テラーノベル
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最近、バニーと話していると妙に疲れる。
昔はそんなことはなかった。
エージェントだった頃は、もっと簡単だった。
選手の状態を確認する。
契約を整理する。
必要な交渉をする。
それだけだった。
今は違う。
仕事という明確な線引きがない。
だからこそ、バニーの言葉がどこまで本気なのか分からない。
バニー「……潔」
潔「ん?」
バニー「エージェントを辞めたこと、俺はまだ少し納得してない」
潔「前にも聞いたよ」
バニー「うん」
バニーは笑った。
バニー「でも、何度考えても同じなんだ」
潔「何が?」
バニー「潔に担当してほしかった」
潔は黙った。
バニー「俺が何を考えてるのか、一番分かってくれてたから」
潔「それは仕事だから」
バニー「またそれ」
バニーの笑顔が少しだけ消える。
バニー「仕事、仕事って」
潔「実際そうだっただろ」
バニー「そうだけど」
一瞬、店内の空気が変わった。
バニーはカップをテーブルに置く。
バニー「じゃあ、今の俺は?」
潔「……何が?」
バニー「今の俺には、潔にとって何もない?」
潔の眉がわずかに動いた。
潔「そういう話じゃない」
バニー「じゃあ、どういう話?」
潔「……バニー」
潔は静かに言った。
潔「俺はもう、お前のエージェントじゃない」
バニー「知ってる」
潔「だったら――」
バニー「知ってるって」
バニーは笑った。
けれど今度の笑顔は、以前よりずっと薄かった。
バニー「だから、客として来てる」
潔「……」
バニー「それなら問題ないでしょ?」
潔は答えなかった。
その言い方が、妙に引っかかった。
客。
確かにそうだ。
店に来て、注文して、帰る。
それだけなら何も問題はない。
ただ――
潔「……最近、俺がいる時間を狙って来てない?」
バニーの動きが止まった。
ほんの一瞬だった。
バニー「どうして?」
潔「毎回、閉店近くなんだよ」
バニー「偶然」
潔「そう?」
バニー「うん」
バニーは笑った。
バニー「でも、潔がいる時間の方がいいから」
潔の表情から、少しだけ笑みが消えた。
潔「……それ、どういう意味?」
バニー「そのままの意味」
潔「バニー」
バニー「何?」
潔「俺、そういう言い方は好きじゃない」
初めて、潔がはっきりと線を引いた。
バニーは黙った。
しばらくして、バニーが口を開く。
バニー「……ごめん」
潔「うん」
バニー「でも」
バニーは潔を見る。
バニー「嫌われるのは、もっと嫌だな」
潔は返事をしなかった。
その日から。
バニーは少しずつ変わっていった。
来店する頻度が増えた。
注文するものまで、昔の潔との会話から選ぶようになった。
バニー「これ、昔潔が勧めてくれたやつだよね」
潔「……覚えてたんだ」
バニー「もちろん」
別の日には、バニーが店内を見回してから口を開いた。
バニー「今日、誰と話してたの?」
潔「客」
バニー「名前は?」
潔「……なんで?」
バニー「気になっただけ」
また別の日。
バニー「今日は蜂楽と千切、来ないんだね」
潔の手が止まった。
潔「……なんで知ってるの?」
バニー「前に見たから」
潔「そう」
バニー「二人とも、潔と仲いいよね」
潔「まあ、常連だから」
バニー「そっか」
バニーは笑った。
バニー「……羨ましいな」
その言葉を聞いた瞬間、潔の中で何かがはっきりと切り替わった。
――警戒。
以前までは、
「昔の担当選手だから、少し距離感がおかしくなってるだけ」
そう思っていた。
けれど、最近は違う。
バニーは潔自身を見ている。
店長としてではない。
客として接してほしいわけでもない。
もっと別の何かを求めている。
それが何なのか、まだ潔には分からない。
だからこそ、警戒していた。
潔「……バニー」
バニー「ん?」
潔「俺に何か言いたいことある?」
バニー「あるよ」
即答だった。
潔の目が細くなる。
潔「何?」
バニーは少し笑った。
バニー「まだ言わない」
潔「……」
バニー「だって」
バニーは立ち上がる。
バニー「今言ったら、潔は俺を避けるでしょ?」
潔は何も答えなかった。
バニーは会計を済ませ、出口へ向かう。
カラン――。
ドアに手をかけたところで、振り返った。
バニー「じゃあ、また明日」
潔「……明日も来るの?」
バニー「うん」
潔「……」
バニー「だって」
バニーは笑った。
バニー「潔に会いたいから」
カラン――。
扉が閉じる。
店内に静寂が戻った。
潔はしばらく入口を見つめていた。
そして、小さく息を吐く。
潔「……やっぱり、前とは違う」
昔のバニーなら、こんな言い方はしなかった。
潔はカウンターに戻る。
それでも、頭から離れない。
――明日も来る。
その言葉が、妙に引っかかっていた。
コメント
1件
おおお、第5話めっちゃ良かった〜!!読んでるこっちの心臓がきゅってなったよ😭💕 昔のエージェントと選手っていう関係から、今はお客さんと店長っていう距離感になったのに、バニーが潔に会いたくてちょっとずつ踏み込んでくる感じがたまらない…!「潔に会いたいから」ってあんなストレートに言われたら誰だってドキドキするって!!潔が「警戒」してるって自覚するところも、大人の恋愛のじれったさが詰まっててエモすぎた…次の話も早く読みたいよ〜!🌟
#潔世一
橘 柚
710
#ミステリー