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「やっぱり陽さんは男前で、カッコよかったっス!」
予約しているレストランに行く道中、ずっとこんな感じで自分を持ち上げる宮本に、橋本は心底うんざりしていた。
「おまえ、もう少しテンション下げろよ。これから行くところは、厳粛な雰囲気の店なんだぞ」
「絶対に駄目だと思ってたのが、陽さんのお蔭であっさり認められたのが嬉しくて、はしゃがずにはいられないんですって」
なにを言っても、こりゃダメだなと思った矢先だった。向かい側からやってくる人物とバッチリ目が合う。声をかけようとした瞬間に、見慣れたイケメンから先に声をかけられた。
「橋本さん?」
黒のコートの下にスリーピーススーツを格好良く着こなしたその人物と、今の自分の恰好を必然的に比べてしまい、内心落ち込む。
「恭介?」
レストランの店先で、タイミングよく鉢合わせになる。
「恭介もしかして、この店を予約しているのか? 予約しても、一年先からしか空いてないらしいのに」
「橋本さんこそ……。どうやってこの店の予約を、ゲットしたんですか?」
「馴染みの客がいつも世話になってるからって、プレゼントしてくれたんだ」
ハイヤーを使ってるお客様の情報を漏らすわけにはいかないので、さらっと流して答えた。
「高給取りのお客様ならではって感じですね」
(そういうおまえも、十二分すぎるくらいに高給取りじゃねぇか!)
「随分と含みのある言い方するのな。そういう恭介こそ、どんな手を使ったんだよ?」
「俺は会社から頑張ったご褒美という形でいただいたんです」
笑みを浮かべながら胸を張る榊に、橋本も対抗するように頬をあげてにっこり微笑んだ。
「お~、さすがは仕事のできる男は、貰うものも一流じゃねぇか!」
目の前で牽制し合う橋本に、宮本は袖をちょいちょい引っ張った。
「陽さん、そろそろ中に入りましょうよ。こんなところで揉めてる場合じゃないと思います」
「揉めてるわけじゃないって。恭介のことを褒めてたんだぞ」
キツい口調で返事をされたというのに、宮本はそんなの関係ないといった感じで目を瞬かせてから、正面にいる榊に話しかけた。
「キョウスケさん、すみません。陽さんが子どもみたいな態度で、突っかかってしまって」
太い眉毛ををしょんぼりさせて小さく頭を下げた宮本に、榊は慌てふためく。
「俺から突っかかる物言いをしたので、橋本さんは悪くないんです。宮本さん、頭を上げてください!」
謝る榊の隣で、和臣も会話に割って入る。
「宮本さん、本当にごめんなさい。恭ちゃんが橋本さんと、無意味に張り合ったのが原因なんです。僕の前で格好つけようとしたから」
「恭介、和臣くん、俺のほうこそ悪かった。まさかここで、鉢合わせになるとは思ってなくてさ」
謝罪した3人は、それぞれ頭を下げた。そのタイミングで、宮本が頭を上げる。
あとから頭を下げた面々はバツの悪い空気をひしひしと感じて、やっと頭を上げた。宮本は微妙な表情のメンツを見ながら、ひきつり笑いを浮かべつつ、パンっと大きな柏手を打って口を開いた。
「と、とりあえず一件落着ということで、中に入りましょう!」
宮本自ら榊たちを先に行かせるべく、背中をぐいぐい押す。
「宮本さん、お気遣いありがとうございます」
和臣が宮本に礼を告げて、にっこり微笑んだ。可愛い系美青年の和臣に至近距離で微笑まれた宮本は、ぶわっと頬を赤く染める。その場を取り繕うためなのか、意味なく両手を落ち着きなく動かした恋人の利き手を、不機嫌満載の橋本が掴んで動きをとめた。
「おい、なに顔を真っ赤にしてんだよ」
「だ、だって……」
「和臣くんは恭介のパートナー、しかも結婚してる。おまえがそんな顔してたら、恭介に噛みつかれるぞ」
言いながらてのひらを開いて、宮本の右手を解放した。
「俺、イケメンに免疫がなくて、ああいう笑顔を向けられると、どうやって対処していいかわからないんです。頭がパニくるというか」
橋本に掴まれた手首を撫で擦る姿を見て、思ったよりも強い力を使ってしまったことを知る。
「悪かったな、イケメンじゃなくて!」
しかも告げられた内容が胸にグサッとくるものだったこともあり、顔を明後日に向けて文句を言ってしまった。宮本はそんな恋人の態度に臆することなく、橋本の顔を両手で掴んで無理やり自分に向けた。
「陽さんはイケメンですよ。近くにいてやり取りしてるから、やっと慣れたんです。今でもときどき、困ることがあるんです」
目を逸らすことなくじっと見つめるまなざしから、心の内を語っているのが見てとれた。
「困ることって、そんなのいつだよ?」
「……今です。和臣さんにヤキモチ妬いてブーたれてる陽さん、すっごくかわいいです」
「ぶっ!?」
いきなり投げつけられた『かわいい』という言葉に、橋本の顔が真っ赤になる。しかも不機嫌な顔がかわいいと言われたせいで、どんな表情をしていいのかわからなくなった。
「申し訳ございません、お外でお待ちのお客様……」
遠慮がちな声が店先からなされた。宮本は慌てて掴んでいた橋本の顔を放し、姿勢を正して隣に並ぶ。橋本は赤ら顔を見せないように、俯いたままでいた。
「ご案内いたしますので、中にどうぞ。コートをお預かりいたします」
黒服の店員に促されて店の中に入り、エレベーターで最上階のフロアへと案内されたのだった。
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