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同時刻 下界
下界で毘沙門天の兵士隊と芋虫達に襲われている中。
泡姫に助けられた沙悟浄達は、泡姫の宮殿に訪れていた。
海中***
「泡姫様、お帰りなさいませ。そちらの方々は、お客人ですか?」
老婆の使用人が泡姫に頭を下げながら、沙悟浄達に視線を向ける。
「ええ、鏡の間に案内して頂戴」
「分かりました。皆様、こちらへ」
泡姫の言葉を聞いた老婆は背を向け、長い廊下を歩き出した。
「鏡の間?なんじゃそりゃ」
「着いたら分かるわよ」
猪八戒の問いに答えながら、泡姫は老婆の後ろを歩く。
「しっかし、人魚が暮らす宮殿だからか魚がうようよ居るなぁ」
「獲って食べたら殺すわよ、猿」
そう言って、泡姫はキッと李の事を睨み付ける。
「誰が猿だ!!!」
「いや、お前は猿だったじゃないか…」
李の言葉を聞いた胡が静かにツッコミを入れた。
「あははは、いつもこんな感じなの?こう言う人の事をなんて言ったかな…。あ、イジられキャラだっけ?」
「誰がイジられキャラだ!!!」
「そう言う反応する所が、馬鹿キャラなんじゃない?」
「イジられキャラから、馬鹿キャラに変わってんぞ!!!」
李と風鈴の会話を聞いていた丁が、溜め息を吐きながら口を開ける。
「お前等、他所様の家なんだから行儀良くしろって…。こんな姿見たら、若はなんと言うか…」
「悟空はそんな事では怒らないだろ。礼儀にうるさい所、見た事ないな」
「確かに、若は怒らないが淡々とものを語る方だ。まぁ、かなり昔の事だが…。あれは、美猿王様の方だったな」
沙悟浄と会話をしていた丁が、下を向きながら口を閉じる。
「まだ、美猿王の事が好きなんだろ?」
「好き…とは違う感情だ。だが、俺達はあの人の器のデカさと優しい所を知っている。お前も見ていただろ、いつぞやの闘技場で…。村長と花果山の猿達の変わり果てた姿をだ」
「あぁ、牛魔王と毘沙門天が猿達に酷い事をしていた事を、目の当たりにした瞬間だった」
そう言って、沙悟浄は白虎嶺(びゃっこれい)にいた時の出来事を思い出す。
悟空と訪れた闘技場で、悟空はかつての仲間だった猿達の変わり果てた姿を目にした。
猿だった頃の体ではなく、毘沙門天の手によって妖怪人間にさせられた姿を。
悟空の意識を奪い取った美猿王が、村長等の苦痛の声を聞き、自らの手で心臓を握り潰した。
ブシャッ!!!
美猿王は悲しむ顔を見せずに、淡々と仲間達の心臓を握り潰す。
殺した仲間に火を付け、火葬のように仲間達の魂を弔った。
「王として、終わらせてやったんだ」
両手を合わせ、目を瞑り、美猿王は仲間の為に黙祷を捧げた姿を沙悟浄は思い出していた。
「あの人は俺達の王として、仲間と村長の遺体を火葬してくれた。花果山では死者は火葬をして、魂を弔う。花果山の者達に花果山の弔いで、弔ってくれたんだ。嫌う事なんて、出来る訳ないよ」
「…、そうだな。あの光景を見ていなかったら、美猿王の事を冷酷な奴だと思ったままだった」
「馬鹿ね、あのお方はとても優しいのよ」
丁と沙悟浄の会話に泡姫が割って入って来た。
「美猿王様は私達、人魚にこの城を与えて下さった。安心して、魚達と暮らせるようにと」
「だけど、泡姫。お前は美猿王の女に刺されて、利用
価値がある女って言われてただろ?そんな事言われても好きなのかよ」
泡姫の言葉をきいた猪八戒が泡姫に問い掛ける。
「好きって言葉で簡単に片付けないでくれる?好きよりも上の感情で、美猿王様の事をお慕いしているのよ」
そう言いながら、泡姫が到着した鏡の間の扉を開けた。
キイィィ…。
開かれた扉の先に広がった数々の鏡達、壁に掛けられた全身鏡が沙悟浄達をも映している。
数本の蝋燭が灯された部屋の中心に轢かれた絨毯まで、泡姫達は移動した。
「ここで、下界の様子を見る訳ね」
「我々は地上には出ません。それ故に美猿王様が、我々にこの鏡の間をお与えになったのです」
哪吒の言葉に反応した老婆が、この鏡の間の説明をした。
「ここにある鏡は全て、映しの鏡。ありと凡ゆるモノを映し出す鏡よ」
