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────溢れ出る光であまり見えないが、メレシーの体はどんどん膨張し…まるでメレシーでなくなってゆくように、変化する!
象徴選抜を引き受け始めて以来…見たこともない現象だった。
デュランタは確信した──200年に渡った象徴選抜は、今日…そして今を持って成功すると!!
だが…デュランタが少し目線を下に向ければ、床を這い始めた黒い影に気付く。
驚き、再び目線をメレシーに戻すと──
その体はメレシーではなく、どちらかと言えば少しだけ人型に近い…伝承の妖の象徴、ディアンシーと似た姿になっていた。
だが、巨大な腕と悍ましい形の頭になっている上…
…目が血のように赤い光を放っていた。
ダーティ災害の影響をもろに受けた、オヤブンに見られる現象だ…!
デュランタが危険を察知し大声を出すと同時に…
ディアンシーのようなものから全方位に向け、光と共に岩が放たれる!!
間一髪で岩の盾を作り相殺した。
デュランタ「ゴホッ、けほ…」
あたりは攻撃で生まれた砂埃で見えない。ルディアとコブシもだ。
確かコブシはデュランタからディアンシーの反対側に、ルディアはディアンシーの正面にいたはず──
数秒経ち、砂埃が多少薄くなる…
デュランタ「!!!」
ルディアは大剣から放出された光で小さな盾のようなものを作り、防いでいるが…
…コブシの腕と胴体に、小さい岩がいくつか刺さり、血が出ている。
デュランタ「コブシィッ!!!!!!!」
ルディア「コブシ!?」
ディアンシーの方を見ていたルディアもコブシの方に目をやり、ハッとする…
が、構えを崩さず…すぐに眼の前の敵を睨みつけ、全神経をディアンシーに向ける。
ディアンシーは動かず、何も見つめず、ただそこに居る…
デュランタ(くそッ!コブシが…!コブシが!どうすれば…どうすれば!!)
(落ち着け…!冷静に!!)
本を取り出し、ページに貼り付けられた葉に触れる。
デュランタ(『十八変化の草本』!!)
無意識的にか、意識的にか──応用力のある、草に適応することを選んだ。
だがどっちから対処する?
コブシを安全な場所に?ディアンシーを抑えなければそれも叶わない?
だがディアンシーは最初の一撃からは動かず佇んでいる──刺激したら危うい?
ならば岩でコブシを隠した方が安全だった?
思考と懸念が駆け巡るが、行動しなければならない。
そして腕を横に払うと腕からツルが生え、それが腕に巻きつき…
そのまま手のひらを地面に当てると…ツルがルディアのさらに背後、洞窟の入り口の方に這い…
そしてコブシの方に伸び、巻きつけ、引き寄せる!!
それと同時にデュランタも出入り口に向かって走る…
デュランタ(今、仮定ディアンシーは動いていないんだ!猶予は…少しあるのだろう!このまま行動されないことを願い、コブシを安全な場所に運ぶのが…恐らくベスト…!!)
ツルで引っ張られ空中を舞ったコブシを、抱えてキャッチする。
そしてそのまま光の差し込む出入り口に駆け出すが…
ディアンシーの方から、異様な岩の軋む音が聞こえる。
だが振り返る余裕はなく、ただ走った…
そしてルディアは、ディアンシーの姿をずっと捉えていた。
とても『象徴』だとは思いたくないような、気味が悪い気配を放っているが…それに気圧されず、それに押し込まれないために、構えと目線を解かなかった。
初撃から動かなくなった敵に対して『待ち』の姿勢が正しかったかどうかはひとえに疑問だが、ルディアの直感がそうさせた……
その時、ディアンシーのその肥大化した奇怪な腕が上がり…振り落とされる!
そして地面と激突し、ディアンシーを中心に桃色の光の柱が、強烈な迫力と共に縦に放出される!!
そして、揺れで立っていられなくなる…!
