テラーノベル
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テレビ収録が終わったあと。
現場の空気が少し落ち着いたタイミングで、髙野と綾華、そして藤澤は、そっと目を合わせた。
若井がいないタイミングを選んでいるのは、偶然じゃない。
「……ちょっとさ」
髙野が先に口を開く。
「さすがに、あれはやりすぎじゃない?」
藤澤も静かに頷く。
「若井のこと、完全に外してたでしょ。わざと」
綾華は少しだけ視線を落としてから、まっすぐ
元貴を見る。
「バンドってさ、そういうのじゃないと思う」
元貴は壁にもたれたまま、興味なさそうに笑う。
「別に。あいつ、いなくても回るでしょ」
その一言が落ちた瞬間、空気が止まった。
髙野が小さく息を吐く。
「……それ、本気で言ってる?」
元貴は視線を逸らさない。
「だって邪魔じゃん。ああいうの」
“ああいうの”。
若井のことを、まるで物みたいに切り捨てる言い方だった。
その瞬間だった。
綾華が一歩前に出る。
「……元貴」
いつも穏やかな声が、少しだけ低くなる。
「それ言ったらダメなやつだよ」
元貴は鼻で笑った。
「は?何が」
次の瞬間。
ぱちん、と乾いた音が鳴った。
頬に軽い衝撃。
綾華の手だった。
強く殴ったわけじゃない。
でも、確かに“止めるための一線”だった。
「……それ以上は言わないで」
綾華の声は震えていない。
怒鳴りもしない。でも確かに強かった。
「バンドって、そういう言葉で壊すもんじゃない」
元貴は一瞬だけ固まる。
頬にじんわりと熱が残る。
けれど、その熱が痛みとして理解される前に、感情が先に動いた。
「……意味わかんな。」
低く吐き捨てる。
そして、そのまま背を向けた。
「勝手にやってろよ」
そう言い残して、スタジオを出ていく。
ドアが閉まる音だけが残る。
三人は動かないまま、その背中を見送った。
しばらくして、髙野が小さく言う。
「……あれ、相当だな」
藤澤も眉をひそめる。
「若井、知ったらどうするかな」
綾華は手を見つめたまま、静かに答えた。
「言い方は間違えたかもしれないけど……あれは止めないとダメだった」
その頃。
外に出た元貴は、歩きながら無意識に頬を触る。
まだ少し熱い。
なのに、頭の中に残っているのは痛みじゃない。
(あいつのせいだ)
すぐに浮かぶのは、若井の顔だった。
いつも通りの笑顔。
誰にでも優しい、あの感じ。
それが、なぜか一番腹立たしい。
(ほんと、いなくなればいいのに)
そう思った瞬間、自分の中でその言葉が妙に重く響く。
でもその奥に、別の感情が混ざりかけていることには、まだ気づけないまま。
ただひとつだけ残ったのは、
前より少しだけ強くなった、理由の分からない苛立ちだった。
コメント
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こんにちは! こんな神作品に出会えて幸せです💞 今一気見してきましたw もうなんかギスギスしてる感じが いいですね(*^^*) あやちゃんが手を出すなんて 相当ですね❕ 次の更新楽しみにしてます✨
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