泡姫の言葉に反応するように、映しの鏡に天界と下界の様子を映し出した。
天界に温羅と縊鬼、黄泉大津神等の暴れように沙悟浄達の目が点になった。
「おいおい、あの芋虫は悟空の母ちゃんが出してんのかよ!!!」
「伊邪那美命ではなく、冥界の女王、黄泉大津神なんだよ。冥界の怪物を呼ぶくらい簡単でしょ」
「まぁ、そう言われたら…。悟空の母ちゃんは美猿王側の人間だからなぁ…。かなり、俺達にとって厄介な存在には変わりないだろ?」
猪八戒の言葉を聞いた哪吒は黙って頷く。
「天界も天界で、ヤバイ事になってるねぇ。天帝達も、お手上げ状態じゃん」
風鈴が首を傾げながら、隣にいる沙悟浄に視線を向ける。
「鬼達が来るとは思ってなかったんだろ??それに、邪と黄泉大津神が天帝の部屋にある絵巻を燃やしちまった。あれって、観音菩薩が未来予知した未来が描かれた絵巻だろ?燃やされたらヤバイよな」
「美猿王が命令したんじゃないかな。あの人等にとって、あの絵巻は邪魔だったとか?」
「本当に奴がそれだけの理由で、絵巻を燃やさせたのかが疑問だ」
「もっと深い理由があるって事?」
疑問に思った風鈴は、続けて沙悟浄に尋ねた。
「あぁ、多分な。美猿王は俺達よりも。物事とか世界の事を考えてるんだと思う」
下界を映した鏡に美猿王と三蔵の姿が映し出され、沙悟浄は映った美猿王を見つめた。
「毘沙門天様と吉祥様が鬼達に虐げられてる…。どう言う事?何で、抵抗しようとしないの?」
「立場が百八十度変わったのが分からない?美猿王様の方が上になっただけ」
哪吒の呟きに答えながら、泡姫は鏡を指でなぞる。
「美猿王は五百年間と言う空いた隙間を、鬼達を復活させた事で埋めた。大きく時代が変わろうとしているんだわ」
「人魚姫の言う通りだ」
「「「っ!!!!???」」」
泡姫の言葉にこの場にいない知らない男の声が聞こえた。
沙悟浄達は一斉に声のした方に顔を向けると、天帝と如来の二人が鏡の間の部屋の前にいた。
「えぇぇぇ!!?な、なんでここに…、アンタ等が!?」
「馬鹿!!テンパリ過ぎて言葉使いが乱暴になってる。天帝殿だろ?」
「あ、そうだった…。すいません、天帝殿」
猪八戒と沙悟浄のやり取りを聞いていた天帝は、微笑みながら二人に言葉を投げ掛ける。
「言葉使いを気にする事はない、楽に接してくれて良い。私達がこちらに来たのは、ついさっきだ。明王が転移札を使ってくれてね?下界の海中に到着したんだ。君の召使い達がここに案内してくれたんだ」
そう言って、天帝は泡姫に視線を送る。
「毘沙門天達には神力がない状態なんだ。私が二人の神力を奪ったからね、天界にも来れないようにしている」
「だから、美猿王に抵抗出来ないって事?」
「彼等に美猿王は止められないよ。きっと、彼等は目の当たりにしたんだ。生物が感じる上下関係を」
哪吒の問いに答えた天帝の様子を、如来は眉間に皺を寄せながら見つめていた。
「天帝、少し休んだ方が良い。すまないが、休める部屋を貸してくれないだろうか」
「あ、はい。こちらに…」
「観音菩薩、少し席を外す。明王と天部は観音菩薩の側に居てくれ。天帝、こちらに」
「あぁ、君がそう言うなら。少しだけ休ませて貰おうか」
天帝を連れ、如来と泡姫の使用人達は鏡の間を出て行った。
「天帝って、あんな感じだったかな?哪吒」
「そうだったような、そうじゃないような。あまり、
天帝と関わった事がないから分からない」
「うーん、ちょっと二人の後を追い掛けて来る」
「あ、おい風鈴!!!」
哪吒の言葉を無視して、風鈴は天帝達の後を追うように鏡の間を出て行った。
***
風鈴が天帝達を追い掛けている中、天帝達は客室に案内されていた。
「客室ですが、こちらをお使い下さい」
「分かった、お前は人魚姫の所に戻って良い。天帝の事は俺が見ている」
「かしこまりました」
如来の言葉を聞いた使用人は天帝に頭を下げてから、客室の扉を閉める。
パタンッ。
「どう言うつもりかな?如来それから、ヒノカグツチ」
如来は静かに天帝に刀を向け、ヒノカグツチは天帝の背後に立っていた。
「おいおい、天帝様よ。シラを切るのはいただけねえな?」