ルディア「おわわわっ!?」
デュランタ「ッ…!……ッ!?」
「足場が崩壊するぞ!!!」
洞窟全体の地面が、衝撃で崩れ落ちてゆく!
デュランタ「ッく!!!」
抱えていたコブシを、間一髪で洞窟の外に放り出すことに成功するが…デュランタ自身は落ちてしまう。
ガラガラガラ…
衝撃で生まれた破片が落ちる音がする。
あたりに宝石が散りばめられた広々とした空間に落ちた…
光の柱の影響で洞窟の天井には大きく風穴が開き、光が差し込んでいる。
デュランタ(この洞窟の下に、こんな空間があったのか…?)
幸い高度はそこまで離れていなく、膝をついたデュランタとルディアもすぐに立ち上がる。
自分たちが落下で深手を負わなかったことに、少し安堵する。
そしてディアンシーも上からふよふよとゆっくり降下してくる。顔も体も動きがなく、不気味だ。
デュランタ「ルディア…気をつけろ。最大限の注意を払わねば、死ぬぞ…!」
ルディア「…わかってる。」
いつもと違い淡々とした態度で、決してこわばった顔とディアンシーへの目線が動かない。
あの陽気で太陽のようだった性格が嘘のようだ。苦境に踏み込んだ彼女は、こんな顔をするのだと…
デュランタはその様子に少し戸惑うが、目線を目の前のディアンシーに戻す…
デュランタ(こいつはまた動かない…この隙に攻撃したら反撃してくるのか?)
(…仕掛けるとして、ルディアの大剣の光は効くのか?明らかに硬そうな岩の体に『光』のエネルギーが通じそうだとは思えないが…メレシーには効いていたな。希望はあるか…?)
(そして僕の特性の限界が来るのもそう遠くなさそうだ…すでにエネルギーが尽きかけた代わりに、特性の原動力を自らの体力としているところまで来ている。おかげで体があまり動かない…)
「ルディア!大剣の光はまだ持つか!」
ルディア「分かんない!多分持つ!」
デュランタ「僕が君の補佐をしてやる、だからあれに効くように最大限の一撃をブチ込め!」
ルディア「分かった!!」
デュランタはディアンシーに向けてダッシュしながら懐のノートを取り出し、ノートに貼り付けられた極々薄いスチールに触る。
同時にルディアも少し横にずれて走り出す。
デュランタ(やられる前にやるんだ…『十八変化の鋼本』!!)
手を合わせて、それを離すと…両の掌の材質が鋼に変化する。
走りながら両手をディアンシーに向けると、手のひらから鉛色の液体が噴出し、ディアンシーにかかる。
デュランタ「液体金属だ…!」
手を握ると同時にディアンシーにかかった液体金属が硬化し、体の大部分が鋼に覆われる。
そして鋼に染まったディアンシーにジャンプして触れると…硬化した鋼が波のようにうねり出す!
デュランタ(覆・鋼・発・破!!!)
ディアンシーを覆った全身の鋼が、爆弾のように激しく散る!!!
ほんの少しだけ後ろにのけぞり、頭が後ろに傾く。
攻撃の衝撃を活かし、デュランタはわざと後ろに吹き飛ぶ…!
デュランタ「ルディアァッ!!!」
その時、ルディアはディアンシーの背後に回っていた…
デュランタから己にバトンが回されたのだ。緊張が走るが、いつも通り修行で習った動きを再現する。
大剣を握りしめて胸のすぐ前に掲げ、目を閉じ、息を吸ってから…目を開ける。
動作を始めてから約0.9秒、準備が整う。単純でありながらただならぬ集中力が要る工程だが、1年もの修行がその動きを、仙人の足元に届くほどの域に達させたのだ…
そして、すぐさま叫ぶ。
ルディア「世界に──光を!!!」
大剣に光が集い、この薄暗い空間にとっては明るすぎるほどに輝く!!
そして剣を斜め上に掲げ、跳び、斬りかかる…!!!
