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『”夏生”せんせっ♡やっほ〜!』はっと気づくと、そこには俺が担任しているクラスの生徒が立っていた。
(そうだ。ここは、ひなたのバイト先だったな。)
「おい、下の名前で呼ぶな。」
『なんで?いいじゃん夏生せんせっ♡』
「みんな、綿谷先生って呼んでるだろ…」
ちぇっと、不貞腐れた顔をして
『そんなにかたくなんなくてもいいじゃん…』
としょんぼり一言。
ひなたは、いわゆるクラスの陽キャに抜擢されるヤツで、いつもクラスでふざけている。俺にも、こんな高校時代があったらと羨ましい限りだ。俺が、黙り込んでいると、ひなたが心配して
『せんせ?、、、大丈夫?』
「ぁ、え、っといや、なんでもない。ただぼーっとしてて、」
俺を心配してくれたのだろうか、ひなたが俺の顔を覗き込んだ。俺はそのありがたみもわからないこんな野郎だから、過去に縛られてしまうのだろう。
『熱でもあるんじゃ、、』
ひなたが俺に触れようとする。そこで、ハッと思い出した。咄嗟にひなたの手を振り払う。
びくりと体を震わせ、目も見開いている。これでは、ひなたまで汚れてしまうではないか。
(俺はひどいやつだ。まだ、過去に囚われて……
こんな他人までぐちゃぐちゃにしたいわけではないのだけれど。)
こんなもの、全部俺の思い込みだって分かってるのに、あの日記憶は俺を深い海の底に沈める。
「ぁあ、ごめっ、、、全部俺のせいでっ、、、」
俺は、どんどん過去に飲み込まれていってあの日の葵の言葉が鮮明になっていく。
(あぁ…またか。)
ぴとっと、頬に冷たい感触が触れる。
『ごめんごめん先生…。大丈夫だから落ち着こ?』
突然我にかえり、ひなたの顔に目を向ける。
冷たいのになんだか落ち着く気がする…。ひなたの手はこんなに大きかったのか。両頬にある手に覆い被さるように触れ、
「ありがと。ひなたってなんか落ち着く。」
ひなたは頬をあからめ、目を逸らしながらつぶやく。
『ぃや、別に。そりゃどーも……』
よく見ると、パッチリとした二重ラインにきめ細かいシルクのような肌、高校生なのに背は俺より高い。
(きれいだな…)
少しドキッとして、思わず見惚れてしまった。
ひなたは、こんなに綺麗な顔をしていたのか。
一方俺の方は、何日も徹夜してクマがひどい今にも死にそうな顔。
「いいな……」
『え?なにが?』
クスリと笑みを浮かべながら、ひなたに返事をする。
「いや、なんでもない」
『______』
『やっぱり、せんせっ♡もっと笑った方がいいよ〜?』
俺の目の下のクマをなぞりながら、ニヤッと笑いアドバイスをした。
「…余計なお世話……」
『あっ!戻った〜』
今日はいい日になりそうな気がする。
担任をしていると言っても、ひなたとこんなに話したのは初めてだった。だけど、そんなに悪い気はしない。
俺ももう少し他人に興味を持たなくては……
(先生……可愛かったな………)
でも俺は、淡々とすぎていく日々に、何か喉に引っ掛かるような気がする。
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