「鬼達が侵入出来るように仕向けたのは、貴方だろ天帝」
ヒノカグツチと如来が同時に、天帝に尋ねた。
「私が鬼達を?面白い事を言うね?如来。君はこんな事が聞きたくて、私を下界に連れて来たのか?」
「不可解な事は他にもある。寺の集落は仏教を司どる者しか知らない場所、鬼達が襲撃出来たのは誰かが場を教えたからだ。貴方が鴉を使って、誰かに文を送っていた事は知っていた」
「へぇ、それで?」
「その相手は、美猿王だったんだろ?」
如来の言葉を聞いた天帝の顔から微笑みが消えた。
***
タタタタタタタタタッ!!!
「泡姫様!!!大変で御座います!!!」
大慌てで老婆が廊下から走って来た様子から、泡姫は何かを察知した。
「落ち着きなさい、婆や。何があったか、ゆっくり話してちょうだい」
「す、すみません。実は、宮殿周辺に武装した天界人が集まっていて…」
「何ですって?」
泡姫はすぐさま近くにあった鏡に触れ、宮殿周辺を確認する。
鏡に映った天界人は多く見て数百人が、泡姫達がいる宮殿を包囲している状態だった。
「ど、どやべー状態になっとるやないかーい!!!」
「うるさいわ李!!!叫ばなくても、この状況見たら誰でも分かるわ!!!」
「コイツ等、今からここに乗り込んで来るつもりだろ!!!」
李と胡が言い合いをしてる中、沙悟浄と猪八戒、哪吒は自分達の武器を抜き始めた。
「俺達の居場所がバレてんだろうな」
「俺達を消す気満々じゃねーのよ。泡姫、戦えない人魚達はどこかに隠れてもらった方が良いな」
沙悟浄と猪八戒の言葉を聞いた泡姫は、目を点にさせながら答える。
「え、えぇ…。まさか、あの数を相手する気?」
「当たり前、そうしないと私達が殺される。ここには天帝もいるから、戦うしかない」
哪吒の言葉を聞いて動揺する泡姫に、沙悟浄が声を掛けた。
「心配すんなよ、泡姫。死にはしないから」
「心配なんかしてないけど…、馬鹿な人達って思っただけ!!!」
「あははは、そうか。それなら良かった」
「泡姫様!!!天界人の奴等が宮殿の中に入って来ました!!!」
沙悟浄と泡姫が話していると、老婆が大声で叫んだ。
「丁達、行けそうか?」
「俺達はいつでも行ける」
「了解、行くぞ!!!」
猪八戒達は鏡の間を飛び出し、天界軍達との交戦を始めた。
***
同時刻 天界
重傷を負った飛龍と黄泉大津神、温羅達の戦いは続いていた。
「おい、観音菩薩。何で、天帝と如来の二人だけで下界に行かせたんだよ」
「如来に頼み事をしたんだ。最近、天帝の様子が変だったから」
「変って何だよ」
観音菩薩は明王に短く端的に説明すると、天部が口を開いた。
「成る程、それで如来に頼んだのですね。確かに、この件は彼が適任でしょう」
「アイツ、観音菩薩の事になると見境ねーからな」
天部と明王の言葉を聞いた観音菩薩は、苦笑いしながら呟く。
「酷い奴だとは思わない?如来の事を言いように使って」
「おいおい、どうしちまったんだよ。そんな事言い出してよ」
「未来予知で見た未来が。どんどん書き換えられて行く。天帝の気持ちが知りたいから、如来に頼んだ」
「観音菩薩、しっかりしろよ。お前らしくない事言ってんじゃねーって」
観音菩薩の言葉を聞いた明王は、肩を叩きながら慰めの言葉を投げ掛ける。
「見えたんだ、これからの未来…、いや。近い未来に起こる未来が」
「どんな未来だったんですか」
天部の問い掛けに、観音菩薩が答えようとした時だった。
「まずい、彼だけは助けないといけない!!!」
「「観音菩薩!!?」」
顔を真っ青にさせた観音菩薩がいきなり走り出し、明王と天部も慌てて後を追い掛けた。
「隊長!!!下がってくださ…、グアアアア!!!」
「おいおい、二人の戦いに水を刺すなよ?最愛の恋人との再会でもあるんだからよ」
刀に付着した血を払いながら、温羅が飛龍隊の隊員達を見下ろす。
温羅の背後には、重傷を負った飛龍隊の隊員達が地面に転がっていた。
返り血で真っ赤に染まった温羅は、息切れすら起こしていない。
それは縊鬼も同様、巨大な髑髏を操りながら天界兵と飛龍隊の隊員達を踏み付けている。
ズシャッ、ズシャッ、ズシャッ!!!
