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門をくぐった瞬間、いくつもの視線が俺をかすめた。昨日まではただのざわめきに過ぎなかったものが、今日はひとつひとつの視線が俺を値踏みするようで――そこに神崎の眼差しが紛れ込んでいる気がしてならなかった。
昇降口の前で、奏がぱっと笑顔を咲かせ、大きく手を振った。奏の笑顔は太陽みたいに変わらず眩しい。その光が嬉しいのに、胸のどこかがちくりと痛む。まるでその笑顔が俺ではなく、神崎のほうを照らしてしまうんじゃないかと、ありもしない想像が勝手に膨らんでいく。
『――君が大事にしてる奏は、俺が一番よく知ってる。君よりも、ね』
不意打ちのように、その言葉は油断していた心に鋭く刺さった。俺は僅かに瞳を細め、呼吸を整えてから奏に歩み寄る。
「おはよう」
「おはよ! 今日は少し早いね」
他愛もないやり取り。それなのに、自分が無理に声を軽くしていることを感じていた。奏の表情には、昨日の影がまったくない。それが救いなのか、それとも別のものなのか、答えはまだ出ない。
教室に入ると、同じクラスの神崎がふと視線を上げ、俺と目が合った瞬間、ほんの僅かに口元を緩めた。挑発でも嘲笑でもない。むしろ優しい笑みに近いその表情が、かえって俺の胸をざわつかせる。
休み時間。隣のクラスから奏がわざわざやって来て、机に腰をかける。週末の予定を楽しそうに話しはじめ、その声は本当に嬉しそうで――だからこそ、俺はあえて言葉を飲み込んだ。
神経質になっている俺が今ここでなにかを言えば、それは間違いなく棘になる。
(……奏を守るって決めたのに。神崎に言われたたったひと言で、どうしてこんなに動揺しているのだろうか)
窓の外、風が校庭の砂をさらって舞い上げる。その砂は舞い散りながら、俺の胸の奥にも静かに降り積もっていく。気づけば息をするたび、胸の奥でざらついた重さが増していった。