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スタジオを出たあと、
元貴は妙に口数が少なかった。
さっきまで若井の肩に寄りかかっていたこと。
弱音を吐いたこと。
全部、頭の中で反芻して、勝手に後悔している。
「……さっきのこと」
エレベーターの前で、元貴が足を止める。
「忘れろって言っただろ」
「うん、無理って言った」
「……本気で言ってるなら、距離考えろ」
その言葉に、若井は一瞬だけ目を瞬かせた。
「元貴さ」
「自分が弱くなると、俺から離れようとするよね」
「当たり前だろ」
「メンバーだし、迷惑――」
「迷惑なら」
若井は被せるように言う。
「元貴のほうから近づいてこない」
沈黙。
元貴は言葉に詰まる。
「……俺、ああいうの嫌なんだよ」
「誰かに甘えてる自分」
若井は小さく息を吐いて、元貴の前に立つ。
「じゃあさ」
「俺が勝手に甘やかしてるってことにしよ」
「は?」
「元貴は何もしてない」
「俺が離れたくないだけ」
そう言って、若井はそっと元貴を抱き寄せた。
強くない。でも逃げられない距離。
「……やめろ」
声は低いけど、抵抗はない。
「元貴が嫌なら離すよ」
「でもさ」
若井は耳元で、静かに言う。
「嫌なら、俺の名前呼べる?」
元貴は息を詰める。
「……卑怯」
「うん」
しばらくして、
ほとんど聞こえない声で。
「……若井」
その瞬間、若井の腕に少し力が入った。
「ほら」
「離れたい人の呼び方じゃない」
元貴は悔しそうに顔を伏せる。
「……俺の前でだけだからな」
「知ってる」
「だから、逃げようとするたび捕まえる」
元貴は小さく舌打ちして、でもそのまま身を預けた。
「……ほんと、嫌なやつ」
「元貴にだけね」
エレベーターの扉が開いても、
二人はしばらく動かなかった。