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「使い物にならなくなると分かっているのなら、壊すつもりで使えばいい」
俺の中の父は、そのたった一言のみで構成されている。
外付けなら他にもある。悪逆非道で、差別主義者で、他にも色々。そして、そのいずれにも、言葉の最後には必ず『あんな国にはなってはいけないよ』と、語尾がついていた。
きっと父さんは、多くの人の悪夢だったのだ。それでも、俺にとってはどこまでも父で、手を上げることなんて一度もなく、良きヒトだった。
父は悪いだけのヒトじゃない! 父さんにもきっと、素で話せた誰かがいたはずだ。その相手を探し出せたその時は、何時間だって昔話を聞きたい。
ついに、その手がかりとなるある噂を聞いた。『ナチスにはかつて、自分のすべてを許すほどの恋人がいた』と!
懸念はある。その相手がもし故人であったり、父さんと同じような亡国であった場合、意思疎通を図れる可能性は無くなる。
その場合は遺族や知り合いに聞くことになるだろうが、悪い可能性ばかりを追っていても仕方がない。
とりあえず、父さんの友達……の親族である、イタリアと日本に話を聞いてみることにする。
イタリアは物心がついている上でイタリア王国さん と同居している時期があったし、日本は大日本帝国さんの父親だ。
「ああ、ナチスさんの恋人? いるのは知ってるよ。また惚気られたって愚痴をよく聞かせられてたから」
「おおっ! じゃあ、聞かせてくれないか? 」
「ただね、名前は聞いても教えてくれなかったな。ナチスさんのこともいつも怒ってて怖いとしか言ってなかったし。変にプライバシー意識高かったから」
「そうか……」
相手の名前がわからないのは少し悲しいが、噂が事実だとわかったし、惚気を聞かせるぐらいに人間味のあるヒトだとわかった。良い収穫だ。
「日本にも聞くの?」
「あぁ、そのつもりだ」
「日本なら、ボクより有益な情報を知ってると思うよ」
「そうか! それは楽しみだ」
期待に胸を躍らせながら、日本に会う日を楽しみに待っていた。