、するの?」
「Ø、🛀🧼」
「…そっか」
目が見えないので抱っこで連れて来られたグリーンランドは、ようやく自殺を許可されたのかと淡い期待を持つも、違うと言われ落ち込んだ。
目にかかった布が外される。
服も脱がされ、肌寒い。
いつもと違ったのは、南極も脱いでいるらしいこと。
「🧊🙏」
「大丈夫」
南極の体は氷でできている。
動けるし、話せるし、見る力も聞く力も、匂いを感じたり何かを考えたりする力もあるが、氷なのだ。
本人の意思に関係なく冷気を発し、それは温かい国や人間であれば、触れるだけで凍傷を負うほど冷たい。
同じく一部が氷でできているグリーンランドや、寒さに慣れている北国でさえ、冷たいと思うのだ。
だから南極は、素肌を晒したり薄着になることはない。
みんなを守るために。
けれど、そんな南極が服を脱いだ。
グリーンランドには意図がわからなかった。
「♨️🧳。🥵」
「お湯…?なんで?」
「🫂🫠?」
光を失った瞳が輝く。
(あぁ…君はそんなに死にたがっていたんだね…)
抱きしめたグリーンランドは、以前よりも細くなっている気がした。
湯をいっぱいに張った湯船から湯気が立っている。
グリーンランドの小さな手を掴み、抱き上げてから入った。
「あつっ…」
「🤏🥵」
「…で、も…溶けるなら、これぐらいでいい…」
「…🙂↕️」
足の感覚がなくなっていく。
もう溶け始めたらしい。
「🇬🇱…🥰」
「…えっ?」
「▶️、🥰」
一度溶け始めると早いもので、腕も腹部もすぐにどろどろになった。
顔から垂れていくのは自身だったもの。
グリーンランドは見えていない。
先に溶けてしまうのがもどかしく感じる。
「いま、さら…そんなこと、言わないで…!」
「🙏。🙂↔️、🥰🗣️」
「ずるい…っ!ティカも僕も、今から死んじゃうのに…っ!!」
「🗣️👍…🇦🇶、🫠」
ぽちゃん。
首が溶け折れ、頭が落ちた。
「…ティカ?」
抱きしめてくれていた手が、なくなっていることに気づく。
純粋な氷でないためゆっくりと溶けていたグリーンランドは、目が見えない。
沈んだ南極を探すこともできず、きっともう溶け切ってしまった。
そもそも、腕も足も溶けてなくなっている。
「今、そっちにいくね…」
唯一氷ではない頭だけが、その場に寂しく浮いていた。
溶けて、混ざって、もう復元不可の状態。
赤い血が流れ、透明だった湯船を真っ赤に染め上げる。
痛くも、辛くも、苦しくも、寂しくもない。
(あったかい…きもちいな…)
本当に心地よい死が、浴槽の中を埋め尽くした。
コメント
9件
めちゃ遅いけど❣️ この作品めちゃ好きです! まじで号泣しました! 泣きすぎてやばいです! 見るの繰り返しては泣きます!
おわっっ!なんと素晴らしい作品なのかっ…! 死にたいと思い続けるも国の化身であるために♡♡♡ない可哀想な🇬🇱ちゃんと、 どうしても🇬🇱に生きて欲しい健気な🇦🇶ちゃん。 私の"可哀想は可愛い"が生きました…😭😭😭🫰 良かったね🇬🇱ちゃん…天国で🇦🇶ちゃんとイチャイチャしてね…😭😭 その後私も行くかr🫰❤️(((((((