「隊長、ここは引きましょう。貴方が死んでしまったら…」
「俺は大丈夫だっ、雲嵐っ…。伊邪那美命、俺達と敵対する気なのか?」
雲嵐に支えられながら鳴神は立ち上がり、目の前にる最愛の女を見つめた。
「私達の息子は美猿王だ!!!腹を痛めて産み、この腕で抱き上げた赤子こそが美猿王だったじゃない!!!どうして、須菩提祖師が作った人格の悟空の方に味方するのだ」
黄泉大津神は叫びながら、鳴神を睨み付ける。
鳴神自身も美猿王が自分の息子だと理解していた。
だが、封印されていた鳴神の目の前に現れた悟空の事を愛おしいと思ってしまった。
自分の封印を解く為、かつての仲間達の封印をといた
悟空の姿は、父親を助ける為に動く息子そのもの。
「親父」と呼ぶ悟空も「鳴神」と呼ぶ美猿王も、鳴神にとっては息子なのだ。
「答えろ、飛龍。何故、息子の野望を叶えてやらないのだ」
カチャッ。
そう言って、黄泉大津神は鳴神に刀を向ける。
「確かに、美猿王は俺達の息子だよ。悟空も俺達の息子で、アイツは俺の為に雲嵐達の封印を解いてくれたんだ」
「隊長…」
鳴神の言葉を聞いた雲嵐を含めた隊員達の目に涙が溜まる。
「悟空も美猿王も、この世界を変えようと戦ってる。二人共、やり方が違うだけなんだ…、ゴホッ!!!」
「隊長っ!!!もう話さない方が良いです。伊邪那美命様、隊長と貴方は深く愛し合っていたじゃないですか…。どうして、二人が争わないといけないのですか」
血を吐いた鳴神を後ろに下がらせた雲嵐は、黄泉大津神に問い掛けた。
「まるで、悪人を見るような視線を送るな。何故、争うか?この世界を終わらせ、新しい世界を作り変えさせる為。さっきの言葉で分かった、鳴神の気持ちがな。戦う理由ならある。幸せになる為に、この世に存在する神共を殺す。それを邪魔する者は殺す」
そう言って、黄泉大津神は刀を振り上げる。
「伊邪那美命殿!!!殺してはダメだ!!!」
「観音菩薩殿!?貴方が何故、ここに!?」
背後から現れた観音菩薩を見て、雲嵐が驚きの声を上げた。
「邪魔しに来たのか。丁度良いな、ここで殺しておこう」
カチャッ。
ダンッ!!!
地面を足の裏で強く踏み付け、温羅が勢い良く飛び出して来たのだ。
「あの野郎、観音菩薩を殺すきだっ!!!」
カチャッ。
ダンッ!!!
迫って来る温羅を見つけ、すぐさま金棒を構えた明王が前に飛び出す。
「させないよ」
「っ!?」
ブンッ!!!
キィィンッ!!!
飛び出した明王の目の前に縊鬼が現れ、素早く刀を振り下ろして来た。
間一髪の所で明王が金棒で刀の攻撃を受け止める。
「そこを退け、鬼!!!」
「退くわけがない。これは絶好のチャンスなんだから」
「このクソガキッ!!!」
キィィィンッ!!!
縊鬼は明王を観音菩薩の所に行かせないように、刀を振り下ろす。
「天部!!!お前だけでも観音菩薩の所に行け!!!」
「言われなくても、そのつもりですよ!!!」
バサバサッ!!!
