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◇◇◇◇
城下町は昼の陽気に包まれて、雑多の音が散らばっていた。
馬車が通る車輪の音、子どもたちの笑い声、露店の呼び声。
その中を、セレナは楽しそうに歩いている。
「こうして町を歩くの、久しぶりね」
「そうだな」
隣を歩くフェンが肩をすくめた。
「あの王、俺を魔物討伐の責任者にしやがって。ろくに休みも取れん」
「陛下は貴方を信頼してるんじゃない?」
「違うな」
フェンは否定した。
「俺をセレナのそばにいさせたくないだけだ」
セレナは首を傾げる。
「なぜ?」
「なぜってそれは……」
フェンは一瞬言葉を詰まらせる。
「セレナが分かっていないなら、俺からは言いたくない」
「そう? なんでかしら」
本気で分かっていない顔。
フェンは額を押さえた。
「……鈍いにもほどがあるだろ」
そのとき。
「男の嫉妬とは見苦しいな」
背後から声が聞こえた。
「あっ、陛下」
振り向いたセレナの視線の先。
静かな威圧をまとって、レオニスが立っていた。
「ゲッ」
フェンの本音が漏れる。
「なんだフェン・オルマイディ。今日も魔物討伐ではないのか?」
「今日は休みです」
「そうか。まだ休みが取れる量か」
レオニスはわずかに目を細める。
「……今日の休みは堪能しておけ。明日からは仕事だ。当分、休みは取れなくなる」
「男の嫉妬とは見苦しいですよ、レオニス陛下」
「嫉妬ではない」
即座に返す。
「事実を言っているだけだ」
二人の視線がぶつかる。
空気が、ぴりりと張り詰めた。
「二人とも落ち着いてください」
セレナが慌てて間に入る。
左右から漂う殺気に気づいていないのか、気づいていても気にしていないのか。
フッとレオニスがセレナに視線を落とす。
「どこへ行くつもりだった」
「今日はフェンとパン屋を巡ろうかと」
「……そうか」
一瞬の沈黙。
「ついて行ってもいいか」
「はい」
フェンのこめかみがぴくりと動く。
さっと二人の間に割って入る。
「陛下、私には聞かないのですか?」
「セレナに聞けば十分だ」
「私は遠慮していただきたいのですが」
にこりと笑って言う。
「城に戻ってお仕事でもなされた方が賢明かと。国政も危うくなってきましたし」
周囲の空気が一段冷える。
「魔物討伐団長の分際で、俺に指図するのか?」
「いえ。ただ事実を申し上げただけです」
「ほう」
再び視線が激突する。
パチパチと、音がしそうなほどの火花。
「仲良くしてください!」
セレナが両手を広げて間に入る。
「今日は楽しい日なんですから」
その無邪気さが、逆に二人の胸をざわつかせる。
歩き出す。
だが、
「近い」
「陛下こそ距離をお取りください」
「俺はセレナの護衛として当然だ」
「今日は私が護衛です」
「俺の方がセレナを守れる」
「そうですか? 試してみます?」
「面白い」
周囲の町人たちは、ひそひそと囁き合う。
「あれ王様だろ?」
「狼族のフェンだ! カッケェ」
「修羅場か?」
そしてようやく、目的のパン屋が見えてきた。
焼きたての香りが漂う。
セレナは目を輝かせる。
「わあ、いい匂い!」
その笑顔に、二人は同時に視線を奪われ、そして同時に、また相手を睨む。
平和な城下町に、見えない火花が散り続けていた。