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「おい」
小さな声。それは誰の耳にも届く、
張り詰めた空気を、踏み荒らすように。
騎士団の後方から、馬のひづめの音がもう一つ重なった。
騎士たちが、領民たちが、ざわりと振り返る。
そこにいたのは、あり得ない人物だった。
「……王?」
誰かの喉が鳴った。
バリスハリス騎士団のさらに後ろ。豪奢な外套を纏い、悠然と馬上に座す男。
バリスハリス王国国王。レオニス・バリスハリス。
王は、騎士たちの緊張など気にも留めず、楽しげに目を細めた。
「騎士風情が、こんな面白いものを追い出そうと言うのか」
軽い声音だった。
その一言で、馬に乗った騎士たちが道を開けた。
「も、申し訳ございません!」
王の機嫌を損ねたと理解した瞬間だった。
王は、満足げに鼻で笑った。
「よい」
馬上の姿は、よく目立った。
見目は麗しく、整った顔立ち。切れ長の目は鋭く、同時にどこか愉快そうで。挑発的な笑みが、否応なく人の視線を引き寄せる。
王は、そのまま視線を下ろす。フェンと、真正面から相対した。
「フェン・オルマイディ」
名を呼ばれ、フェンの背筋が強張る。
「王様が私の名を」
「そこをどけ」
それは王からの命令だった。
「禁忌の魔女は、俺が連れて帰る」
ざわり、と領民が息を呑む。
「魔物討伐よりも、どうにも面白そうでな」
フェンは、白の魔女の前に居座り、歯を食いしばる。
「王様」
一歩も退かず、頭を下げる。
「白の魔女は、我々ノクスグラートを救ってくださいました。どうか、寛大なご対応を」
王は、目を瞬かせた。
そして、くつくつと喉を鳴らして笑う。
「……何か、勘違いをしていないか?」
声音が、少しだけ低くなる。
「俺はな、禁忌の魔女を煮て食おうなどとは思っておらん。少し、気になっただけだ」
王の視線が、フェンの背後へ滑る。
白い外套。沈黙を貫く女。
「神様のように、聖女がごとく。という名声を国外にまで轟かせていた白の魔女様が」
笑みが、鋭くなる。
「なぜ、ネクロマンサーになったのか」
王は、興味を隠そうともしなかった。
「それを、聞いてみたくてな」
その視線が、初めて。
禁忌の魔女になってからのセレナを、真正面から捉えた視線だった。