…
…
光を纏った大剣は、ディアンシーを斬るとともに爆発的なエネルギーを放出し、辺りを吹き飛ばした。
しかし土煙で何も見えず、その末はまだ分からない…
そしてデュランタは地べたに座り込み…限界を迎えていた。
デュランタ(どうなった!?…頼む、倒せていてくれ…!)
(これで…終わりであってくれ!)
時間とともに土煙が引いてゆき、ディアンシーの姿がぼんやりと現れてゆく。
その眼に写った光景は…
デュランタ「なっ……! ……チィッッ…!!」
一太刀で斬られた壁と床は大きく抉れているが、その上に難なく立っているディアンシーが見える…
攻撃により岩の体が5分の1ほど崩れ落ちていたと思えば────すぐに、再生してしまった。
デュランタ(ッ再生まで…!?ははっ…覆鋼発破は岩のような材質に対する最大の攻撃手段だったんだが…それにルディアの光を加えてまで、このザマか…)
ルディアは反撃を喰らったのか、頭から少量の血を流して壁に叩きつけられてしまっている…
斜めに傾いていたその岩の頭が元に戻る。
そして、上半身の宝石が輝きだす!
デュランタ(ッ…攻撃の構え…!?)
(くそ!もう身体がほぼ動かない…!せめて万全な状態で挑めていたら…)
(ルディアも息こそしているが、限界が来ている…!)
(…)
認めたくは無かった。
敗色、濃厚────
(僕ができるのは…もう…こんな事しか!!)
震える両手でゆっくりと地面に触る…
(十八変化の…岩本!)
岩の腕がルディアを掴み、勢いよく空洞の上…先ほどの洞窟まで運ばれる!
ルディア「ちょっ…!?デュランタ!?」
デュランタ「洞窟には近づくなと、部族民に伝えろ…!」
ルディア「デュランタ!!!!?!?ねえ!!ちょっ…」
空洞の上の穴が、岩で塞がれ…空洞内にいるのはデュランタとディアンシーのみになった。
デュランタ「…」
「散々足掻いてきた結果が…これか。」
「妖の象徴…今のお前はダーティ災害に呑まれているだけだが…それを承知で吐き捨てる。」
「クソッタレが…!」
昔に僕とコブシの両親は、軽い紛争に巻き込まれて死んでしまった。
ひどくショックを覚え、今すら感覚が抜け切っていない。
人は、死ぬのだと。
人は…こんなにも突拍子なく死ぬのだと。
人は、こんなにも突然不幸に呑まれるのだと。
だが集落の民たちは二人きりになってしまった僕たちに優しく接してくれ、面倒を見てくれた。
迷惑をかけている痛みと肉親を失ったトラウマで、孤独に泣き崩れることもあったが…僕よりも前を見ていたコブシを見て、自分も正気を保てていた。
集落は暖かかった。
独立した部族ながらも外界に『適応』することをモットーにしたテキオリョクへの憧れを表し…僕の特性にも、『適応力』の名を付けた。
いつか、どん底から世界に適応するために。
いつか、テキオリョクにふさわしい人間になるために…
だが…それももう終わりだな、デュランタ。
コブシも来ない。最期も孤独だな。
知恵じゃ何も変えられなかったな、デュランタ──
ルディアは結晶空洞の上の洞窟に戻されていた。
岩で塞がれた穴にガツガツと大剣をぶつけているが、あまり効果がある手応えはしない。
ルディア(どうしよう…デュランタが死んじゃう!)
(くっ…)
「世界に──」
光を放出する詠唱をしようとしたその時、後ろから肩をポンと叩かれる…
一方下の空洞では、ディアンシーの周囲に浮遊する尖った岩が大量に浮かぶ。攻撃の前兆だろう。
デュランタは動けず、ただ目を瞑り、受け入れるのみだった…
その時!
天井の岩が崩れ…
ルディアと…岩を破壊したであろう、コブシが降ってくる!