「アバッキオ…。反省していますか?」
「……ああ」
部屋に響く怒りを含んだ声と気持ちのこもっていない声。それは齢16の少年と21の男の声である。しかし、この2人決して普通の人間ではない。彼らは最近勢力を伸ばしている『パッショーネ』という組織の首領と直属の部下の1人である。
「ブチャラティでなくとも分かりますよ。貴方が全く反省していないと」
「…」
どうして少年は怒っているのか。それは男の身勝手な行動が原因である。
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「ジョジョ様、『ラフィン』の首領殿が貴方様とお話がしたいと申しておりますが…」
「ああ、今行きます」
それは昨日のパーティで起こった事であった。流石と言うべきかパッショーネの首領はピッツァを食べる時間もない程に忙しかった。
「これはこれは、パッショーネの首領殿。やはり話で聞いていた通りお若いようで」
『ラフィン』は60年代から続く組織ではあるが、パッショーネよりも小さく、パッショーネを良く思っていないと噂されている組織である。ジョルノは今の発言で噂の真実を悟ったようだ。それはアバッキオも同様である。だがしかし、それを顔に出すことはない。そんな事をしていたのならばこの世界では生きていけない。
「ええ、そうですね。ところでどのようなご用件で」
「要件と言うほどでもないのですが、一度パッショーネの若き首領様とお話をしてみたくて」
「では、もう宜しいでしょうか?まだ話をしたいという方々がいるんです。」
「まあまあ、そうお急ぎにならず…。ほら紅茶でも如何ですか?飲料を飲む暇もなかった事でしょうから」
怪しい、こんなにも怪しいものを誰が飲むと言うのか特に親交を深めてもいない組織の如何にも毒入りですといった、飲み物を。そこまで、このジョルノは馬鹿にされているのか。屈辱的な事をされた気分だが、そんな人間に言葉を返したのはジョルノではなくアバッキオであった。
「いいえ、遠慮しておきましょう。ジョジョ様も喉は乾いていないようですので、お気持ちだけ頂戴しておきます。」
「…、そうですか。ではお忙しい中時間を割いてくださりありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。今後ともラフィンの皆様とは良い関係を築いていきたいと考えておりますので、宜しくお願いします。それから紅茶、ありがとうございました、Grazie」
「そうですね。それではArrivederci」
その時だった。会場から奇怪な声が聞こえてきたのだ。アバッキオはすぐにジョルノと目配せをした。何せここには、政治家やギャング組織等の人間がいる訳で誰かが狙われているのかも知れないということ。当然パッショーネの首領であるジョルノも命が狙われているという可能性を秘めている。それにここには幽波紋使いではないものもいるのだ。自己防衛のできない人間もいる。
「ジョジョ様、どう致しますか?」
「…、アバッキオは自分の事を守っていてください。」
「?!ッ…、承知しました」
次の瞬間、辺りに銃弾が飛び散る。マシンガンかショットガンかどちらかの銃を使っているようで何発もの弾丸が会場を横断する。会場は混乱と恐怖と殺意に蹂躙され叫び声や泣き声が響き渡る。
「クソッ、ミスタのやつかブチャラティがいれば良かったんだが…。」
「弾道を見る限り、誰かを狙っての攻撃ではないようです。が、銃というものはいずれ弾切れが起こります。ここは静かに待つことにしましょう」
「ああ、下手に出て撃たれちゃあ敵わねえ」
その時だった。唯叫びながら弾丸をぶっ放しいていた男が唐突にある言葉を放ったのだ。
「何処だあ?!何処にいやがる、レオーネ?!いるのはわかっているんだからなあ??!!」
「は?俺?」
「アバッキオ。男に見覚えは?」
「い、や…誰だ彼奴?」
