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陰気をぶちまけたように暗く染まった空の下、君は死人の様に横たわっていた。うつらうつらと舟を漕ぐこともせずまるで大船に乗るかの様な心地で、だ。
「起きろよ…いい加減」
耳にタコが出来る程繰り返し忠告するが一向に届かない事を区切りとし、言葉が糸(意図)の切れた様に断たれた。ピタピタと何時までも続く雨垂れの様なリズムを経って、初めて君は起きると信じたから。
「んぅぅ…起こせよ。」
穏やかだった回転音がにわかに嵐のように高まるのを鬱蒼に払いながら、またしても沈黙を貫く。お釈迦話の様に荒唐無稽を統し、ただ意味もなく空間をふらつく。霧のように不透明な彼女と対話するのは正直言ってかなりの重労働。だがしかし泡沫の様に儚い彼女の息を誰も屠る訳にはいかなかったのだから、仕方ないであろう。強がっているだけで一枚の紙の様に軽くて頼りない彼女の威厳は常に最低値だ。賞味してみればそれは手に取るように明らか、白昼夢よりも鮮やかで眩しいだけの話。何ら恐くない。
「ねぇ。聞いてる?
耳でも壊れたの?」
投げ出すように強く息を吐いて明白に苛立ちを付け上がる彼女に此方は嫌々応答すべく都合の良い走馬灯をかけ流す。鏡のように向かい合った実態が虚像のように似ている感じに強く反発を狼狽して身を削る。似て非なるものではない。此れは完全に掌握されてしまった感傷だ。
「煩いなぁ。なんだい」
生暖かく湿った生き物の様な夜の空気がこの身を嫌という程馴れさせようと肌を冷たく生ぬるい感情に突き落とす。不意討ちにも程があると言うもんだろう。
「取り敢えず、今日はもうここにいて良いから静かにしててよ。親御さんにも、一応連絡通したから。」
此方も投げ出すように強く息を吐く、ふーっと鯨が潮を吹くような溜め息が辺りに深く散漫と生きざかる。
硝子のような透明な大気が自ずと身を漕がす。
網の目の様に複雑に絡み合うそれは、舞姫の様に手を手繰り、因果を手の内に見事に収めている。
「なんか疲れてそうだね。ダイジョブそ?」
ここ最近の標語みたいな台詞を前に胃の中に火が着いた様な熱さが走る。
だが、それもどうでも良いのだ。