梟の姿になった天部が縊鬼の隣を通り過ぎた瞬間、天部の目の前に大きな骸骨が現れる。
「言ったでしょ、二人共行かせる気はないって」
「このガキ!!!ふざけた事ぬかしてんじゃねーぞ!!!」
「ふざけてない、大真面目」
ブンッ!!!
キィィィンッ!!!
足止めを食らった明王と天部の姿を見た飛龍隊は、二人の代わりに温羅の足止めに入る。
「どれだけ人を寄越しても無駄なのに」
「んだと?」
「温羅は僕達の中で、一番強いんだ。普段はそんな感じ見せないけど」
明王はすぐに、縊鬼の言った通りの結果を目にする事になった。
ズシャッ、ズシャッ!!!
「グアアアアアアア!!!」
「コイツ、マジでヤバイって…!!!」
飛び散る赤い血の中を足を止める事なく、温羅は進み続ける。
々と止めに入って来る飛龍隊の隊員を斬り付け、観音菩薩の前に到着した。
勢いが止まる事がない温羅は、流れ作業のように観音菩薩に向かって刀を振り下ろした。
ブンッ!!!
「避けろ、観音菩薩!!!」
明王の叫び声を聞いた観音菩薩だが、体が動かないでいた。
「っ!!?」
「バーカ、もうおせーよ」
ブシャアアアアアア!!!
温羅が振り下ろした刀が観音菩薩の左肩に食い込み、勢いよく血が噴き出した。
「「観音菩薩ー!!!!」」
明王と天部の苦痛の叫び声が響き渡る。
***
同時刻 修羅道
白虎の先導により、地下道を通りながら右軍の拠点地に向かっていた。
「こんな地下道があったんだ…」
「えぇ、この道を見つけたのは最近なんですけどね。この道を真っ直ぐ進んだら、右軍の拠点地に着きますよ」
湿っぽい地下道を進みながら、地上から聞こえる戦場の音を聞く。
「ねぇ、白虎。一個だけ、聞きたい事があるんだけど…、良い?」
「えぇ、良いですよ?どうしましたか?お嬢」
「ここにいる人達は…、白虎は何を思って、ここで戦ってた?」
小桃の言葉を聞いた白虎は足を止め、小桃の方を振り向いた。
「他の連中は、前世で犯した罪の事を悔やんでいた。生活が困難で強盗し、人を殺した奴や理由もなく殺しをした奴もいました。ソイツ等は皆、許しを待ってるんですよ」
「許して貰う為?」
「俺は人になって、お嬢の事を守り易くなった。いつか、お嬢に会える日を信じて戦をしていました。戦う理由はそれぞれですが、必死で戦ってる奴等は下界に大切な人を残した奴等です。皆、会いたいから戦ってます」
白虎の言葉を聞いた小桃の脳裏に、悟空と牛魔王、百花の顔が浮かんだ。
「やっぱり、このままじゃ…、ダメだよね」
「お嬢?」
「牛魔王が悟空にした事、百花ちゃんが白虎にした事は許される事じゃない。だけど、このまま相手の気持ちを聞いてないのは良くない!!!」
「お嬢は優しいですね、本当に菩薩みたいな方だ」
白虎の目には小桃が神々しく輝いて見えていた。
人を許す心の広さ、慈悲の心を持った小桃は菩薩のように見えていた。
「世の中、そんなに甘くはないぞ小桃。勝者がいれば敗者がいるように、誰かの幸せは誰かの不幸の上で成り立っているのだ。小桃、皆はお前のように優しい奴等じゃないのだよ」
「うん、鴉さんの言う通り。小桃が甘い事を言ってるのは分かる。小桃が嫌なの、もう我儘でも良いからするって決めたんだ」
「あははは!!!そうか、我儘か。確かに、白虎の言う通り菩薩のような女だ」
小桃の言葉を聞いた鴉は大声で笑いながら、白虎に視線を向ける。
「当たり前だろ。お嬢、この階段を上がったら右軍の拠点地の屋敷内に入れます」
白虎の先導で小桃達は階段を上がり、右軍の屋敷内に潜入が成功した。
物置小屋からそっと出て、小桃達は奥の部屋へと進むと巨大な鳥籠の中にる百花が姿を現す。
「小桃…。何で、アンタがここにいんのよ」
「百花ちゃんを迎えに来たの、二人を止めに行こう」
そう言って、小桃は百花に手を差し出した。