男が呼んだのはアバッキオのファーストネーム。だがしかしアバッキオには見覚えがないようだ。
「だが、ここで俺が出ずに被害が出ればパッショーネに泥を塗ることになるかも知れねえ。いってくる」
「いや、ここは僕が出ます。貴方は身の安全を」
「それじゃあ、俺の示しがつかねえ。首領の部下なのに首領に守られてちゃあいけねえ。」
「でも、僕は貴方をまた失うような事態にはなりたくないんです!」
「死なねえよ」
「!」
「あんな野郎に殺されてたまるか。第一俺には帰る家がある。」
「……危険は犯さないでください」
「ああ、分かってるよ」
「何処にいる?!レオーネ!!何処だ!!」
「ここだよ、阿呆」
アバッキオが出たことにより会場から銃声が消える。しかし静寂とは言えない。ゆっくりと男はアバッキオの方は顔を向ける。
「…ああ、レオーネ。俺のレオーネ。やっと出てきてくれたんだな」
男は喜びと安堵で顔を埋め尽くしながらアバッキオに寄る。
「俺をファーストネームで呼ぶんじゃあねえ。反吐が出る。それから俺に近づくな、無論他の人間にもだ。銃を捨てろ」
その瞬間、男は激怒だと言わんばかりの顔をした
「俺に命令するんじゃあねえぞ!!!!レオーネ!!いつからそんなに偉くなったんだぁ?!」
「ああ、やっとテメェを思い出したよ。イディオータ・ウマーノ。俺が警官だった時のセクハラクソ上司だ」
男の名前は『イディオータ・ウマーノ』アバッキオの元上司、それもセクハラ野郎だ。アバッキオの記憶から削除されていてもおかしくはない。
「へっクソ、クソねえ?そのクソにヘコヘコしてたんは何処のどいつだよ」
「さぁな。で、どうして今更俺に会いにきた?」
「大事にしてた部下がギャングまで堕ちたと聞いたら会いたくなるもんだろ〜w?」
「それはそうかもしれねーが、どうして銃ぶっ放しながら登場してんのかって話だよ」
「こうでもしねえとお前は出てこないだろう?サプライズってやつだヨォ。サプライズ。嬉しかったろう?」
「驚きはしたよ、だがな、テメェのサプライズももう終了だッ!!」
その瞬間、アバッキオは凄まじい速さでイディオータに近づく。そんなアバッキオを予測していたかのようにイディオータはアバッキオに銃口を向けた。
「んな事だと思ったぜぇ?レオーネェ!!」
「アバッキオ?!!危険です!!」
「…」
ドドドドドドッ!!
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「…悪いとは思ってる」
アバッキオは目を伏せがちにそう答えた。
「僕はですね、本当肝を冷やしたんですよ。なんせ恋人が銃を持った人間に突撃していくわけですからね」
「…分かってる」
「アバッキオに身を守ってほしいと言ったのはジョジョじゃあなく、ジョルノなんです。」
「…ああ」
「今度はこんな無茶な真似…、絶対にしないでください」
「…ああ、誓うよ」
「…でも本当に良かった。」
「貴方を失うなんて僕には想像できない。一緒に生きたいんだ。レオーネ。貴方と生き、喜びを分かち合い、互いの傷を癒やし、隣で寝て朝が来る。これ以上の幸せは僕にはないんだ。」
ジョルノはこの上ないほど甘い声でアバッキオを抱きしめる。
「僕と生きてください、レオーネ。貴方がいなくては僕は水のない水槽で生き絶える熱帯魚のように死んでしまう。」
「レオーネ、お願いだ…。頼む、頼むよ」
アバッキオに縋り付くようにジョルノは弱々しく愛の言葉をアバッキオに告げる。
「…ジョルノ、お前」
暫く黙っていたアバッキオが突然ジョルノに顔を向け、声かける。その顔は
「よくもまあそんな小っ恥ずかしい事言えるなぁ?」
真っ赤であった。熟成したリンゴのように赤く染まり、ジョルノを見上げていた。2人は何も言わずに顔を寄せお互いを包むようなキスをした。彼らの夜はまだはじまったばかりである。
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