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魂
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元貴の視点だからこそ、あの手元への視線やイヤモニを押さえる仕草がこんなにも怖く感じられるんだな…。最後の台詞に気づくまでの静かな確信と、それを認めたくない気持ちがひしひしと伝わってきて、胸がぎゅっとなりました。お互いに隠し事を抱えながら、それでもぶつかろうとする若井の優しさと強引さに泣きそうです。続きが気になりすぎます…!
抜毛症の表現があります。10周年anniversaryブックを参照しています。
「イヤモニ上げて貰えますか?….あー、いや、ごめんなさい、やっぱり少し下げてください」
テレビの生放送ライブ前のリハーサルで、元貴が指示を出していた。
ガチャガチャとした騒音の中、元貴とスタッフさんが会話してるのを横目に、メイクさんにメイクを手直ししてもらっていた。
元貴は右、左、右、左、とイヤモニをやたら触って耳に押し込み、一瞬ばかり少し険しい顔をしてから、大丈夫です、ありがとうございます、と言って調整を終えていた。
「そろそろ本番入ります!」
「「はーい!」」
「はいー」
涼ちゃんと俺の声が重なる。
遅れて元貴が返事をした。
「そろそろテレビ局側のスタジオからこっちにカメラ移ります〜!あ、きます!」
今回の生放送は我々だけステージが外で、特別ステージが設置されていた。
東京の夜景がよく見える、綺麗なステージだ。
「続いてはミセスグリーンアップルさんの演奏です!ミセスグリーンアップルの皆さん!よろしくお願いします!」
合図に合わせて、ギターのイントロを掻き鳴らす。
ライトが眩しく光る。
ちら、と元貴を見ると、元貴もこちらを見ていて、ドキッとした。
しかし瞬時に違和感を抱く。
元貴は、俺ではなく、俺の手元を見ていた。
変わらず響く伸びやかな元貴の美声。
眩しいいつもと変わらない笑顔をカメラに向け、指先の動きで歌詞に合わせて振りを入れている。
気にしすぎか?
気を取り直してギターを掻き鳴らす。
涼ちゃんも天を仰ぎながら楽しそうに弾いている。
元貴の方を見る。
元貴はイヤモニを片方外しながら歌っていた。
そしてまた、俺の手元を一瞥してきた。
そしてぶつかる視線。
すぐにその視線はカメラに戻された。
なんとなく、嫌な予感が走る。
でも、音はいつもと変わらない。
元貴の綺麗な横顔がライトに照らされている。
元貴の歌声が響き渡る。
元貴は強く片側のイヤモニを抑えている。
嫌な予感は大概当たるものだと、かつて元貴がそう言っていたのが、脳を掠めた。
結局生放送ライブは無事に終わり、何事もなかったかのようにステージは撤収作業を迎えた。
しかし、俺の中には違和感があった。
あの時、なんで元貴が涼ちゃんではなく俺ばかり、そして、俺ではなく俺の手元ばかり見ていたのか。
そしてその嫌な胸騒ぎを解消したくて、元貴の楽屋に足を運んでいた。
元貴はソロの出番もあったから楽屋が別にあって、今元貴はそこにいるはずだった。
「きゃあ!嘘!」
部屋の中から大きな声がしてドアを開ける手を止める。
女性の声だった。
声からして、元貴のメイク担当の人の声だ。
開けるのを躊躇って、そのまま耳をそばだてた。
「ちょっと、これはなかなか酷いですよ….どうしよう、次の放送は被り物しますか?」
「いやぁ普段僕はそういうのあんましてないし….ヘアセットだけじゃどうにもなんないですかね?」
「いやぁ、昨日までここまで酷くなかったからいけましたけど、うーん…まぁ長いから大丈夫かな…」
ヘラヘラした声の元貴と、深刻そうな声をしたメイクさん。
「まぁこのくらいなら…ギリギリ隠せますけど、これ以上は厳しいです…でも隠す隠さないとかではなくて心配です、病院とかいきましたか」
「そうよねぇ、うーん、大丈夫よ、ありがとう」
ハッとした。これは、抜毛症の話だと分かった。
元貴は昔から、右耳の上あたりの毛を抜いてしまう癖があった。
一般的にはストレスが原因だと言われている、抜毛症。
しかし、元貴はドラマ出演の頃に症状がなくなっていたはずだし、実際、最近見た時もそんなに見てわかるような様子にはなっていなかったはずだ。
じゃあ、なんで。
元貴の楽屋のドアの横の壁にもたれて、ぐるぐる考えていると、ドアが開いて、メイクさんが出てきた。
メイクさんと目が合うと、メイクさんは悪いことしたのが見つかった子供のような焦った顔をして目を丸くした。
小さく肩を丸めて、「お疲れ様です、、、」と口先で呟くと、逃げるように去っていった。
その様子を見て確信を抱く。
元貴は俺たちに何かを隠してる。
意を決して楽屋のドアを勢いよく開けると、部屋の奥の元貴がびっくりした顔をしてこちらを見ていた。
「若井、どしたの」
元貴の声にはこたえずに部屋をツカツカと突き進む。
そのまま元貴の右耳の上のあたりを見ようとすると元貴が勢いよく抑えようとしてきたので、その右手を無理やり掴んで、頭の上に押し上げるようにして壁に押し付けた。
「ン”ッ!いった、何!やめろ!」
元貴の腕に力が籠るが、そのまま押さえつけ、右耳の上の毛をどけると、背筋が冷たくなるくらい、しっかり毛が薄くなっていた。
元貴に無言で目を移すとバツが悪そうな顔をして不快そうに目を逸らされる。
「何これ、またやっちゃったの」
「別に大丈夫だからッ、離して」
「なんで隠してんの」
「…言うほどのモンでもなかったから」
本当か?と疑いを感じるも手を緩めると、元貴は勢いよく右手を俺の拘束から外し、強く睨みつけてきた。
「….でもさ、前しちゃってた時はメンバーには隠してなかったじゃん」
「…..わざわざ話したりもしてなかった気がするけど」
元貴の目を見る。
元貴は少し不安そうな色を含みつつ、でも反抗的な目でもあった。
でも、やっぱりバツが悪そうに目を落とし、目を合わせようとしなかった。
嫌なピースがはまっていく。
これは、副次的なものだ。
何かもっと、大きな隠し事があって、そのストレスの反応の一つに過ぎないんじゃないか。
レコーディングの時。生放送ライブの時。イヤモニの調整。
「元貴」
名前を呼ぶと、今度はなんだかすごく不安そうな色の目とぶつかる。
なんだかすごく寂しくって、でも同時に、何かを諦めてしまったような目。
胸が嫌な緊張感で鼓動を早める。
これを言いたくない自分がどこかにいて、
信じたくなくて、それを、そんなことないと言って欲しい自分がいて、でも、もう確信じみてもいた。
だって俺はずっと昔からずっと元貴を見てるんだから、そんなの、わかる。
「耳、聴こえてないんじゃないの」
返事は、なかった。