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アメ日。誰がなんと言おうとこれはアメ日なのだ。




世間というのは気が早いもので。

つい最近夏が終わったばかりだというのに、と折込のチラシを前にため息を吐く。


「年末何日休めるだろ…。」

「ク…リスマ…ス…ケ、キ?うまそう……」


そして、この子の物覚えも早かった。


よく読めましたねと頭を撫でると、子供扱いするな、とぶんぶん頭を振られた。

喋るようになってから数ヶ月でこんなにも流暢に会話ができるようになったのだ。


「撫でさせてくださいよ…僕の癒しが……」

「ケーキ食べさせてくれるならいいぞ。」


そう言い指し示されたのは、こんもりとイチゴの乗ったチョコレートケーキ。

それだけでフォークでスポンジを押しつぶす感覚や、鼻を抜けるカカオの香りが……


「駄目です。先月の健康診断結構まずかったんですよ、僕。」

「別によくね?抱き着いた時前よりちょっと柔らかいなとは思ってたけどよ。」

「ちょっ、変なところ揉まないで!」


減塩、低カロリー。

僕は寝正月のために頑張るのだ。


「え〜……俺、日本が一番好きそうなやつ選んだのになぁ……。」


わざとらしく肩を落とし、しゅんと項垂れて見せるアメリカくん。


「駄目です。」

「いっしょに食べたらおいしいだろうなー……」


勝気な眉が塩らしく垂れ下がる。


「……駄目です。」

「日本は俺といっしょにおいしいの食べるのきらい?」

「ゔっ………」


かわいいは罪である。

猫やらウサギやらによく似たまん丸の瞳を潤ませながらそう言われては、無言で予約票にボールペンを滑らせるしか術はない。


「へへっ、毎度だぜ日本。」

「くっ………!」


敗北感に打ちひしがれる僕を見て、やんちゃに笑うのだから業が深い。

もう一度言おう。かわいいは罪である。


「そうだ日本!お金もちの手紙だぞ!」


上機嫌のアメリカくんは、そう言うとテーブルから何かを取ってきた。


「お金持ち?」


文字がピカピカしてる、と跳ねながら一通の封筒を差し出された。

受け取って、すぐに察する。


「結婚式の招待状ですね。」

「けっこんしき?」

「結婚を誓った二人をお祝いする会です。」


そう説明すると、アメリカくんは眉をひそめた。


「……けっこんって何だ?」

「そうですねぇ……。」


改めて問われると、答えるのが難しい。


“ずっと一緒に暮らす約束”と言えば恋人と変わらないし、“書類で家族になること”と言えば、あまりに味気ない。

どう説明したものかと視線を落とすと、組まれた細い腕が目に映った。


「アメリカくん、指輪ってわかりますか?」

「冷たくてきれいな輪っかだろ?」


屈み込んで、その瞳の高さに合わせる。


「指にはめるやつ」と言いながら手を掲げて見せる彼の手を、そっと取った。


「よく知ってますね。」

「当たり前だろ。俺ってば天才だからな。」


にぱっと笑うその顔が、やけにまぶしい。


「結婚式ではね、こうやって相手に指輪をはめるんです。それで……」


指を滑らせながら、言葉を添える。


「僕のこと、ずっと一番大好きでいてください。一緒に幸せになりましょう。」


アメリカくんは口を開いたまま、薬指を凝視していた。

月を映したような青い瞳が、静かに瞬く。


「……にほ、」

「って約束をするんです。」


“約束”とわかるように小指を絡める。

長いまつ毛が、はらりと揺れた。


「……そういうことかよ。」

「えぇ。とっても華やかなんですよ。」


普段は食べられないような料理を思い浮かべ、頬が緩む。


「……俺、お腹すいた。ミルク作る。」

「あ、ごめんなさい。」


立ち上がろうとした腕を、軽く押さえられた。


「自分でやる。手紙読んどけよ。」


強引にソファへ座らされる。


「ありがとう。」


足音にキッチンへと消えた背に、よっぽどお腹が空いてるんだろう、と小さく笑って封筒に目を戻す。


「……もう、結婚しないかと思ってたのになぁ。」


金の箔押しに指先を滑らせる。

寄り添う二つの名前が、やけに眩しく見えた。


***


夜。

灯りを落とすと、アメリカくんが不意に尋ねた。


「……日本、けっこんしたい?」

「え……?」


闇の中、ぽっかりと浮かぶ青い瞳がこちらを見ている。


「うーん……考えたことないです。」


微笑んで返すと、腕が腰に回り、胸に顔を埋められた。


「……そうか。」


くぐもった声が、少し震えている。思わず、頭を撫でた。


「……将来のこと、あまり考えたことないんですよ。老後くらいしか。」

「意外と無計画なんだな。」


憎まれ口を叩きながら、少しだけ甘えるように身体を寄せてくる。

背筋に手が触れくすぐったい。


「でもね。もう一つだけ決まってることがあるんです。」


不意にアメリカくんの体が硬直する。

柔らかな頬に手を添えると、ようやくこちらを向いてくれた。


「僕は、この先どうなっても、アメリカくんと一緒にいたいです。」

「……俺が、おっきくなっちゃっても?」

「もちろん。」


抱きしめ返すと、彼は照れたように目をそらした。

先ほどのお返しのように足を絡めると、くすぐったそうに笑う。


「もしもアメリカくんが大人になったら、いろんな所に行きましょう。」

「……俺、海が見てみたい。」

「いいですね。南の海はアメリカくんの目にそっくりですよ。透き通ってて、きれいで……。」


ふわぁ、とあくびが漏れる。


「ちっちゃかった頃の話も、たくさんして……。」


そのまま、彼の体温と呼吸が重なっていった。

ひだまりに包まれるような幸福感の中、瞼がゆっくりと降りていく。


「……ずっと……パートナーみたいに……一緒に……。」


それが夢の中の言葉だったのか、現のものだったのか。

確かめる間もなく、意識は静かに溶けていった。


***


「……日本?」


すぅ、と返事のように寝息が返ってくる。

顔を上げると、日本は穏やかに眠っていた。カーテンを閉め忘れたせいで、月の光がまぶしそうだ。

そっと手を伸ばして、天使の梯子を遮る。


「……俺も、ずっと一緒がいいよ。」


その寝顔は、月の光を受けていっそう柔らかく見えた。

恐る恐る指先を滑らせる。


この人に触れるのが怖くなったのは、いつからだろう。

ないはずの心臓が鳴り始めたのは、いつからだろう。


「……ん……あめ……。」


どろりとした想いが胸に満ちる。

黒曜石のようなまぶたを覆いたくなるほどの衝動。


――ずっと一緒にいたい。


彼は確かに、そう言った。


「……待ってて。絶対叶えてやるから。」


月光を照り返す床に、そっと小さなリップ音が響いた。


(続)

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コメント

11

ユーザー

もう色々と好きすぎて心が持たない

ユーザー

これが「いとをかし」って言うのかなぁ(小並感) ショタってあんま見たことなかったけど良いもんだな。ありがとうにわたそ😭😭

ユーザー

アメリカさん…アメリカさん…貴方ッ!…幸せならいいんだッ!そうだッ幸せで…幸せになれよッ…、!

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